第176話 盤をひっくり返す終盤戦
ベルク宰相は淡々と話を進めていく。
「あとひとつグラコート伯爵家から要望が出されています。その要望は、今後バラス公爵家がオリビア・バラスとその母親のポーラに一切関わらないこと。これについてエクス帝国政府は賛成の立場です」
「何を馬鹿な事を言っているんだ! 意味がわからん! 話にならん!」
また席を立ち上がり怒声をあげるタイル公爵。こりゃ、演技じゃなくマジで怒っているわ。
「馬鹿な事ではありません。貴方はジョージ伯爵からオリビア・バラスを側室にしないと、オリビアを奴隷に落とすと脅迫していますね?」
「そんな事はしてないな。そもそもそれが脅迫になるのか? それにオリビアをどうしようが私の勝手だ。オリビアをバラス公爵家から離籍するかどうかを決められるのは当主の私だけだ」
「法律ではそうですね。それでは法律のとおり粛々と進めていきましょうか。12月11日にオリビア・バラスがアリス皇女の部屋にてジョージ伯爵に侮辱的発言をした件について、アリス皇女はこれは皇室侮辱罪であると宣言しました。騎士団の方々入ってきてください」
ベルク宰相が合図をすると騎士団の隊員が10人ほど入室し、オリビアの前に向かっていく。
一歩前に出た隊員がオリビアに所定の説明を始める。
「オリビア・バラス。貴女に皇室侮辱罪の嫌疑がかけられております。騎士団第二隊詰所までご同行をお願いします」
驚いた様子のオリビアは隣のタイル公爵を見る。
「ふざけるな! オリビア、行く必要はない! なにが皇室侮辱罪だ! ジョージ伯爵は皇室の人間ではないだろ!」
「ジョージ伯爵はエクス帝国の皇室が認めた伯爵です。伯爵に
あ、タイル公爵の手が滅茶苦茶震えている……。
「ふざけるな! 詭弁もいいとこだ! エクス帝国皇室と政府はバラス公爵家を敵に回すつもりか!」
「この件を法務局に確認を取っております。オリビアの発言は皇室侮辱罪に当たる可能性が高いという返答をもらっています。そしてどうやら私と貴方には見解に相違があるようですね。今日の裁定は全てバラス公爵家に善かれと思って開催しております。どちらかというとバラス公爵家に甘い裁定になっていると認識してください」
「これのどこが私達にとって甘い裁定なんだ? 貴族として当たり前の婚姻話の提案を叱責され、
「一面だけを見ればそうかもしれないですね。しかしバラス公爵家は決定的にグラコート伯爵家と敵対しないで済むではないですか? 私はそれがバラス公爵家にとって最大の利益になると信じています」
「それこそバラス公爵家にとってではなく、エクス帝国政府にとっての利益だろ?」
「タイル公爵。今年の6月の末にエクス帝国に英雄が誕生してから情勢が大きく変化しております。その変化にしっかりと対応していかないと歴史あるバラス公爵家が貴方の代で
騎士団がオリビアを拘束して連行していく。
「それではオリビアの件は司法に委ねられました。あとは粛々と法に従って対処しましょう。あとはオリビアの母親のポーラについてです。グラコート伯爵家からの要望はポーラについてもバラス公爵家が今後一切関わらないようにとの事でしたね。これは簡単です。現在、ポーラはグラコート伯爵家で保護しております。オリビア・バラスと違いポーラは法律的にバラス公爵家と無関係です。あとはジョージ伯爵からバラス公爵家に宣言するだけです」
ベルク宰相が俺を見て目で合図をする。特に何も打ち合わせはしてないが、これは俺でもよくわかる。
「タイル公爵、ポーラを今後グラコート伯爵家の庇護下に置きます。直接的や間接的に関わらず、バラス公爵家がポーラに対して害意のある行為をされた場合にはグラコート伯爵家への攻撃とみなします」
ギロリと俺を睨むタイル公爵。
腹の底から振り絞るような声を発する。
「き、貴様のような若造が、だ、誰に口を聞いているかわかっているのか……」
「貴方に言っているんですよ。
「認めん! 認めんぞ! ポーラの件は絶対にみとめん! ふざけるなぁ!」
タイル公爵は怒声を上げるとそのまま部屋を出て行ってしまった。
なんか凄かったな……。
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