第209話 純愛の形
「今日の貴族会議ではエライ目にあったよ」
俺は寝室で今日の貴族会議で起こった事をスミレに話した。
「本当にベルク宰相はジョージと目が合ったのに助けてくれなかったの?」
「そうなんだよ。酷いだろ。俺の気持ちを知ってるくせに放置したんだよ。おかげで気が緩んでしまって大変だったんだから」
「大変って何?」
あ、トイレに駆け込んだ話はスミレにしてなかった……。さすがに我慢できなかったのを知られるのは恥ずかしいもんな。
「いや、まぁ、いろいろとね」
「何かしら? 私には言えない事なの?」
「そりゃ少しはスミレの前でカッコつけさせてよ。自分の情けない話はしたくないじゃん」
「私の前では自然体でいて欲しいわ。どんなジョージでも私は受け入れるわよ」
優しく微笑みかけるスミレ。
しかし騙されちゃいかん! ちょっとの油断が取り返しのつかない事に発展するかもしれない。
「やっぱり止めておくよ。スミレに愛想を尽かされたくないからね。自ら墓穴は掘りたくないな」
「ふーん。そうなんだ。どうせ話すことになるんだから、意味の無い抵抗ね」
スミレの目が……。そしてスミレの手が俺の股間を
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
グラコート伯爵家の寝室は正に地獄と化した。
「う、うぉーー!!」
今晩、3度目の俺の叫びだ。
俺の股間から顔を上げるスミレ。子供を諭すように優しく、そして妖艶に語りかける。
「まだ抵抗するの? 夜はまだまだこれからよ。諦めたほうがジョージのためよ」
スミレの攻めは留まることをしらない。こちらも攻めに転じたいがそれも上手く受け流されてしまう。
ベッド上での戦闘力に差があり過ぎる。いや戦闘にすらなっていない。
スミレに俺の情けない話をしたく無いが、ベッドの上で醜態を晒してしまえば意味がないような……。
結局、俺は5度目の叫び声を上げたところで、この地獄の
もう寸止め地獄は懲り懲りだ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
1月14日【緑の日】
朝からダンの説明の補足をされる。
ダンはタイル・バラス公爵の身辺を丁寧に洗っていた。
タイル公爵にも
べ、別に涙なんか出ないしな。でも俺も親友が欲しいなぁ。
ダンはこのタイル公爵の竹馬の友から情報を得ていた。
このタイル公爵の竹馬の友はドット・ベルーガ子爵。押しも押されぬエクス帝国芸術界の大家だ。先日、俺が修練のダンジョンに連れて行った3人の彫刻家の1人でもある。
なんでもドッド子爵は俺をモデルに彫刻や絵画を作成したいようで、それをネタにダンはタイル公爵の情報を引き出したそうだ。
それにしても自分の芸術のために親友の情報を売るなんて……。芸術家の
ドッド子爵は明確に断言した。タイル公爵はポーラに一目惚れしたと。
女遊びが激しかったタイル公爵だったが、ポーラに対してはどうして良いかわからなかったそうだ。
またタイル公爵の父親の前バラス公爵は厳格にタイル公爵に教育を施していた。この世は権力である。その権力とは金であると。貴族第一主義の選民思考も強かったそうだ。
それが爆発した結果がポーラへの
その後、タイル公爵は父親にポーラと結婚したいと申し出る。しかし父親は認めなかった。
歴史あるバラス公爵家に平民の血を入れるはずがない。もしポーラと結婚するのならお前をバラス公爵家から離籍する。金も稼げないお前の意見は聞く必要が無い。お前の結婚相手は
当主の父親は取り付く島がなかった。
タイル公爵は相当悩んだようだが、バラス公爵家から離籍される事を選べなかった。その決断はポーラを捨てる事に繋がった。
それからタイル公爵はポーラへの想いに蓋をして権力を追い求め始めた。バラス公爵家に取って権力とは金である。
ポーラを捨てる事になったのは自分に権力が無かったから。その為タイル公爵は権力に妄執する事になる。
そして父親が亡くなり、自分がバラス公爵家の当主になった。
タイル公爵の頭を抑えつけていた重石が無くなった。
その瞬間、蓋をしていたポーラへの思慕の情が溢れ出す。ポーラを手にいれたい。しかし一度捨てた俺を恨んでいないか? 平民の1人の女性くらいは自分の権力でどうとでもなる。その為の権力だ。でもそれで嫌われたら……。
「結局は
俺はダンの辛辣な意見を静かに聞いていた。
タイル公爵のポーラへの執着を理解したよ。一度手放さなければならなかった女性。だからこそ執着してしまう。
純愛って言葉は綺麗なイメージだけど、このような形になる場合もあるんだなぁ。
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