第206話 神算鬼謀
「新年の挨拶でのジョージ様の脅し文句が最後の決定打になりましたね。タイル公爵からアメリアを通してザインに指示が来ました。何も書かれていない便箋にグラコート伯爵の印章を押すようにと」
きな臭い指示だよな。そんなのザインは実行したの? おまけにグラコート伯爵家の印章は箱に入れて周りを俺がロックウォールで固めている。誰にも手出しはできない状態だよ。
「それって無理じゃない。俺しかグラコート伯爵家の印章は取り出せない状態だよ。それにいくらザインでもその指示は拒否するでしょ」
「確かにザインもその指示に対して拒否反応を示してましたね。たぶんタイル公爵も成功率はあまり高くないと思っていたんじゃないですか。上手くいけば儲けもんって感じです。上手くいく謀略のほうが少ないですから。【下手な魔法も数打てば当たる】です。ザインからその報告を聞いて、こちらから仕掛ける事にしました。ベルク宰相にお願いして偽のグラコート伯爵の印章を作成し、何も書かれていない便箋に押しました。偽物とわかっている者が見ればすぐにわかるようになっています。それをザインはアメリア経由でタイル公爵に渡しました」
そんな事が俺の知らない間に行われていたのか。
「ジョージ様は12月12日にタイル公爵に抗議の手紙を書いていますね。それを参考にしてタイル公爵は偽の手紙を作成すると高い確率で睨んでいました。エクス帝国の暗部がバラス公爵邸を監視しておりまして、数日前男性が訪ねました。貴族会議で私が連れていた男性です」
さすがにそろそろ全体像を把握したよ。それにしてもタイル公爵がバカに見えるなぁ。底の浅い謀略じゃないのか?
「ねぇ、話の途中だけど、タイル公爵ってもう少し思慮深い人と思っていたんだけど……。
「自分が頭が良いと思っている人は、簡単に裏をかかれます。自分が裏をかかれるとは思っていないですから。また攻めている時程、守備が疎かになるんですよ。自分が謀略を仕掛けている時に、それが相手の謀略なんて想像しにくいですから。またオリビアのせいで時間が迫っていたこと。それにジョージ様の脅しが効いています。どうしても状況を自分の良いように捉えてしまいます。いや
なるほどなぁ。タイル公爵は頭が良いのだろうが、本当に頭の良い人とはダンみたいな人なんだろう。
「それにザインが今回の指示を断ったとしても、手練手管を使ってザインの気持ちが変わった可能性があります。実際の印章はジョージ様のロックウォールで手出しはできない状態でしたが、もし普通の貴族だったら印章を使われていたかもしれません。一概にタイル公爵の謀略が劣っていたとは言えませんね」
タイル公爵の謀略にダンが鮮やかに反撃しているから劣っているように感じるのか。
なんだ、結局はダンが凄いだけじゃないかよ。
「説明を続けますね。バラス公爵邸から出てきた男性は犯罪組織に属していました。他人の筆跡を真似るのがうまいそうです。尋問してバラス公爵邸で書いた文章を聞き出しました。ジョージ様がエルバト共和国にエクス帝国を売る約束をする内容を書いたそうです」
そんな封書が見つかったら確かに由々しき問題だわ。
「あとはタイル公爵がその封書をどのような形で使うかだけです。十中八九、今日の貴族会議だと思っていましたので、私は用意をして待っていました。あとはジョージ様もご覧になったとおりです」
結構、お腹いっぱいになっちゃったよ。
いろんなことを考える必要があるなぁ。
どうしよう、今日はもう寝ちゃおうかなぁ。
まずは最低限の事だけ確認しないとな。
「それでザインは今はどこにいるの? 今後どうなる?」
「ザインは現在騎士団が事情聴取を行なっています。タイル公爵が今回犯した上位貴族私文書偽造についてですね。ただ、ザインはこの件に対しては何も犯罪に関わっておりません。私の監督下にいただけですから」
「そういえばダンはザインにどんな指示をしたの? 偽物の印章を押した便箋だったんだよね。そんなのをザインがタイル公爵に渡すのは拒否しなかったの?」
「私からザインに言った事は、ジョージ様は印章を厳重に保管している。それを破って押すのは無理。ただしエクス帝国印章管理課にいけばグラコート伯爵の予備の印章がある。それを私が押してこようかと」
エグいわ、この人。ごく自然に謀略を行なっているよ。
「上位貴族私文書偽造の罪に問われる人はタイル公爵と、ジョージ様の筆跡を真似た犯罪組織の男性の2人ですね。ザインもアメリアも直接的に犯罪には関わっていませんから」
おぉ! それは
マリウスとナタリーには犯罪者の親にはなって欲しくないもんね。
「ここからはジョージ様の意向次第なんです」
俺の意向?
真剣なダンの顔に何故か緊張してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます