第185話 覚悟【スミレ視点】

12月13日〜14日


 その後、グラコート伯爵家とバラス公爵とのいさかいは揉めている。

 やはりエクス帝国一の経済貴族とエクス帝国一の武力貴族が揉めると着地点を見つけるのも大変なのだろうか?

 いやこれはジョージが絡んでいるからだ。ジョージという不確定要素がこの問題を拗らせる原因に間違いない。

 ジョージには貴族の常識が通じない。貴族としては時にはあり得ない選択をしてしまう。その選択は貴族から見ると異常者に映る。その異常者が個人で圧倒的な武力を持っているのだ。

 武力を持っている人の考えが読めない事は不安しかないだろう。どこで逆鱗に触れるかわからない。

 ジョージに鈴を付けて制御したいのも理解できる。

 ジョージに側室をあてがおうとするのは貴族として当然だろう。


 ジョージの婚姻の話は、ロード王国のパトリシア王女に続いて今回で2回目だ。

 アリス皇女もジョージがその気になれば婚姻することになるだろう。


 もう限界なのかもしれない。ジョージの優しさに甘えて私の我が儘を通すのは……。

 パトリシア王女やアリス皇女とジョージが結婚した場合、私が側室になる可能性が高い。身分から考えれば当たり前だ。

 それならばオリビア・バラスと結婚してもらったほうが、良いかもしれない。

 タイル・バラス公爵からは側室にどうかと言っているのだから。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 夕食後にジョージの部屋で話し合う事になった。

 ジョージはいつに無く真剣な顔をしている。


「スミレはどうしたら良いと思う?」


「そうね。さすがにこの短期間でジョージの結婚話が2回も生じたわ。やっぱりジョージが側室を持つ事はしょうがない気がしているの。それは私に取って悲しい事かもしれないけれど、それは受け入れていかないとダメかなって」


 私の言葉を受けて、ジョージの瞳が暗くなった。

 でもしょうがないじゃない。

 人生なんてしょうがないの連続。今までも、これからも……。


 話の途中だったが、ジョージは家宰のマリウスに呼ばれて部屋を出ていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 オリビア・バラスの母親であるポーラをグラコート伯爵家で保護することになった。

 その選択をジョージがしたのも頷ける。


 寝室のベッドでジョージに腕枕をしてもらった。私の好きな体勢だ。

 顔がニヤけてしまった私をジョージが見つめている。


「なぁ。あとはベルク宰相に任せちゃえば良いかな?」


「ジョージがオリビア先輩を側室にしちゃえば丸く収まるんじゃないの? バラス公爵家とも友誼が持てるし、ポーラさんとオリビア先輩だって離れ離れにはならないでしょ?」


「それ以上言ったら怒るよスミレ。それは認められないんだよ。例えスミレが認めても、俺は絶対認めない。なんどでも言うよ。俺の幸せはスミレが幸せになる事なんだ。スミレが悲しむ決定なんて、俺は断固として認めるわけにはいかない」


 胸が熱くなった。あ、まずい涙が出そう。

 慌ててジョージの胸に顔をうずめる。そのまま気持ちが高まって強く抱きついた。


「ごめんなさい。私が悪かったわ。でも私が我慢すれば周囲がうまくいくと思って」


 貴族の常識では、ジョージが私以外と婚姻するのを防げない。それなら私が側室を認めればジョージは罪悪感を感じないでオリビアを側室にできると思っていたのに……。


 気がついてしまった。ジョージは徹頭徹尾、私を幸せにする事しか考えていない。

 例えそれが困難な道でも躊躇なくその道を選ぶ。

 帝国中央公園の噴水での告白。ジョージは私を何があろうと幸せにしてみせると断言した。

 ジョージと私の違いは覚悟だ。


 ジョージは告白の時に覚悟を決めた。覚悟を決めた言葉だったから私の心に響いたのだろう。

 ジョージの告白に私もジョージを幸せにすると返した。だけど、覚悟を決めてなかった。


 ジョージの幸せが私が幸せになることなら、いくらでも我が儘になってやる。自分の素直な気持ちをジョージにぶつけていこう。

 それで窮地に陥ったとしても、ジョージにありがとうと言いたい。

 私だけはどんな事があろうと、最後までジョージの味方になる。ジョージの覚悟に私も応えるまでだ。

 覚悟を決めた私に、唐突にジョージが話し始める。


「いっぱいの困った事はベルク宰相やダンに考えてもらえば良いんだよ。俺はおっぱいの困った事を考えないといけないから忙しいんだ」


 真面目な話をしていたのに、いきなりおっぱいの困ったことの話題。会話の内容の振り幅の凄さに一瞬思考が止まってしまった。

 深刻になりそうな空気を、あっさりと変えてしまうジョージ。

 やっぱりこの人となら一生楽しく笑って過ごせそうだ。


「なあに? おっぱいの困った事って?」


「スミレのおっぱいを揉めば揉むほど、また揉みたくなるんだよ。これは麻薬だよね。今度論文にして学会に発表しようと思うんだ」


 自然と笑いが出てしまう。ジョージはブレない。本当におっぱいが好きなのね。

 悪ノリには悪ノリで返さないと。


「私もおっぱいの困った事があるの。ジョージに私のおっぱいを揉まれると、また揉まれたくなって胸がキュンキュンするのよ。私も論文を書こうかしら?」


「2人しておっぱいの困った事で論文を書くならしっかりとした検証が必要だね」


「綿密にお願いね」


 私はジョージの唇を受け入れる体勢になった。

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