第173話 座右の銘の卒業

 一応、エクス城から真っ直ぐ騎士団本部に向かった。報告は大事だからね。

 案の定、ライバー騎士団長は団長室で俺の報告を待っていた。


「おぉ! アリス皇女殿下はオリビアを許してくれたか! さすが英雄様だな。ジョージに頼んで正解だったよ」


「こういうのは今回だけにしてくださいね。あんまり好きではないんで」


「おお、わかっているさ。あ、カタスとダンの都合を聞いたぞ。再来週の12月26日の【緑の日】はどうだ? 問題なければその日に忘年会を開くぞ」


「大丈夫です。男だけの飲み会は楽しいですからね。今から待ち遠しいですよ」


 ニカっと笑うライバー団長。

 俺は男だけの忘年会を楽しみに団長室をあとにした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アリス皇女と会って帰ってきた日は俺がスミレを可愛がる約束だ。

 頑張るつもりだが、自分も楽しみたいね。


 その晩はゆっくりとした穏やかな性行為。

 気持ちがたくさん感じられた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


12月18日【無の日】


 明日はバラス公爵家とグラコート伯爵家の揉め事の裁定の日だ。

 今日くらいはスミレとゆっくりしたいね。


 グラコート伯爵邸には小さな書庫がある。蔵書は貴族一般に必要な本だ。新しく追加される本は家宰のマリウスが吟味して購入してくれている。またグラコート邸で働いている人が持ち込んだ本も保管されている。そのため、入り口の本棚はサラが好きな恋愛小説が並んでいる。


 今日はバラス公爵家について書いてある本を読むつもりだ。バラス公爵家についてもっと知識を付けておいたほうが良いよな。


 ます手に取ったのはエクス帝国貴族名鑑。エクス帝国の貴族の基礎情報が載っている。毎年発刊されるため、情報鮮度は良い。


 どれどれバラス公爵家の基礎情報はどんな感じだ。

 当主はタイル・バラス。知っとるわ!

 本当に基礎情報だな。

 バラス公爵家の歴史は……。要約すると、とても古いって事だな。その他にわかったことは、エクス帝国貴族名鑑が細かい文字でウザいって事。

 寝不足の頭にこの資料は不釣り合いだ。俺が悪いわけではない。ただ不釣り合いだっただけだ。これは世界の真理なのだろう。逆らっちゃいけない。

 バラス公爵家の情報はスミレに聞いたほうが早いな。それに新しい座右の銘ができそうだ。

 【世界の真理に逆らうのは愚純】?

 いや【寝不足の時は細かい資料を見るな】かな?

 いやいや座右の銘では無くグラコート伯爵家家訓にしたほうがカッコ良いかも。

 グラコート伯爵家家訓第一条! 【知らん事はスミレに聞け!】か。でも代々続く家訓にスミレを入れちゃマズいのか?


 俺はスミレの部屋に向かった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「グラコート伯爵家の家訓を作ろうと思うんだけど、【読むより聞け!】で良いかな?」


「また唐突な話ね。いきなり家訓って言われても……。どうしてそんな事を思ったのかしら?」


 俺はスミレに丁寧に書庫部屋から今までの俺の思考の流れを説明した。


「ジョージって座右の銘なんて大事にしているの? そしてそれを勝手に作っているのね」


 スミレは一瞬呆れた顔になったが、その後優しい顔に変化した。


「本当にジョージのそういうところは私には発想ができないし、可愛いわね。グラコート伯爵家の家訓はあとで2人でゆっくり考えましょう。まずはバラス公爵家の情報を話しましょうか」


 スミレからバラス公爵家の説明を受ける。

 エクス帝国には現在公爵家が三家存在する。公爵家は状況によっては皇帝陛下になる家柄だ。その為、皇室の血を濃くしておく必要がある。公爵家の当主の血がある一定程度皇族の血が薄まると、公爵家から侯爵家に変更になるそうだ。

 スミレの実家のノースコート侯爵家は数世代前に公爵から侯爵家になった由緒正しい侯爵家なんだと。

 そして現在のバラス公爵家の当主であるタイル・バラスは崩御されたザラス皇帝陛下と従兄弟の関係だそうだ。

 ふーん。まぁどうでも良い情報だな。


 大事な事はバラス公爵家がエクス帝国の経済を牛耳っている事みたいだ。

 特に流通業においてはバラス公爵家ゆかりの業者が独占状態みたい。

 先日ベルク宰相が言っていた事を改めて理解したよ。

 やっぱりエクス帝国としてはグラコート伯爵家だけに肩入れするわけにはいかないんだな。

 はたしてどのような決着になるのか。明日は暴走だけは控えよう。


 その後、スミレと仲良くグラコート伯爵家家訓を考えて休日を過ごした。

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