第183話 女神のような笑顔と優雅な動き【スミレ視点】

12月9日【赤の日】

 明後日にジョージはアリス皇女に会いに行く。その前日の夜から朝までは私がジョージを骨抜きにする予定だ。

 ジョージが他の女性に目移りさせないためにも頑張らないと。

 歴史あるノースコート侯爵家には夫婦和合のための資料が数多く残されている。

 夫婦生活において、全てでは無いが性行為は重要なものだ。性生活の充実が夫婦和合への道である。

 ノースコート侯爵家の結婚は政略結婚が当たり前だ。ジョージと私のような恋愛結婚はまれ中のまれ。ほとんどの政略結婚の場合は愛情が希薄の状態から性行為に至る。ノースコート侯爵家の性技の真髄は性行為を通して夫婦間に愛情を芽吹かせ、育むことにある。

 ノースコート侯爵家の性技には直接的なものもあるが、それだけではない。興奮させる状況を作りあげる事も重要視している。

 私は嫁入り道具として持参した寝間着を取り出した。カスタール商会に頼んで作成したもらった特注品だ。

 明日の夜はこれを着て、私はジョージの前に立つ。

 想像しただけで、赤面してしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


12月10日【黒の日】

 午前中のドラゴン討伐、午後の魔法射撃場での魔法練習。どちらも今日は上の空だった。


 夜になり寝室で準備を始める。緊張を和らげるためのお酒を用意し、淡い光を出す魔道具の間接照明を付けて特注の寝間着に着替える。

 着替え終わって全身を移す鏡を見た。

 その瞬間、唖然とした。


 ほとんど透けているワンピースタイプの寝間着。下着も着けていないため、乳首の色までハッキリわかる。

 裸でいるより恥ずかしい寝間着……。一歩間違うと下品になってしまうだろう。これは優雅に動かないとダメだ。また恥ずかしがってもいけない。女神のような笑みが必要だわ。

 私は時間をかけて鏡を見ながら表情と動きを確認した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 扉が開く。さぁここからが本番だ。私は自分自身にスイッチを入れた。

 寝室に入って来たジョージは私の姿を見て固まっている。

 恥ずかしくなって胸を隠したくなったが、なんとか自制に成功した。


 【女神のような笑顔と優雅な動き】


 なんども確認するように頭の中で反芻し、ゆっくりと固まっているジョージに近づく。

 ジョージの視線が私の顔、胸、股間を行ったり来たりする。

 笑顔の仮面の下に、羞恥の感情が激しく渦巻く。そのような感情をおくびにも見せずに囁くように言葉をかける。

 

「どうしたの? ジョージ? 固まっちゃって。どう、カスタール商会に頼んでいた寝間着よ。どうかしら? 似合っているかな?」


 ここだ!

 私は寝間着の裾が広がるように身体を一回転させた。


「スミレ!」


 声を上げて飛び掛かってきたジョージを余裕を持って躱す。

 堪えきれなくなったジョージがこのような行動に出るのは予想の範囲内だ。


「ダメよ、ジョージ。まだ夜は長いの。ゆっくり楽しみましょう。まずは軽くお酒でも飲みましょうか」


 私はベッドの横にあるソファセットに移動してお酒の用意を始める。

 まだまだ焦らす段階だ。我慢させればさせるほど、ジョージは私という沼にハマってくれるだろう。


 ジョージを見ると眼が血走っている。もしかしてまばたきをしてないのかしら? 下半身に目を移すとジョージ君・・・・・が立派な事に……。

 自分が女性として愛する人に性的な対象と見られている。その事にゾクゾクと喜びを感じてしまう。これが女性の喜びなんだろう。

 “もう少し待っててね、ジョージ君・・・・・。あとでいくらでも私の中・・・で暴れさせてあげるから”

 私はジョージに抱かれる喜びを隠すことをせず、笑顔を向けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


12月11日【白の日】

 性行為は朝の5時まで続いた。今はジョージに腕枕をしてもらっている。

 私の髪を優しく撫でるジョージ。

 性的な快感とは違った心地良い感覚……。


 眼を閉じると帝国中央公園の噴水前でのジョージの告白の映像が頭に浮かぶ。

 私にとって、最高の思い出、宝物だ。

 でも大事な事はその後なんだろう。確かにジョージの告白を受けて、お互いに愛情を確認し合った。それはそれで嬉しい事だが、何もしないと愛情が薄れていくに違いない。確かめ合った愛情を大事に育てていく事が大切なんだと思う。

 昨晩は恥ずかしかったが、その後の性行為は充実したものになった。

 愛情を育むためには充実した性生活は欠かせない。これからもノースコート侯爵家の性技にお世話になりそうだ。


 私はシャワーを浴びるためにベッドを出る。

 その時、ジョージが私の中に放った愛のあかしが、ふとももを伝った。

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