第211話 腹芸?
さすがにタイル公爵の命まで奪うのは気が引けるわ。
「ダン。そこまでは必要じゃないんじゃない? タイル公爵の権力を剥奪すれば事足りるでしょ?」
「ジョージ様はタイル公爵を甘く見ております。タイル公爵は仮にもエクス帝国経済の雄です。領地に引っ込んだら、力を付けて反撃される可能性が高いです。いや必ず反撃してきます。中央の勢力と地方の勢力は違うのですよ。地方では縁故や義理が中央より重んじられます。タイル公爵に
「ダンの言い分は理解できるよ。たぶんそれが正しい選択なんだろうね。でもバラス公爵家の恨みを買わないかな? タイル公爵が当主を降りれば、バラス公爵家の後継ぎは確か10歳の男の子だよね。タイル公爵の命を奪えば、その息子である次期バラス公爵はグラコート伯爵家に恨みを持つと思うんだ。これは負の連鎖に入ってしまわない? どこかで止めないと。グラコート伯爵家が有利の状況で引くのもありだと思うんだけどどうかな?」
「戦略としてはあります。長い目で見ればその方が良いかもしれません。しかしジョージ様はタイル公爵のポーラへの執着を忘れてはいませんか? グラコート伯爵家がポーラを保護している限り、タイル公爵は諦めませんよ」
「タイル公爵は純愛を拗らせているんだよね? それならさスッキリさせてあげれば良くない? 恋煩いは必ずしも不治の病じゃないよ」
その後、ベルク宰相とダンは俺の提案を了承してくれた。
これでタイル公爵とバラス公爵家の処罰が決定したことになる。
①タイル公爵はバラス家の当主を降りる。
②タイル公爵は領地にて蟄居する。
③タイル公爵はバラス家の事業から完全に手を引く。
④次期バラス公爵家当主はグラコート伯爵家に対して詫び状を書く。
⑤バラス公爵家からグラコート伯爵家に50億バルトの謝罪金を支払う。
⑥オリビア・バラスを早急にバラス公爵家から離籍させる。
⑦バラス公爵家は今後一切ポーラとオリビアに関与しない。
⑧次期バラス公爵当主とジョージ・グラコート伯爵が、エクス帝国政府の前で友好を確認する。
まぁこんなもんだよな。当主が変わるバラス公爵家は大変そうだけどね。10歳の新当主じゃ周りのサポートが必須だもんな。
そういえばこの間会ったコールド・バラスはどうなるんだろ? バラス公爵家の養子になったんだよか。元々はドットバン伯爵家の三男だよな。
まあ俺には関係無いか。
「さて、ここからもう一つジョージさんにお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
世間話でもするような気さくな雰囲気でベルク宰相の話が始まった。
「実はジョージさんには4月のアリス皇女の戴冠式に合わせて、公爵になっていただきたいのです。ジョージさんは崩御されたザラス皇帝陛下に忠誠は誓いましたが、元皇太子であるカイト・ハイドース侯爵には忠誠を誓いませんでした。エクス帝国政府としてはジョージさんにアリス皇女に忠誠を誓って欲しいと思っております。エクス帝国としては忠誠に見合ったものをジョージさんに用意をしたいのですが、ジョージさんは領地に興味が無さそうですし、金銭も意味がないと思われます。あと出来ることは爵位だけになります。是非、ジョージさんには公爵になっていただきアリス皇女に忠誠を誓って欲しいのです」
アリス皇女への忠誠か。
アリス皇女の魔力の質は、清涼で優しい魔力だよな。
侵略戦争をわざわざやる感じでもない。
別に忠誠を誓ってもグラコート伯爵家として問題は無さそうだよね。
俺が了承の意を示す前にダンが先に口を開いた。
「誠にありがたい申し出ではありますが、グラコート伯爵家としてはお受けできません」
え、そうなの?
ダンの言葉に目が細くなるベルク宰相。
「それではグラコート伯爵家はアリス皇女に忠誠を誓わないという事ですか」
「話を誤魔化さないでいただきたい。アリス皇女への忠誠については後日グラコート伯爵家の総意として返事をさせていただきます。お断りさせていただくのは我がグラコート伯爵家当主であるジョージ・グラコートが公爵になる事です。これは何があってもお受け致しません」
少し驚いた顔を見せるベルク宰相。
「爵位が上がる事を拒否されるとは思いませんでした。エクス帝国建国史上初ではないでしょうか」
ふん!っと鼻を鳴らすダン。
「演技はもう良いですよ、ベルク宰相。私も貴方も基本的に合理主義者じゃないですか。無駄な時間は省くに限ります。貴方の腹芸は私には通じませんよ。どうせアリス皇女の婚姻の話が上手くいってないんでしょう?」
何がどうせなんだ?
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