第204話 違和感を感じ取れるのが才能
ベルク宰相の挨拶で新年祝賀会が始まる。俺はベルク宰相の挨拶をボヤッと聞いていた。
貴族会議の時にベルク宰相は俺と目が合ったのに、
ベルク宰相の挨拶が終わり、乾杯がされる。乾杯の後に盛大な拍手と「エクス帝国万歳!」の声があちこちから響き渡る。
なかなか壮観な光景だな。
次第に「エクス帝国万歳!」が「アリス皇女万歳!」に変わる。終いには「ジョージ伯爵万歳!」と叫ぶ人も現れた。
なんなのこれ? ノリについて行けないや。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
万歳の声が落ち着くと楽団が音楽を鳴らし始めた。
皆、思い思いに歓談を始める。
俺とスミレはアリス皇女に挨拶をしに行ったが、あまりの混雑に諦めてしまった。
あまりよろしくはないのだろうが、気にしない事にしよう。
ベルク宰相もあまり時間が取れなそう。抗議するのは後日だな。
お腹を満たして帰ろうかと思っていたら、いつの間にか大勢の人に囲まれていた。
エクス帝国皇室主催の新年祝賀会には地方在住の貴族も相当数参加する。地方にも俺の風聞は伝わっているはず。それだけに俺と
人の顔と名前を覚えるのが苦手な俺には、苦行でしかないけどね。
新年早々、耐える事ばかりだなぁ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それでどういうことなんだ?」
「随分と早いお帰りですね。もう少しスミレ様と楽しんでこられたら良かったのではないですか?」
俺とスミレはザインの事が気になって新年祝賀会を早々に切り上げてきた。
現在は俺の部屋でダンから説明を受けるところだ。
「家族同様のザインが関わっているのに、悠長にお酒なんか飲んでられないよ。ザインはどうなっている? タイル公爵が提出した封書は何? ダンが貴族会議に連れてきた人は誰? もう聞きたい事がいっぱいだよ」
「ジョージ様がこんなに早く帰宅されましたから時間がたくさんありますね。せっかくですから最初から説明させていただきます。まず私が最初に感じたのは違和感です」
「違和感?」
「そうです。12月14日の朝に、私はジョージ様からいっぱいの困った事を相談されました。その時私はポーラをグラコート伯爵邸で保護している事をタイル公爵に知られないように助言致しました。そのすぐ後にタイル公爵がグラコート伯爵邸を訪れ、ポーラがグラコート伯爵邸にいる事を確信した話しぶりを致します。ポーラがグラコート伯爵邸に保護されたのが12月13日の夜です。タイル公爵がジョージ様がポーラを保護しようしていると確信しているのが遅くとも14日の朝。タイル公爵がグラコート伯爵邸を訪問するのが早過ぎるのですよ」
「早過ぎるってどういう事? ポーラに尾行でも付けてたんじゃない?」
「ポーラに尾行を付けていても、ポーラがグラコート伯爵邸に入っていくところしか見ていないはずです。それだけならば、ジョージ様がポーラを今後どうするつもりか探る必要があるのです。それなのにタイル公爵はすぐにグラコート伯爵邸を訪れ、諍いの仲裁を間接的に申し出ている……。間違いなくタイル公爵はジョージ様がポーラを保護しようとしていると確信してジョージ様と話をしています。そうでなければあんな伝言は残しません」
あぁ、あの【バラス公爵家の両翼はエクス大陸を覆う】ってやつね。
「私は確信しましたよ。間違いなくグラコート伯爵家にはタイル公爵に情報を流している者がいると。可能性があるのがスミレ様、家宰のマリウス、その妻のメイド長のナタリー、息子の執筆見習いのザイン、メイドのサラ、料理人のバキ、サイファ魔導団長の兄であるライド様の7人でした。この7人以外に13日の夜の情報を14日の朝までにタイル公爵に伝えられる人がいないですから」
そんな早い段階からダンはグラコート伯爵家にタイル公爵と通じている者がいると確信していたのか……。
「すぐにエクス帝国の暗部に7人の調査を依頼しました。程なくザインと確定されましたね」
エクス帝国の暗部!? なんでそんなもんまで動いているの! でもこの7人を調べるとしたらグラコート伯爵邸の周囲で動いていたんだよな。全く気が付かなかったぞ。
「暗部って政府の機関だよね。そんなとこまで動いていたの? それに俺の周囲で活動していたと思うけど、全く気が付かなかったけど?」
「ジョージ様はエクス帝国の重要人物ですから、エクス帝国政府にとって最も動向を把握したい人です。暗部を動かす件はベルク宰相がすぐに許可しましたよ。あと、ジョージ様の魔力ソナーは常時展開されているようですが、悪意を持たなければ問題無く近づけると暗部から報告が上がっております。どうしてもジョージ様は無意識下で魔力ソナーを展開していますから、自分に害の無い人の魔力には頓着しないのでしょうね」
報告が上がっているって……。
何か俺の能力を探ってもいないか? 以前ベルク宰相とタイル公爵で俺の暗殺の話をしていたよな。
何となく怖いわ。
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