第172話 被虐願望!?

 明日は【白の日】だ。アリス皇女を訪問する日である。

 という事は……。


 今晩は、スミレが俺を骨抜きにしてくれる夜だ。

 先週はグラコート伯爵邸の寝室に女神が降臨したよな。今晩は果たしてどうなるんだろう?


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺は期待で胸を膨らませて寝室のドアを開けた。


 あれ? スミレは普通の寝間着を着ている。今日は特に何もないのかな?

 ん? スミレが何かを持っている。


「今晩はジョージにゆっくりとくつろいでもらおうと思ってね。まずはこれで眼を隠して」


 そう言ってスミレは布性の目隠しを渡してきた。

 何か良くわからんが素直に従ってみるか。

 目隠しをすると視界が全く無くなった。真っ暗闇だよ。


「フフフ、手を貸すわ。こっちに移動するわよ」


 スミレが俺の手を取って移動を始める。

 この方向はお風呂場に行くのかな? もう入浴はしたんだけど。ま、もう一回入っても良いか。


「足元気を付けてね」


 スミレの声がいつもより弾んでいる。とても楽しそうだ。なんか俺まで楽しくなってくるね。


 扉を開ける音がした。

 …………。

 ははは、これは凄いや。


「これは花の香りだね。優しい香りだ」


「ラベンダーの香りよ。疲れた身体に最適なの。最近いろいろあったから、せめて私といる時はジョージに寛いでもらいたいのよ」


 視覚が閉ざされているから嗅覚がより鋭敏になっているような気がする。

 その為の目隠しかな?


「今晩はジョージには王様になってもらうわね。私はジョージの召使い。それではジョージ様、服を脱がさせていただきます。こちらにお越しください」


 俺の手を引いて誘導するスミレ。たぶんここは脱衣所かな。

 スミレはゆっくりと俺を裸にしていく。

 あぁ……。これから何が行われるのだろう……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


12月17日【白の日】


 またまた俺は骨抜きにされた……。

 昨晩、確かに俺は王様になった。そしてスミレは最高の召使いだ。

 身も心も溶けたよ。これは癖になるな。


 スミレは朝から瞑想をしている。

 あぁ、神々こうごうしいな。

 スミレは本当にエロス神の化身けしんだよ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ようこそ! ジョージ様!」


 今日もアリス皇女は満面の笑みで俺を出迎えてくれる。

 こんな笑顔を向けられたら男ならイチコロだよ。俺は昨晩のスミレのおかげで聖人だから大丈夫だけど。


 今日はすぐにアリス皇女の部屋を出る。

 アリス皇女はだいぶ部屋から出るのに抵抗が無くなっているな。相変わらず柔らかいものを俺の腕に押し付けてくるけど……。


 皇族の居住空間にある客室でお茶が用意されていた。

 2人がけのソファに座ると、当たり前のようにアリス皇女は俺の隣に座った。

 普通はテーブルの向かい側のソファに座るだろ。

 アリス皇女はニコニコした顔を俺に向けてくる。

 あ、こりゃ駄目だ。諦めるか。それそろ大事な用事を済まさないとな。


「今日はアリス皇女にお願いがあります」


「何かしら? ジョージ様の頼みでしたら私にできる事は何でもいたします」


「オリビア・バラスをお許ししていただけないでしょうか?」


 アリス皇女の笑っていた目が一瞬のうちに冷たくなる。


「それはどういう事かしら? まさかジョージ様がオリビアに心を奪われたって事かしら?」


 は? 何で俺が棒読み姉ちゃんに心が奪われるんだよ。あり得ないだろ。


「あの、おっしゃっている意味がわからないのですが?」


「そのままの意味です。どうしてオリビアに侮辱されたジョージ様がオリビアの容赦を私に直訴するのですか? ジョージ様がオリビアに恋心を持ったと思うのが自然な事です」


 なるほど。いろんな見方があるんだな。確かに侮辱された俺が加害者のオリビアの味方をするなんておかしな話だ。


「そんな気持ちはサラサラありませんよ。ライバー騎士団長に頼まれたんですよ。それにオリビア・バラスの母親のポーラは現在私の屋敷で保護しています。ポーラはとても不幸な人生を歩んできています。彼女には幸せになってほしいんですよ」


 アリス皇女の顔が少し柔らかくなったかな?


「それならばジョージ様はオリビアの母親であるポーラに恋心を持ったって事ですか?」


「なんで恋心を持たないと駄目なんですか。普通に不憫に思っているだけです」


「それなら良いですけど……。私に取ってジョージ様とスミレ様の恋愛は憧れなんです。変な女が介入するのは許したくないんです。それに私と一緒にいるのに、他の女性の話をするなんてジョージ様は無粋ぶすい過ぎます。それに先程からなんですか、その言葉遣いは。約束が違いますよ」


 そりゃ目上の人にお願いするんだから言葉遣いが変わるのはしょうがないよな。

 えぇい! 面倒だ! ヤケになってやれ!


「じゃ、お願いなんだけど、オリビアを許してくれよ。母親のポーラは美貌が仇になって不幸な事ばかりなんだ。オリビアに幸せになってもらえないとポーラも幸せになれないんだよ。アリスならわかってくれるよな?」


 顔が赤くなるアリス皇女。なんだ? 怒ったか? うつむいてしまったぞ。

 アリス皇女はそのまま下を向いたまま、か細い声で話し始める。


「わかりました。ジョージ様。オリビアを許す事にします。ただ、私からジョージ様にひとつお願いがあるのですが……」


 お、案外簡単に許してくれたな。これでエロエロさんにも大きい顔ができる。


「お願い? なんだい? できる事ならなんでもやるよ」


「とても簡単な事です。たまに先程のように私に命令してください。ジョージ様の命令はとてもゾクゾクします」


 !? このむすめは何を言っている?


「いやいや先程の言葉は命令じゃなくてお願いだろ?」


「いや私にとっては命令みたいなものでした。またそれがとても心地良くて……。憧れのジョージ様に命令されると私は絶対断れません。それが堪らなくて……。本当にゾクゾクします」


 あ、アリス皇女の眼が潤んでいる。俺は何か変な扉を開いてしまったのか……。

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