第184話 貴族の心構え【スミレ視点】
徹夜明けのドラゴン討伐。
体力的にまだまだ余裕だ。
今日、ジョージはアリス皇女に会いに行っている。考えると胸に痛みが走るが、ジョージと愛の確認をしたおかげで平静でいられた。
ドラゴンとの戦闘で激しく動いた時、股間にジワッとした感覚が襲う。
どうやらジョージの愛の
性行為の次の日には良くある現象だ。
ちょっとした不快感だが、愛する人の愛の
私の身体がジョージを求めているのかしら?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日の夜はジョージが私を可愛がってくれる約束だ。
昨晩は私がリードしたが、今日はジョージに任せよう。
屋敷に帰るとジョージがベッドで寝ていた。穏やかな寝顔はまるで少年のようだ。
昨晩のジョージと同一人物とは考えられない。
私は誘引されるようにジョージの頬に触れ、ジョージの身体の上に覆いかぶさった。
鼻腔を満たすジョージの匂い。ジョージの匂いが私は好きだ。性的な興奮を覚える時もあるし、穏やかな気持ちになる時もある。今はどうやら後者のようだ。
ジョージが薄く眼を開ける。まだ頭が覚醒していないみたい。
「ジョージ、ただいま。もう少しこうしていたいわ」
私がジョージを抱き締めると、ジョージも私を抱き締めてくれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕食をとり、部屋でゆっくりしているとジョージが「騎士団のオリビア・バラスって知ってる?」と聞いてきた。
「オリビア・バラス? オリビア先輩かしら? 1学年上の騎士科の首席よね。騎士団第一隊の先輩でもあるから知ってるわよ。どこかの落胤って噂されていたけどバラス公爵だったのね」
「スミレはオリビアさんと付き合いはあった?」
「そうね。一つ上の首席の先輩だったから、ある程度の付き合いはあったわよ。ただ、貴族に対して少し反発するところがあったから、深い仲にはなれなかったけど」
オリビア先輩は涼しげな切れ長の目が特徴のエクス帝国騎士団で
エクス帝国高等学校騎士科を首席で卒業して、エリートであるエクス帝国騎士団第一隊に配属されている。
これだけの能力があれば有名で当たり前だが、彼女が有名なのは才媛だからではない。類い稀な美貌が彼女を有名にしているのを疑いようがない。平民出身のオリビア先輩は、市中では
私は頭が痛くなった。ロード王国の
私は警戒しながらジョージの言葉を待った。
「今日、そのオリビアさんと会ってね。
一瞬、言葉の意味を理解できなかった。私の愛するジョージが
能天気に話すジョージに私は唖然としてしまった。
「今、何て言ったの? 誰が能無しで、誰が腰抜け? それはオリビア先輩が発言したのね?」
私の愛するジョージを貶したオリビア先輩に怒りが湧く。またジョージはグラコート伯爵家の当主だ。グラコート伯爵家の一員として看過できるわけがない。
「スミレ、俺の事で怒ってくれてありがとう。でも弱い犬がキャンキャン鳴いているだけだよ。気にする必要もないさ。それにアリス皇女が既に叱責してくれたから」
ドラゴン(ジョージ)にとって犬(オリビア)が吠えている感じか。
それはそれで理解はできる。
「たぶんだけど、オリビアさんはワザとアリス皇女を怒らせたみたいだよ。何かしらの意図はあるんだろうね」
「アリス皇女を怒らせるために、ジョージを貶したってこと?」
やっぱりダメだ。ジョージが怒っていなくても、この件はグラコート伯爵家全体を侮蔑する行為だ。
「そりゃアリス皇女に不敬を働くわけにはいかないだろ。だから俺だったんじゃないかな」
慌てているジョージに私は今の気持ちを素直に言葉にした。
「了解したわ、ジョージ。取り敢えず腕の一本くらいで勘弁してあげる事にするわ」
驚くジョージに、今はこの話を打ち切る事にした。
「それよりも今晩は私を可愛がってくれるんでしょ。早くベッドに行きましょう」
