第191話 東から昇る太陽
「先日の我がバラス公爵家とグラコート伯爵家の裁定の途中で席を立ってしまい申し訳ございませんでした。愛娘のオリビアがあのような事になってしまい動揺してしまったようです」
いきなり謝罪から始まったな。
何か会話の主導権を既にタイル公爵に握られている感覚がある。この辺は経験値の差と受け入れるしかないや。
やっぱり俺は基本的にタイル公爵が苦手なんだよな。
「いや特に問題はございません。それによって受ける被害はありませんので」
「謝罪を受け入れていただき、ありがたい事です。ご迷惑ついでですが、一つお願いをきいてくれませんかね。それでバラス公爵家とグラコート伯爵家の
やっぱりきたか。ダンの予想通りだ……。
バラス公爵家とグラコート伯爵家の裁定の席を途中退席したこと。その時の話はポーラの事。
そしてその日の夜にグラコート伯爵邸に侵入した賊。侵入場所はポーラの部屋。
理由はわからないが間違いなく、タイル公爵はオリビアの母のポーラに執着している。
ポーラは現在グラコート伯爵邸で保護している。こちらのカードになるだろう。
「内容を確認しないと返答はできませんね。まずはお願いの内容を教えてください」
「オリビアの母親のポーラの件だ。ポーラを我がバラス公爵家で預かりたい」
直球やん!?
タイル公爵ならもう少し間接的に話を持ってくると思ったんだけど……。
でもそのお願いは無理だな。
ポーラが不幸になるわ。
「なるほど、一度持ち帰り考えたいと思います。ただ、ポーラの意志を第一に考えますのでご期待に応えられる可能性は著しく低いと思ってください」
「ジョージ伯爵は本気でそんな事を言っているのか? ジョージ伯爵にとって何の
俺は隣りに腰掛けているスミレを見た。
「スミレ、タイル公爵にグラコート伯爵家の家訓を教えてあげてくれないか?」
スミレは俺の言葉を受け、凛とした声を上げる。
「【グラコート伯爵家の常識、貴族の非常識】」
「な、……」
絶句するタイル公爵。
「タイル公爵はだいぶ私のことを理解したと思っていましたが、すぐに自分の物差しで私を判断しようとしてしまいますね。ポーラは我がグラコート伯爵邸に勤めている使用人の仲間です。ならば私の仲間でもあります。仲間が望まないことを選択するわけが無いじゃないですか」
「しかし、ポーラは私の娘のオリビアの母親だ。母親と娘を一緒にいさせてあげるのが人の情ではないのか?」
「まさか貴方から人の情を説かれるとは……。母親と娘を離れ離れにしたくないのなら、貴方がオリビアをバラス公爵家から離籍すれば良いではないですか? その場合、オリビアは責任を持ってグラコート伯爵家で保護しますから。それに皇室侮辱罪の罪人がバラス公爵家の一員だと問題がありますよね?」
俺の言葉にタイル公爵の雰囲気が変わった。目を細め視線でこちらを射抜く。
何かヤバい感じ……。
「オリビアを離籍するつもりは毛頭ない。オリビアは私の血を継いでいる娘だ。当然、オリビアと血が繋がっているポーラはバラス公爵家の管轄下だ。何も関係無いグラコート伯爵家は引っ込んでいるべきだ。そう思わないか?」
迫力に負けちゃいけない。
弱い犬が吠えてるみたいなもんだ。あぁ、プチっとしたいなぁ。
「どうやら見解の相違があるみたいですね。ポーラの件は後日返答させていただきます。それでは今日は失礼させていただきます」
そう言って帰り支度を始める。
客室を出る時に俺はタイル公爵に言葉をかける。
「今日の初日の出はご覧になりましたか? 当たり前ですが帝都では東から太陽が昇りましたね。太陽の日差しに当たり過ぎると身体に悪いですから気を付けてくださいね」
俺とスミレは呆然とするタイル公爵を残して帰宅の途についた。
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