第203話 白のスーツ
ダンか一礼して会議室から出て行く。ザインと中年の男性と美人の女性も連れていった。
会議室は少し騒ついたが、ベルク宰相の静かな迫力に皆が口を噤む。
参加者は一人、また一人と無言で会議室を出ていく。
残ったのはベルク宰相とアリス皇女と俺とタイル公爵の4人だ。
タイル公爵は項垂れたまま動かない。
「さて、ジョージさんはアリス皇女を部屋まで送って行ってください。私はタイル公爵と少し話がありますから」
え、マジで!? 説明してくれないの?
ダンだけじゃなく、ウチの執事見習いのザインまで関係しているのだから、どうみても俺絡みの案件だろ。
俺は腑に落ちない顔をしていたのだろう。ベルク宰相が言葉を付け足す。
「今回の件はジョージさんの家臣であるダンが全ての絵を描きました。私が説明するよりもダンから説明を受けてください」
ダンが全てを取り計らったのか……。
ダンは裏で暗躍するのが得意みたいだからな。
「行きましょう! ジョージ様!」
俺は痛い娘に腕を引っ張られて会議室を出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まだダンは帰ってきてないか」
俺は屋敷に着くなりダンを探したがいなかった。よくわからんが事後処理とかあるのかな? まぁ急ぎじゃないから新年祝賀会が終わってからでも良いか。
そう思っていたら、家宰のマリウスとメイド長のナタリーが土下座をしている。
あ、ザイン……。
すっかり忘れていたよ。ザインはマリウスとナタリーの息子だ。
状況を把握していないが、ザインがこの件に関係している事は間違いない。
と言っても何が何だかわからないけど……。
マリウスが土下座のまま謝罪の言葉を口に出す。
「大恩ある旦那様に愚息であるザインがご迷惑をかけたようです。どのような罰でも受けます。いや受けさせてください。ただ、情けない事ですが、旦那様の御慈悲を一つだけいただければ……。私とザインはどのような罰でも受けますが、ナタリーの命だけはどうかご容赦ください。お願い致します」
ナタリーさんの命だけはって……。マリウスの命もザインの命も奪うつもりはさらさら無いんだけど。
「取り敢えず、マリウスもナタリーも顔を上げてよ。これは命令だからね。マリウスはダンから詳細は聞いているの? 俺は全くわかっていないんだ」
顔を上げるマリウスとナタリー。マリウスは深刻な顔をしている。ナタリーは涙で顔が濡れている。
「旦那様が貴族会議に出発してすぐに騎士団の方がザインを拘束していきました。ダン様からはザインはグラコート伯爵家に対して不利益な行動をしている。状況が落ち着いたら旦那様から処分の沙汰を申し付けるはずだからそれまで大人しくしておくようにと」
うん。マリウスも俺と同じで全然状況を把握してないね。
なかーま!
「俺もよくわかってないんだ。まずは状況を把握しないと何も判断できないよ。これから新年祝賀会に出席してくるから、帰宅後にダンから説明してもらおう。あと、これだけは忘れないで。マリウスもナタリーもザインも俺の家族だから。ザインが何をやったのかわからないけど、間違いは誰にでもあるでしょ。それを正すのが家族だと俺は思っている。まぁ許容範囲はあるけどね。皆んなで考えて良い方向にしていこう」
あ、マリウスまで涙をこぼし始めた……。
俺はマリウスとナタリーに自室でゆっくり休むように命令して、新年祝賀会に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新年祝賀会はエクス城のホールで開催される。俺はポーラの作ってくれた白のスーツで参加だ。やっぱり俺に白のスーツは着こなせないよな……。
スミレは青のドレスを着ている。上品なんだよなぁ。どうしても育ちが出るよね。
「どうしたのジョージ? 浮かない顔をしているわ」
「こういうキチンとした場に来ると実感しちゃうんだ。スミレは上級貴族出身で、俺は平民出身だってね。生まれの差が出るんだろう。それにやっぱり、俺は白のスーツは似合わないと思って」
「何を言っているのよ。ジョージはこのようなパーティーに出ても大丈夫なようにルードさんからマナーを学び、奥さんのリースさんからダンスを習ったんじゃない。そんな気持ちだと背筋が曲がっちゃうわよ。優雅な物腰には背筋を真っ直ぐが基本でしょ。ルードさんに叱られるわよ。それに周りを見てみなさいよ」
スミレに言われて俺は周りに目を向ける。
何だか注目されてないか? 男性の目線はスミレに。女性の目線は俺に向いているように感じる。
コソコソとこちらに視線を向けていた三人組の女性達と目があった。
「「「キャー!」」」
悲鳴のような声を上げる女性達。
何だこれ?
「わかったでしょ。ジョージは客観的に格好良いのよ。私の自慢の旦那様なの。そろそろ自覚したほうが良いわね。それに今日の白のスーツはとても似合っているわ。惚れ直したんだから」
自覚しろと言われても、ずっと女性にモテなかったもんな……。
いまだに信じられんわ。
それに結婚してからモテても宝の持ち腐れじゃんか……。
人生とは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます