第192話 熱いパトス
「ねぇ、何で最後の俺の言葉でタイル公爵が衝撃を受けてたの? ただ当たり前の事しか言ってないんだけど?」
馬車の中で俺はスミレに聞いてみた。
少し呆れ顔をするスミレ。
「何もわからないでジョージはタイル公爵を脅したの? ダンから教わったんじゃないの?」
「ダンから言われた通りに一字一句話しただけだよ。意味は聞いてないな。意味がわからないまま話した方が効果的なような気がするってダンが言ってたよ」
「そりゃ淡々と脅し言葉をかけられたら怖いわ。そんなところまでダンは演出するのね」
「それよりどこが脅し言葉なんだよ。説明してくれる?」
「そうね。まずは東から昇る太陽。これはジョージやグラコート伯爵家を比喩しているのよ」
相変わらず意味がわからん貴族の婉曲表現だな。何でそうなる?
「ジョージの
ふーん。何となく東の方向に縁があった俺。勢いがあるグラコート伯爵家を東から昇る太陽に重ねているのか。
日の出の勢いって言葉もあるしな。
あ、じゃ俺は自分で自分を東から昇る太陽って言っていたのか!? 痛い奴確定じゃん!
ダン酷いよ……。
「あとは簡単でしょ。太陽は恵みをいっぱい与えてくれるけど、まかり間違えば痛い目にもあう場合があるって事」
なるほど。
俺は自分の事を太陽に喩えた痛い子。そして、そんな俺に歯向かうと痛い目に合うかもよって脅した痛い子なのね……。
どうしようもない痛い子じゃん!!
こりゃダンの去勢は待った無しだな。
うん? 玉無し、待った無しってか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
グラコート伯爵邸に帰宅すると、ダンが俺を待っていた。
「酷いじゃないかダン! 俺を新年早々痛い子にして! 何か恨みでもあるのかよ!」
今日のダンは正装に身を包んでいる。新年だからかな? いつもは長めの金髪を無造作に後ろで縛っているが、今日は整ってやがる。爆ぜろ!
「ジョージ様、スミレ様。新年おめでとうございます。痛い子ですか? 全く身に覚えがありませんが?」
相変わらず理知的な雰囲気を周囲に撒き散らかしているダン。男の色気がプンプンだ……。禿げろ!
「自分で自分の事を日の出の勢いがある太陽に喩える奴なんて自信過剰にも程があるだろ! 赤っ恥じゃないか!」
「あぁ、そういう事ですか。今のジョージ様を日の出の太陽に喩えても皆が納得しますよ。何も痛く無いですね」
皆が納得って……。でもやっぱり痛いよな。黒歴史確定だと思うんだけど。禿げて爆ぜろ!
「それより何でわざわざこんな事を言わせたの? 危なくない?」
「新年早々冗談が上手いですね。ジョージ様とスミレ様がいるグラコート伯爵家が危なくなるわけが無いじゃないですか。タイル・バラス公爵は暴発すると思いますけど」
タイル公爵が暴発したら危ないだろ! ダンは間違いなく火遊びが好きな子供だったに違いない。もういいから爆ぜろ!
「ポーラはこちらが保護しているし、オリビアは司法の手に渡っている。エクス帝国政府もこちらよりだよ。タイル・バラス公爵はほっとけば良くない?」
涼しげな顔のダン。禿げたら笑えるのに。
「火種が燻っているなら水をかけないといけません。少しでも希望があるうちは、人は諦めないんですよ。その希望を断ち切ってあげないと」
「希望? 何の話?」
「グラコート伯爵家にとっては獅子身中の虫ですね。しっかりと排除しませんと」
獅子身中の虫? 水虫みたいなもんなのか? 意味わからん。まぁ頭脳労働はダンに丸投げやね。
「新年早々、難しい事は考えたくないな。ダンに全て任せるよ。あとは何すれば良いの?」
「ジョージ様は特に何もやる事は無いですね。数日で事が動きます。あとは罠を張って高みの見物ですね」
高みの見物とは
やっぱりダンを雇って正解だな。考えなくて良いのは楽だ。
「それなら少し飲もうか。せっかくの新年だしね。それに禿げる必要はないからね」
「相変わらずジョージ様は意味がわからないです。何故禿げる必要があったのですか?」
俺の熱い
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