第199話 裏切り?

 修練のダンジョンを出た茜師匠は真っ直ぐダンに向かって歩いていく。


「ダンさん、私が間違っていました。エクス帝国民が噂しているジョージ様の偉業。私ははっきり言って疑っていました。今日わかりました。やっぱり噂は間違っていた。ジョージ様の実力は噂以上です。ジョージ様の実力は私の想像の遥か上。今日だけでは底が見えませんでした。いやわたしの実力ではジョージ様の底は見ることはできないと思います。あの魔法の腕ならば確かにエルバト共和国軍など恐るるに足りません」


 完全に白旗を挙げた茜師匠。

 表情を変えないがダンが嬉しそうなのがわかる。


「わかっていただけて嬉しいです。これからは歴史に残る英雄であるジョージ様を一緒に支えていきましょう」


 右手を差し出すダン。

 一瞬躊躇した茜師匠だが、笑顔でその右手を握りしめていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その日の夜、俺の部屋にダンが訪ねてきた。

 ダンはいつに無く真剣な顔をしている。


「ジョージ様は裏切りに対してどのように対処致しますか?」


 裏切りかぁ。誰しも裏切られたくはないよな。でも裏切る人にも正義があるのかもしれない。


「裏切られた結果、どの程度の不利益が生じたのか。許容できない不利益だった場合はそれなりに責任を取ってもらわないと。ただ、情状酌量の余地があるかどうかだよね。結局は個別に判断するしかないんじゃないかな」


「承知しました。ではそのように対処いたします」


 そう言ってダンは退室してしまった。


 え? 仮定の話じゃないの? 俺って既に裏切られてるの? なんでダンは説明してくれないの?


 俺は悶々として眠れなくなってしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


1月8日〜1月12日


 ダンに裏切りについて説明を求めたが、「まぁ任せておいてください」と言って教えてくれない。おかげで悶々が解消しない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 朝に茜師匠から剣術の指導を受けることになった。何故かダンも一緒だ。なんでも茜師匠がダンを誘ったみたい。

 当分、スミレとの脱衣模擬戦は中止だね。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ダンが帝都で著名な彫刻家を3人連れてきた。3人にはこれからドラゴンの模型を作ってもらう。その為には実際のドラゴンを見てもらわないと。俺は早速彫刻家3人を修練のダンジョンに連れ出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 現在、修練のダンジョンではエクス帝国の軍人はレベルを30までにしている。条件次第でレベル40。

 スミレとダンと話し合った結果、グラコート伯爵家臣団はレベル50まで上げる事にした。

 あ、でもグラコート伯爵家臣団に入って、レベル50になったのちに抜けられたらどうなる? まぁしっかりと面接すれば大丈夫かな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 帝都の東に建設している新グラコート伯爵邸。湯水のように金を注ぎ込んでいるため、凄い早さで建築が進んでいる。通常の建設現場と比べると3倍の人員が働いているみたい。そりゃ早くできるよ。

 バラス公爵邸を超える屋敷ができそうな予感……。

 頑張って! ガルボ社長!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 エクス帝国では毎年1月の第3週の頭である1月13日に貴族会議が開催される。まぁ会議という名の新年会だ。

 昼過ぎに会議が行われ、夕方から新年祝賀会が開かれる。エクス帝国は現在喪中のため、あまり派手にはしないだろうけど。


 グラコート伯爵家で保護しているオリビアの母親のポーラが新年祝賀会に来ていく衣装をプレゼントしてくれた。

 ポーラの手作りのスーツは20年以上も洋服店で仕立てをしていたのがわかる出来栄えだ。

 とても素敵なんだ。ただ上下とも色が真っ白じゃなければ……。

 こんな色のスーツはダンくらい男前じゃないと似合わないっしょ!

 間違いなく浮いてしまうよ。

 何故真っ白のスーツにしたのかポーラさんに聞いたら、ポーラさんの憧れとのこと。

 ポーラさんが好きな恋愛小説の男性が真っ白なスーツを着て、主人公の女性とダンスを踊るそうだ。

 先月の騒動で、ポーラさんを保護した俺にその恋愛小説の男性を重ね合わせたようだ。

 俺を見るポーラさんの目はまるで少女のようだった……。

 そんな目で見られたら着るしかないよね。

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