第208話 何をするかより誰とするか

「さて、実は気になる事がありまして、よろしいでしょうか?」


 ダンが気になる事? なんだろ?


「何が気になった? なんでも言ってよ」


「今日の貴族会議ですが、私は別室から一部始終を見てました。ベルク宰相は、冒頭すぐにジョージ様をアリス皇女の隣りの席に移し、アリス皇女のジョージ様への過剰なお触りを止めませんでした。あからさまでしたね。明らかにベルク宰相はジョージ様とアリス皇女を男女の仲にしようとしております」


 そうだよね。間違いないよね。俺もそう思うよ。


「そこで改めてジョージ様のお気持ちを聞かせてください。ジョージ様はアリス皇女を娶るつもりはないのですか? アリス皇女を娶ればジョージ様はエクス帝国一の権力者になります。またアリス皇女と子供ができればその子がエクス帝国の皇帝陛下になるでしょう。そのままロード王国の美姫であるパトリシアも娶れば、ロード王国も手に入ります。ジョージ様がその気になれば、エクス帝国もロード王国もほとんど労力をかけずに手に入ります。また二つの国が合わさればエルバト共和国と肩を並べる経済力になります。エクス帝国とロード王国を手に入れ、その後に北と東の国々を平定。あとはゆっくりと南下していき、エルバト共和国を倒せば大陸統一を達成できます。私の見立てでは、急いで1年。焦らず丁寧にやっても3年程度で大陸制覇ですね。成功確率はとても高いです。いや失敗するほうが難しいかもしれません」


 以前、カイト元皇太子が言っていたな。

【力ある物には成し遂げなければならない責務がある】【世界中の美味い食事を食べ、大勢の美人の女を侍らせたいだろう。今と比較にならないくらいの贅沢な生活を送れるぞ】

 そんなのクソ喰らえだ。

 でもダンは大陸制覇とか夢見ているのかなぁ。


「去年の9月の臨時貴族会議でも言っているからダンも知っていると思うけど、俺は大陸制覇ってものに興味は無いんだ。俺の夢は温かい家庭を作ることだよ。その夢の実現にはスミレが欠かせないんだ。俺はスミレに約束したんだ。【何があろうと幸せにしてみせます】って。だからスミレが悲しくなる可能性が高い、他の女性との婚姻はあり得ないよ。もしダンが俺を通して大陸制覇を夢見ているなら、それには俺は応えられない」


「ジョージ様は面白い事を考えますね。斜め上ですよ。私がジョージ様を通して大陸制覇の夢を見る。そんな事考えるわけないじゃないですか。ジョージ様がどのような性格をしているかしっかりと把握してから、グラコート伯爵家臣団に入りましたから」


 まぁダンのやる事にそつがあるわけないわな。でも何でダンはグラコート伯爵家臣団に入ったんだ? 確か平民だからエクス帝国の文民だと出世できないって言ってたよな。あとは何を言っていた。

 あっ……。


「前にダンが俺の人生に賭けたほうが大きな果実を手に入れられそうって言っていたよね。大きな果実って大陸制覇をした英雄の軍師とかじゃないの?」


「なるほど、ジョージ様は勘違いをなされている。ジョージ様は大陸制覇よりもスミレ様と築きあげる温かい家庭のほうに魅力を感じております。それと同じですよ」


 それと同じ? どういう事?


「人生で大切なのは、何をするかよりも誰とするかです。気の合わない人と遊ぶよりも、気の合う人と労働していたほうが何倍もマシです。私は貴方と何をするかではなく、貴方と時間を共有したいのですよ。ただ、どうせ時間を共有するのなら、やり甲斐があって楽しい事もしたいですけどね」


 確かに嫌いな人と遊びに行くより、仲の良い人と仕事していたほうがマシだな。でもどうせなら仲の良い人と遊びに行きたいけどね。

 でも俺ってそんなにダンに好かれていたのか……。ごめんね。もう爆ぜろとか、禿げろとか思わないようにするよ。


「ジョージ様から改めてスミレ様の愛情を確認できて良かったです。ジョージ様はアリス皇女を娶るつもりは更々さらさら無いってことですね。しかしそれならば、ベルク宰相に釘を刺しに行く必要がありますね。あの人が暗躍すると碌でもありませんから。その時は私もジョージ様に付き添いますから」


 ダンがベルク宰相に釘を刺しに行く!?

 何か凄ぇのが見られそう。

 俺の温かい家庭の為にダン様よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る