第186話 キラキラした休日【スミレ視点】

12月15日【赤の日】


 ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。朝の清涼な空気を肺の奥まで行き渡らせる。

 目を閉じているが瞼越しに太陽の光を感じた。

 魔力ソナーを薄く薄く、広く広く展開させていく。

 しかし今朝はいつもより上手くいかない。身近に荒々しい魔力反応があるからだ。

 この荒々しい魔力反応は濃厚なオスの匂いを発している。

 私は静かに目を開けて、濃厚なオスの匂いを発している人物に話しかける。


「ねぇ、やっぱりおかしくない?」


「なにがさ?」


「魔力ソナーの鍛錬をする時は裸のほうが良いって……」


「これは俺の経験から提案したものだよ。五感から入ってくる情報をできるだけ少なくするんだ。スミレは魔力ソナーを鍛錬する時に眼を閉じるでしょ。それは視覚からの情報を排除しているんだ。服を着ていると触覚から服を着ているという情報が脳に伝達する。裸になるのはそれを排除する方法だ。また肌を多く露出したほうが感覚が鋭敏になるんだ。それが魔力ソナーの感覚に良い影響を与えるはずさ」


 ジョージが能弁に語る。いやコイツ能弁に語り過ぎだろ! つい頭の中で突っ込みを入れてしまう。

 私がジョージを見据えると、ジョージは少し慌て出した。


 ま、これがジョージよね。どこまでもエッチな事に貪欲な人。性的な欲求を私に向けてくれるのは嬉しいんだけど……。

 ジョージが喜ぶならしょうがないか。


「ま、良いけどね。この件はジョージに騙されてあげるわ」


 私の言葉にジョージの顔に喜色が浮かぶ。あからさまに喜んでいる。この人、本当に大丈夫かしら?

 ふいにこんなジョージを少し揶揄いたくなった。

 私は胸を強調するように胸の下で腕を組む。ジョージの視線が私の胸に刺さった。

 

「でもね、ジョージ。私が裸で瞑想しているのを見たいのなら、言ってくれたらいくらでもそうするわよ。無理な理論を提唱しなくても大丈夫よ」


 バツの悪そうな顔をしたジョージだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ジョージが提唱した謎理論。

 【裸で魔力ソナーを鍛錬すると効果が大きい】

 私の横で興奮した魔力を溢れ出しているジョージ。

 その魔力に心を乱されないように魔力ソナーを広げていくのは本当に良い鍛錬になってしまった……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


12月16日【黒の日】

 明日、ジョージはアリス皇女に会いに行く。

 ジョージが私を悲しませないように考えているのは本当だろう。そのために頑として側室を拒否している。

 これがジョージの理性。


 しかし残念ながら男性には上半身と下半身は別人格と言う日もいる。

 ジョージ君・・・・・は本能。

 ジョージの理性とジョージ君・・・・・の本能とのせめぎ合い。

 どうしてもジョージ君・・・・・が勝つ時もあるだろう。

 私に出来ることはジョージ君・・・・・の本能を弱くすることだ。

 今晩もジョージ君・・・・・と決戦だ!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


12月17日【白の日】


 私に出来ることはやった。あとはジョージがジョージ君・・・・・に勝つだけ。

 あんなに可愛がったんだからわかってんでしょうね! ジョージ君・・・・・


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


12月18日【無の日】


 ジョージがいきなりわたしの部屋に入ってきて、意味のわからない事を言い出した。


「グラコート伯爵家の家訓を作ろうと思うんだけど、【読むより聞け!】で良いかな?」


「また唐突な話ね。いきなり家訓って言われても……。どうしてそんな事を思ったのかしら?」


 ジョージが家訓を作ろうとした経緯を説明してくれる。


「ジョージって座右の銘なんて大事にしているの? そしてそれを勝手に作っているのね」


 座右の銘を自分で作るなんて発想は私には全くない。

 普通は偉人が残した名言を座右の銘とするのではないか?

 ジョージの思考は本当に自由だ……。

 普通なんて誰が決めた? 普通じゃないとダメなのか?

 そんな事は無い。思考、発想はもっと自由になるべきだ。


「本当にジョージのそういうところは私には発想ができないし、可愛いわね。グラコート伯爵家の家訓はあとで2人でゆっくり考えましょう。まずはバラス公爵家の情報を話しましょうか」


 その後、バラス公爵家の情報をジョージに説明し、ジョージと2人でグラコート伯爵家の家訓を考えた。


「【ジョージの常識、貴族の非常識】なんてどう?」


「スミレ。これはグラコート伯爵家の家訓になるんだよ。代々続けていくもんだよ。家訓だったら【グラコート伯爵家の常識、貴族の非常識】じゃない?」


「ジョージはたぶん不老になっているんだから、グラコート伯爵家じゃなくて良いんじゃない?」


「うーん。でもやっぱり【グラコート伯爵家の常識、貴族の非常識】かな。家訓っぽいじゃん」


「でもこれって家訓なの? 私が提案したけどおかしくない? 何を戒めにしているの? ただの事実じゃないかしら?」


「これは貴族の常識が絶対的に正しいわけじゃない。物事の判断を貴族の常識を物差しにして考えるなって戒めさ」


「なんか無理矢理こじつけてきるわよね。でもなんか素敵ね」


 ジョージと過ごす休日はキラキラとして楽しかった。

 

 

 

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