第207話 ナニを握っただけなのに……。

「先日、私はジョージ様に裏切り者に対してどのように対処するか尋ねました。覚えておられますか?」


 そりゃ覚えているよ。

①裏切られた結果、どの程度の不利益が生じたのか。

②許容できない不利益だった場合はそれなりに責任を取ってもらう。

③情状酌量の余地があるかどうか判断する。


 最後は個別に判断する。

 こんな感じの返事をしたよな。


「まずはザインがタイル公爵に提供した情報です。11月の半ばにアメリアと付き合い始めてザインはアメリアに、グラコート伯爵邸での人間関係や雰囲気を常に話しております。まぁ直接的な重要な内容は含まれておりませんが、こういう情報は謀略を仕掛ける時に威力を発揮するんですよね」


 まぁ仕事場の愚痴を彼女に話すようなもんだな。


「直接的な情報提供は12月13日の夜にザインからアメリアにされております。オリビアの母親のポーラがグラコート伯爵邸に居て、今後保護されそうだと。また後日、ポーラがグラコート伯爵邸で寝起きしている部屋の場所を教えてもいます」


 うーん。結構灰色ぐれーだな。なんでポーラを保護した事とポーラの部屋を教える?

 俺が腑に落ちていないとダンが補足してくれた。


「タイル公爵からはジョージ伯爵が娘であるオリビアを側室にすれば全てが上手くいくと言われたようです。それでオリビアに関する情報は全て上げて欲しいと。オリビアの母親であるポーラの情報をあげたのもそのせいですね」


 なるほどねぇ。上手い事ザインから情報を得るもんだ。感心するわ。


「あとは私がジョージ伯爵の家臣団になる事とかですか。まぁそれは市中でも噂になりましたから」


 市中で噂になっている情報はそんなに重要じゃないか。


「ただ、12月19日の深夜にグラコート伯爵邸に賊が侵入しております。侵入しようとしたのがポーラが寝起きをする部屋でした。この時、ザインはタイル公爵を疑っております。しかしザインは信じたく無いのかそれを考えないようにしてしまった。この時、全てをジョージ様に話すべきでしたね。まだ取り返しが付く段階でした。私に拘束されてからじゃ遅いですから」


 そうなるか、でもそうなんだろうな。

 確かにあの晩のザインは呆然としていたな。目の前の流血沙汰に驚いていると思っていたけど違かったかもしれないな。


「ジョージ様が先日おっしゃっておられました内容ですが、裏切られた結果、生じた不利益はありません。先日話された内容ですと、ザインについてはお咎め無しとなります」


 確かに不利益は無かったな。不利益が無いのだから許容できない不利益もない。責任を取ってもらう必要もないか。

 でも何か腑に落ちないな。


「まず今回のザインは籠絡されてから期間が短かった事。まだジョージ様が謀略を仕掛ける貴族じゃなかったため、不利益が生じませんでした。運が良かっただけですね。また忘れてはならない事はザインがタイル公爵の指示で動いたと言うことです。ザインはグラコート伯爵家に勤めております。他家の当主、ましてや敵対している当主の指示で動いたことは重大な背任行為です。また忠誠を誓ったはずのグラコート伯爵家の情報を外に流すなどもっての外です。そこはジョージ様にはグラコート伯爵家当主として認識してください」


 そうだね。当主として考えないと駄目な事もあるよな。

 マリウスとナタリーの事を考えながらも、凛とした対応も必要だね。


「ありがとう、ダン。忠告をしっかりと理解したよ。その上で考えて、ザインの事は結論を出すよ」


「差し出がましい事を言いまして申し訳ございません。ただジョージ様なら私の気持ちを受け止めてくれると確信して話をさせていただきました。本当にありがとうございます」


 ダンって性格も男前だよな。こんな男がグラコート家臣団の筆頭なんて僥倖ぎょうこうだよな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ザインについては理解したよ。タイル公爵は今後どうなるの?」


「タイル公爵が犯した罪は封書をジョージ様が書いたものと偽った行為です。これは明らかに上級貴族私文書偽造違反ですね。しかし目的が悪かったです。ジョージ様を陥れる内容ですから。ジョージ様はエクス帝国の守護神になっています。グラコート伯爵家はジョージ様とスミレ様の武力で圧倒的な軍事力を有しています。その圧倒的な軍事力をタイル公爵は私欲でエクス帝国から引き離そうとした行為ですからね。国家反逆罪に問われてもおかしくありません」


 国家反逆罪って……。それって確か死刑にお家取り潰しだよね。


「ただし、貴族会議でタイル公爵は誰の封書とは明確にしていないんです。貴族会議に参加していてタイル公爵がジョージ様を陥れようとしたのを明確に知っているのはベルク宰相とアリス皇女だけですね」


 それって何か関係あるの?


「貴族会議の最後にベルク宰相がタイル公爵とは行き違いがあったが、もう問題ない、できれば忘れて欲しいと言ってました。エクス帝国政府としてはバラス公爵家を取り潰したく無いんですよ。なるべく穏便に事をおさめたいのです。その辺の調整はベルク宰相が取り計らってくれるはずです」


 ふーん。そうなのか。まぁどうでも良いけどね。


「一応、説明しておきますが、現在、タイル公爵とバラス公爵家の命運をジョージ様が握っております」


 なぬ!? おかしいな? そんなものを握った覚えはないぞ。貴族会議で握っていたのはトイレで俺のナニ・・だけだ。いつの間にナニ・・がタイル公爵とバラス公爵家の命運に変わったんだ?


「貴族会議という公の場でタイル公爵は告発をしたのです。グラコート伯爵家臣団の私と使用人のザインが登場しております。少し考えれば、タイル公爵が陥れようとした貴族が誰かはわかります。例えエクス帝国政府が穏便に済ませようとしても、ジョージ様が納得しなければ事をおおやけにしないといけません。そうなればタイル公爵は死刑、バラス公爵家は取り潰しですね」


 そうなんだ……。そんなもんは握りたくなかったわ。

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