第178話 きぞくのやしきにぞくぞくとぞくがくる

 午後はいつものように軍人引き連れドラゴン討伐。そろそろ飽きてきたな。今度、スミレと修練のダンジョンの地下4階を搜索してみるか。でも地下5階にいけるとしても行かないけどね。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 夜にスミレの太ももに頭を乗せ、耳かきをしてもらう。俺はすべすべのスミレの太ももを撫で回す。幸せってこういう事のような気がするな。


「なぁスミレ、ダンがグラコート伯爵家で雇ってくれないかって言うんだ。どう思う?」


「そうね。ダンは政治調整にけているし、頭も良いからグラコート伯爵家には利するところがあるわね。ジョージが問題なければ賛成よ」


「俺に問題?」


「ジョージは私がダンに目移りするかもって心配しているでしょ。いつもジョージはダンが私に近寄らせないように牽制してるから」


「え、えっと……」


「大丈夫よ。ジョージが私を信頼してくれているのは理解しているわ。ジョージが自分に自信を持てないだけでしょ。でもジョージは自己肯定感が低過ぎるわ。少しずつでも良いから直した方がよいかもね」


 自己肯定感か……。

 スミレと修練のダンジョンの捜索を開始してからまだ一年経ってないもんな。人間、そんなに簡単に変わらないよ。

 

「でもどうするの? ダンを臣下にするつもり?」


「今回のような事がこれからも起きると思うんだ。頭脳担当の人が欲しいよね。毎回ベルク宰相を頼るのも問題あるしさ。よし、決めた! ダンを雇う事にするよ。グラコート伯爵家臣団を作るぞ!」


「それならいろいろ考えないといけない事もあるわね。お父様にも相談してみようかしら?」


 そうだな。家臣団を作るのならわからない事もたくさんありそうだ。歴史ある侯爵家当主に話を聞くのもありかもな。


「まずはダンに声をかけてからかな。そういうのもダンに任せちゃえば良いっしょ。まずはおっぱいの論文を書き上げないとね」


「あら、そうなの? さっきから私のお尻を撫で回しているから、てっきりお尻の論文にするのかと思っていたわ」


「甲乙付け難いよね。どちらにするかは今晩吟味して決めようかな」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 うん? 魔力ソナーに知らない魔力が引っかかった。

 俺は無意識に魔力ソナーを展開するようになっているからな。寝ていても害意のある魔力が近付くと反応してしまうわ。

 それにしてもこんな夜更けにお客さんは間に合っているよ。


 俺はスミレを起こさないように身支度を整え、愛刀の【黒月こくげつ】を帯刀した。

 賊は真っ直ぐ裏庭に移動している。迷いが全く無い。

 部屋の窓から侵入をしようとしている。

 全部で12名か。取り敢えず生捕いけどりだな。


静謐せいひつなる氷、悠久ゆうきゅうの身を矢にして貫け、アイシクルアロー!】


 裏庭の暗闇に飛来する氷の矢。

 すぐに悲鳴が辺りに響き渡る。


 いきなり近付くのも危険かな。一応、両手と両足にアイシクルアローをぶち込んだけどね。


 暗闇からは呻き声が聞こえてくる。

 少し経つと屋敷の部屋の灯りがついた。最初に顔を出したのが家宰のマリウスだ。


「こ、これは……。あ、旦那様!」


「賊が侵入してきたから無力化しといたよ。さてどうするかな」


「取り敢えず、拘束しましょう。ザイン! 納屋から縄を持ってきてくれ!」


 気がつくと皆んな裏庭に出てきていた。

 マリウスから指示されたザインは呆然としている。


「ザイン! 何をしている! 早くしろ!」


 マリウスの再度の指示に慌てたように納屋に向かうザイン。

 寝ぼけていたのかな?


「旦那様は危ないから近付かないでください。私とバキとザインで賊を縛り上げますから」


 そうだな。まだ武器を隠し持っているかもしれないからな。一応賊に警告をしておくか。


「呪文の詠唱を始める奴がいたら、速攻で首を刎ねるから覚悟するように。ここはグラコート伯爵家の屋敷と知っての狼藉だな。この後は騎士団に引き渡す予定だ。それまで大人しくこちらの指示に従うように」


 やっぱりこれはバラス公爵家の仕業なのかな? いったいどういうつもりなんだろ?


「侵入しようとしていた部屋はポーラが使っている部屋みたいね。タイル公爵がポーラを奪いにきたと考えるのが普通かしら」


 後ろを見るとスミレが寝間着のまま立っていた。

 魔力ソナーの集中を賊に向けていたから気が付かなかったわ。


「そうなん? でもそこまでタイル公爵がポーラに執着するの? 捨てた後は放置してたんじゃないの?」


「一度調べたほうが良いかも。タイル公爵の真意がわからないと対処のしようがないわ」


「賊から得られる情報次第だね」


 その時、賊の声が呻き声から断末魔に変わっていく。

 次々と口から血を吐き出していく。

 こりゃ当分トマトジュースはいらないわ。


 ザインが縄を持って戻ってきた。


「縄はもういらないみたい」


「えっ!」


 血を吐き出して絶命している賊を見て縄を落とすザイン。

 結構ショックを受けたみたい。まぁなかなか凄惨な光景だからしょうがないわな。


「ザイン。悪いんだけど騎士団第二隊の詰所に行ってきてくれ。グラコート伯爵邸に賊が侵入したって。全員死んでいるけどね」


 俺の指示に首を縦にカクカク振るザイン。そのまま無言で外に出ていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その後騎士団第二隊の隊員が20名ほど駆け付けてくれた。

 状況説明や現場検証、死体の移動に結構時間がかかる。

 全てが片付いた時には太陽が顔を出していた。


 取り敢えず仮眠でもするか……。

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