第190話 新年の挨拶回り

12月30日【無の日】


 今日は今年最後の日だ。

 振り返ると俺の人生の中で今年が一番激動の年だったと言えそうだ。

 去年の今頃は魔導団独身寮で独り寂しく過ごしていた。

 今年は立派なグラコート伯爵邸で愛するスミレと年を越せる。


 この幸せは大切にしないと。

 きっと努力が必要なんだろうな。

 来年は今よりももっと幸せを感じられるように頑張っていこう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 帝都では年を越した瞬間に花火を上げる。会場は帝国中央公園。

 俺とスミレは帝国中央公園の噴水前に出向いた。

 今年から噴水前は高位貴族以外立ち入り禁止になっている。俺とスミレが帝国中央公園で年越しする事を知ったベルク宰相が混乱を避けるためにそのような対策を取ったそうだ。


 顔を知っている貴族に軽く挨拶して、俺とスミレは告白した場所に移動する。

 背後から包み込むようにスミレを抱き締めた。


 結婚式を挙げた神殿の鐘が鳴る。年越しを知らせる鐘だ。


 カーン! カーン! カーン!


 そして帝都の夜空に大輪の華が咲く。


 ドーン! ドーン! ドーン!


 花火の光に照らされているスミレの肌が綺麗だ。

 抱き締めていたスミレと見つめ合う体勢に身体を動かす。


「新年おめでとう。去年は最高の一年だった。今年はスミレとこれまて以上に愛をはぐくみたい。どうぞよろしくお願いします」


「私こそ去年は夢みたいな一年だったわ。こんな私だけど今年もよろしくお願いします」


 俺は自然とスミレと唇を合わす。

 また一つ帝国中央公園の噴水前で忘れられない思い出ができた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


1月1日【青の日】


 目を覚ますと、裸で瞑想しているスミレが目に入る。

 こりゃ新年早々縁起が良さそうだ。


 昨晩、帝国中央公園から帰宅した後に姫始めをじっくりとヤッた。

 【一年の計は元旦にあり】。計画性を持った夫婦生活が必要だね。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 今年は喪中のため、大規模な新年祝賀会はあまり開かれていない。

 それでも上級貴族としての最低限の挨拶は必要だ。

 エクス城にてアリス皇女とベルク宰相に新年の挨拶をして早々に辞去する。時間が無いからね。

 そのままスミレの実家のノースコート侯爵家の屋敷に向かう。

 ここでも形だけの新年の挨拶をして次に移動。魔導団本部と騎士団本部にも顔を出しておく。

 そして、最後に今日のメインイベントのバラス公爵邸訪問だ。

 バラス公爵家とは年末に濃密な関係いざこざがあったから新年の挨拶に行って動向を探るようにダンから言われているんだよね。


 帝都のバラス公爵邸はそれはもう立派だ。圧倒されてしまうわ。正に白亜の豪邸。金にものを言わせているのが良くわかる。

 これは負けてられないな。現在、帝都の東に建築している新グラコート伯爵邸。これまで以上に金を注ぎ込んでやる!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 バラス公爵邸の客室に案内された。ここは敵の本拠地。俺は魔力ソナーをビンビンに展開している。たまには股間以外のものもビンビンにさせないとね。

 見知った魔力がこの部屋に近づいてくる。俺とスミレは座っていたソファから立ち上がり、その魔力の主である男性を待ち構えた。


「これはこれはジョージ伯爵! わざわざ新年の挨拶に来ていただくとは光栄です」


 タイル・バラス公爵は今日も黒髪をオールバックにしている。

 まるで友人を出迎えるような満面の笑みを浮かべながら右手を差し出してきた。


 これは握手だよな。この間はあんなに激昂していたオッサンだったのに……。

 今日はそれをおくびにも出さない。

 タイル公爵って気性が激しい感じだけど、やっぱり大貴族だけはあるよな。しっかりと体勢を整えてくるもんな。


「去年はいろいろ・・・・とお世話になりました。グラコート伯爵家としては今年もバラス公爵家とは仲良くやっていきたいのでよろしくお願いします」


 俺は嫌味に感じるような話し方でタイル公爵と握手をする。

 右の眉が少し上がるタイル公爵。

 すぐに取り繕った笑顔に戻ったが。


「こちらこそジョージ伯爵とは仲良くやっていきたいですな。お時間がありましたら少し話されていきませんか? お茶を用意させますから」


 俺とスミレはタイル公爵の勧める来客用ソファに座り、気を引き締めた。

 ようし! ダンからの指令をしっかりと果たさないとな。俺が自分で考えて動くと大惨事になる可能性があるからな。

 俺は言われた事はしっかりとできる男・・・・だ。

 このような男でも【できる男】と胸を張って良いのだろうか?

 巷で言われるできる男とはちょっと、いや相当違うような気がするけど……。


 意味のない事を考えていたら、バラス公爵邸のメイドがお茶と菓子を用意してくれた。

 高そうな菓子やな。


 お茶を一口飲んで俺の精神は戦闘体勢に入った。

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