ジョージはすぐに微笑み、私を抱き抱えて寝室に連れて行ってくれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
12月12日【無の日】
動物の本能を剥き出しにした性行為も良いが、昨晩のように愛情を確かめながらの性行為は、また違った良さがある。
性的に満たされていると精神状態が落ち着くとノースコート侯爵家の性技の資料にあったが、それを実感しているところだ。
日課の朝の瞑想をしているとジョージが起きたようだ。
「おはよう、スミレ。ご機嫌はいかが?」
朝の光を浴びて、ジョージがこちらを見ている。なんて素敵な男性だろう。幸せ過ぎて怖くなってしまう。
「おはよう、ジョージ。最高の気分ね。あんなに優しく愛してくれたら、誰でもご機嫌になるわよ」
「昨晩のオリビアさんの腕の話は冗談だよね?」
しっかりとジョージに理解してもらわないとダメね。これは上級貴族として生きていく上で大切な事だ。
「冗談でそんな事は言わないわよ。貴族は面子を潰されてはいけないの。これをほっといたら他の貴族からも舐められるから。グランコート伯爵家の当主が馬鹿にされたのよ。それに私たちにはしっかりとした後ろ盾が無いのよ。これを放置していたら今後に支障をきたすわ」
「後ろ盾はあるじゃん。アリス皇女とベルク宰相がいるよ。それにサイファ魔導団長にライバー騎士団長だっているし」
ジョージが平民から魔導爵になったのはエクス帝国魔導団に入団してから。ただし貴族の最下層である魔導爵は平民に毛が生えたようなもんだ。
いわゆる生粋の貴族になったのは今年の6月。まだ半年しか経っていない。早いうちに甘い考えを捨てさせないと……。
「ジョージ。貴方は高位貴族になって日が浅いわ。貴族には私的な立場と公的な立場があるのよ。私的にどんなに仲を深めても公的な立場が優先される事が多いの」
私の話にキョトンとしているジョージ。丁寧に説明するように心がけねば。
「アリス皇女が皇帝陛下に即位して国政を始めたとしたらどうなるか。例えばグランコート伯爵家とバラス公爵家で揉め事があったとする。バラス公爵家には侵略戦争推進派の貴族が多数味方するでしょう。グランコート伯爵家にはどのくらいの貴族が味方してくれるか」
「それなら侵略戦争反対派の貴族が味方してくれるはずだよ。それにベルク宰相の実家のエバンビーク公爵家だって味方してくれるでしょ?」
「バラス公爵家は歴史が古いのよ。しっかりと血縁関係を結んでいる貴族だって多くいるわ。エバンビーク公爵家だって、ジョージは当主のベルク宰相のお兄さんと面識がないでしょ。それに侵略戦争反対派でもバラス公爵家と経済的に繋がりが強い貴族も多くいるの。簡単にグラコート伯爵家に味方するとは限らないわ」
狼狽し始めるジョージ。
貴族間で善意だけで味方をしてくれる人なんか皆無と思っていないと火傷をする。
「アリス皇女だって、国政を運営していたら、国を割るような行為は選べないわ。ジョージだけに肩入れはできないわよ。しっかりと認識してね。グラコート伯爵家は圧倒的な戦闘力が求心力、力の源泉なの。これが傷つくような事は認めるわけにはいかないわ」
深く考え始めているジョージ。もう少しかな。
「ジョージがこのエクス帝国の皇帝陛下になるなら何も問題ないわ。武力で黙らせれば良いから。でもエクス帝国の一貴族としてやっていくなら、エクス帝国の貴族の勢力に気を使わないとダメなの」
ジョージが私を見つめた。その瞳には力が宿っている。
「グラコート伯爵家は武力の家門としてこれまで以上に売り出していく必要があるの。例え騎士団のエリートでも、先日まで平民だった公爵令嬢如きに舐められるわけにはいかないわ」
私の言葉にジョージは気合いが入ったようだ。状況説明は成功したかな。
あとは私がジョージを支えるだけだ。
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