第205話 寝業師すら盤上の駒
「私はすぐにザインを拘束し尋問しました。ザインは11月の半ば頃からアメリアと言う女性と付き合っております。今日の貴族会議で私が一緒にいた女性ですね。【魅惑の蜜】を使われました。古来より男性を裏切らせる方法として一番使われる方法です。費用対効果が良過ぎるんですよね」
【魅惑の蜜】か……。あの美人の女性に色仕掛けされたら若い男性ならしょうがないところもあるよな。
「アメリアはザインに、タイル公爵はジョージ伯爵と仲良くしたいと切に思っている。しかしジョージ伯爵が頑なに拒否している。それはジョージ伯爵がタイル公爵の事を誤解しているからだ。今はジョージ伯爵に何を言っても話を聞かない。この状況を変えるためにはタイル公爵に任せるしかない。タイル公爵の言う通りにすればタイル公爵とジョージ伯爵の仲が良くなる。そうなったらジョージ伯爵は必ずザインに感謝する。まぁこんな感じだったようです」
まぁ恋は盲目か。
好きになった女性を信じたくなる気持ちもわかるよな。
俺のためになるからって言われたらザインの罪悪感も薄まるわな。
「ザインがタイル公爵と直接面識を持ったのが12月12日。ジョージ様がタイル公爵に謝罪要求の封書をザインに頼んだ時ですね。その時にタイル公爵に説得されたそうです。ジョージ伯爵と仲良くやりたいから、協力して欲しいと。またこの時アメリアはタイル公爵の家臣の娘と聞かされ、アメリアとの結婚の許可をちらつかされたようです」
タイル公爵は老練な
二重、三重に罠を張っている。
俺を裏切る行為は、実は俺のため。
そしてそれは愛する女性が求めている。
またそれをすれば愛する女性と結婚できる。
こんなの回避できないじゃん!
「私はザインに冷静になるように話しました。アメリアはタイル公爵がジョージ様に仕掛けた【魅惑の蜜】であると。ザインがやっている行為は明確にジョージ様に不利益をもたらすと。しかしザインは私の言葉を信じませんでしたね。まぁそうなるとわかっていたから良いのですけど」
まぁザインに取ってはダンの話なんて受け入れられないよな。
受け入れたら、俺を裏切った事になるし、アメリアの自分に対する愛情は嘘となってしまう。
「もしザインを首にして、グラコート伯爵家から追放してしまうとタイル公爵は一つの計略が失敗したと思い、また違う方策を取るだけでしょう。こういう謀略を掛け合うのは地味なんですが労力を相当使うんです。好機があれば一気呵成に相手を破滅させるほうが憂いが無くなって良いですね」
「どうして好機なの? こちらにちょっかい出されているだけじゃん?」
ダンが微笑を浮かべる。
あ、凄ぇ格好良い。なんだそれ! 俺が女なら間違いなく恋に落ちるわ。何か悔しいな。やっぱりダンは爆ぜるべきなんじゃないか?
「聞き分けの無いザインには許容できる提案をしてあげれば良いのです。また攻めてると思っている側は案外脆いんですよ」
許容できる提案ねぇ。
「私はザインに今やっている事はそのままやって良いと伝えました。ただその情報を私に伝えるようにって。ザインにすれば、今まで通りで変わらない。ただ情報を私に流すだけです。これなら【魅惑の蜜】に溺れているザインにも受け入れられるでしょう。私としたらザインはただの二重スパイなんですけどね。本人はそんなのわかってないんじゃ無いですか?」
二重スパイを作るのが大変だ。二重スパイの当事者はどちらの陣営も裏切っている事になる。そんな状態になりたい人はいないよね。
それなのにダンは、ザインを簡単に二重スパイに仕立て上げている……。
怖い兄ちゃんやな。
「ザインには、私の言い分とザインの言い分のどちらが正しいか近いうちに答え合わせをしようと伝えてあります。まぁ最初から私の言い分が正しいのは確実なんですけどね」
容赦が無いよ。【傷口に塩】どころじゃないね。【尿道に針】やな。
「オリビアの件でタイル公爵には時間がありません。できればオリビアに皇室侮辱罪の有罪が確定する前にポーラを確保したい。ポーラを確保したらオリビアを離籍しても問題ありませんから」
うん? どういう事?
「なんでポーラを確保したらオリビアを離籍しても良いの?」
「タイル公爵はポーラに執着しておりますが、オリビアには関心がありませんからね。オリビアはタイル公爵にとってただの駒です」
確かにタイル公爵はポーラに執着している。でもポーラはタイル公爵が若い時にヤリ捨てた女性だよな。なんだろ、捨てたオモチャを他人が拾うと惜しくなる人なのか?
「私の分析ですが、タイル公爵は歪んだ純愛をポーラに抱いております。それは後ほど説明致しますが、今はタイル公爵はポーラを確保するのが目的と理解してください。そしてできれば身内から皇室侮辱罪の犯罪者を出したくないと。オリビアが有罪になる前にポーラを確保して、オリビアをバラス公爵家から離籍させたいのです」
「でも新年の挨拶の時にタイル公爵はオリビアを離籍しないって言ってたよ」
「それはオリビアがある程度ジョージ様へのカードになりますから。簡単に手放すと敵に話すわけが無いじゃないですか」
「了解。じゃ前提がタイル公爵はポーラを確保したい。身内から犯罪者を出したくないから、オリビアの罪が確定しちゃマズイ。時間がある程度決まっているって事だね」
「そうですね。その為ジョージ様にはタイル公爵に新年の挨拶に行ってもらったんです。手っ取り早くタイル公爵に動いてほしかったですから。タイル公爵を焦らせるために軽い脅しをお願いしました」
何かダンって神の視点を持っているよね。自分が盤上の駒でしかないと感じるわ。
老練な
タイル公爵には同情しちゃうね。
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