第210話 論陣を張る二人
1月15日〜1月18日
朝は茜師匠から剣術の指導だ。龍闘流剣術の体捌きは脱力をどれだけできるかが肝だそうだ。無駄な力をどこまで削ぎ落とせるか。
しかし、俺はまだその段階にない。
俺は去年1年間だけでおかしいほどにレベルが上がっている。体内魔法の身体能力向上も規格外だ。その能力に振り回されているみたい。まずは自分の身体を制御できるようにならないと剣術を教えられる段階にならないって茜師匠に言われた。
俺はひたすら茜師匠から教わった身体操作の訓練を黙々とやっている。
地味にキツい訓練だったりする。
その横でダンが茜師匠から龍闘流剣術を教わっていた。茜師匠曰く、ダンは筋がとても良いらしい。
2人ともなかなか楽しそう……。
少しだけ疎外感を感じるがダンと茜師匠が仲良くしてくれる事はグラコート伯爵家臣団にとって良い事だ。
午前中はダンと茜師匠を修練のダンジョンに連れ出している。まずはレベル50まで上げないとね。ドラゴン討伐だからすぐに上がるかな。
午後はエクス帝国軍の騎士団と魔導団の引率。もうそろそろ充分かな。何とかエルバト共和国の外交官が来る前に間に合ったか。1月21日からエルフの里に行く予定だから良かったよ。
そんな日々を過ごしていたらベルク宰相からお呼びがかかった。内容は先日のタイル公爵の件とだけ伝えられた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
1月19日【青の日】
朝からダンを連れてエクス城を訪れた。
真っ直ぐベルク宰相の執務室に案内される。
「本日はご足労ありがとうございます。明後日にはエルフの里に向かうのですね。ジョージさんはエクス帝国にとって大事な方ですので、気をつけて行ってきてくださいね」
「お気遣いありがとうございます。アリス皇女の戴冠式には間に合うように戻ってきます」
まずは軽い挨拶をして来客用ソファに座った。
向かい側に座ったベルク宰相の顔を良く見ると少し疲れているように見える。タイル公爵の件で各所の調整に労力を使っているんだろうな。
「既にダンから詳細は聞いていると思いますので、エクス帝国政府の希望を聞いてください。まず大前提としてバラス公爵家の取り潰しはしない。これについてジョージさんは受け入れてくれるでしょうか?」
バラス公爵家を取り潰すといろいろと歪みが出そうだよね。
俺は隣りのダンを見た。
頷くダンを確認してベルク宰相に了承の意を伝える。
「ありがとうございます。次にタイル公爵の処罰についてです。タイル公爵は先日の貴族会議で偽造された文書で告発を行いました。これは貴族私文書偽造違反に当たります」
うん? ダンの説明だと
何故にベルク宰相は上級を省いた?
俺の疑問を
「エクス帝国政府としては、これは由々しき問題と捉えております。そしてバラス公爵家に自ら罰する機会を与えました。一昨日、バラス公爵家から返答が来ました。内容はタイル・バラスはバラス公爵家の当主を降り領地に移り住ませる。そしてバラス公爵家の事業から完全に手を引かせる。簡単に言えば権力を全て剥奪して、田舎に
あんなに権力に固執していたタイル公爵が、その権力を全て剥奪されるのか。結構厳しいな。
「ハハハハ。お話になりませんね。ベルク宰相はバラス公爵家から
ダンがベルク宰相を睨んでいる。ベルク宰相のダンを見る眼も怖い……。
エクス帝国が誇る知の英傑の2人が静かに闘いを開始した。
「鼻薬を嗅がされたとは随分な物言いですね。
「それならベルク宰相には病院に行くことをお勧めしますよ。まさかここまで
ダンの嫌味にベルク宰相の片眉が上がる。
「ダン、貴方の口の悪さは知っておりますが、それは直したほうが良いですね。グラコート伯爵家の恥になりますよ。元上司としてそれを是正できなかった事が残念でありません」
「私は耄碌した人の忠告は聞く気がございません。それよりタイル公爵の処罰をそのような軽いものにするとは、グラコート伯爵家としては認めるわけにはいかないですね」
「軽いですか? 私はそうは思いませんが」
素知らぬ顔で返すベルク宰相。しかしダンがそれを許さない。
「確かに貴族私文書偽造違反ぐらいなら、その処罰で問題無いでしょう。しかしタイル公爵が犯した罪は
「さすがに国家反逆罪で処罰しましたらバラス公爵家は取り潰しになります。最初にジョージさんにバラス公爵の取り潰しはしないと確認を取らせていただいております」
「バラス公爵家の取り潰しをしない事は了承致しましたが、タイル公爵の処罰には何も了承しておりません。タイル公爵はできれば死刑、最低でも国外追放処分は譲れません」
死刑? 最低でも国外追放処分? 厳しくないか?
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