第170話 聴き取り調査
12月16日【黒の日】
ベルク宰相の聴き取りを受けるために、朝の9時にエクス城に到着した。
俺はスミレと2人でエクス城の指定された部屋の扉を開ける。
「お待ちしておりました。ようこそ、ジョージ・グラコート伯爵、スミレ・グラコート伯爵夫人」
馬鹿丁寧な挨拶で俺たちを迎えるベルク宰相。部屋の隅には書記官が座っている。
今日の聴き取りは公的なものとなる為、記録をしっかりと残すとスミレが言っていた。不用意な言葉は注意しないと。
「おはようございます。ベルク宰相、今日はよろしくお願いいたします」
「それではこれよりバラス公爵家とグラコート伯爵家との諍いについての聴き取り調査を始めます。話した内容は書記官によって記録されます。正式な証拠になりますので、注意してください」
聴き取り調査はベルク宰相の注意から、厳かな雰囲気の中で始まった。
俺はこれまでの経緯を丁寧に話す。
ベルク宰相は無言だ。
書記官の紙の上を走らせるペンの音が何故が気になった。
俺の説明が終わるとベルク宰相がゆっくりと口を開く。
「経緯は理解できました。それではグラコート伯爵家としての希望を教えてください」
今日のベルク宰相はずっとこのモードか……。やりにくいな。
「全部で2つあります。一つ目がバラス公爵の娘のオリビア・バラスを私の側室にしない。これは絶対です。もう一つがバラス公爵家が今後一切オリビア・バラスとポーラに関わらない事です」
無表情だったベルク宰相の眉が少し上がる。
「一つ目の側室を断るのは、非公式でグラコート伯爵と話した時から予想はしていました。しかし二つ目のオリビア・バラスとポーラの件は、グラコート伯爵家とそもそも関係が無い事ですが。それでもこの件を希望しますか? 希望を通す為にはバラス公爵家への譲歩が必要になるかもしれませんよ」
「難しい事はわからないです。でも今回の件で誰かが不幸せになる結果は避けたいと考えています。そうしないとスミレの心に傷がつきますから」
俺の言葉を受けてベルク宰相が部屋の隅の書記官を見る。
「書記官、ここからは非公式の会話になります。記録を止めてください」
「全く、ジョージさんは本当に貴族らしくない貴族ですね。普通はバラス公爵家から婚姻を求められたら喜んで承諾しますよ。それが家の発展に繋がりますから。ましてやオリビア・バラスの美貌は騎士団の中で有名ですからね」
オリビアの美貌かぁ……。
確かに少し気が強そうだが、あの整った顔を歪めてやりたくなる。屈服させてよがらせたいわ。
これは健全な
取り敢えず妄想だけにしとこ。妄想は浮気じゃ無いしね。
「オリビアとポーラの件はなんとかなりますかね? ポーラの話を聞いたらやるせない気持ちになってしまって。できればどうにかしたいんです」
「私もダンからポーラの件については報告を受けております。私はエクス帝国の宰相です。エクス帝国民の幸せの為に働いております。エクス帝国民が泣いているのなら、
ベルク宰相がここまで言うのなら安心だな。大船に乗った気持ちだよ。これなら俺はゆっくりと論文を考えることができる。
「ただし、ジョージさんには一つ注意しておく事があります。バラス公爵家の力をしっかりと認識してください。バラス公爵家はエクス帝国一の経済貴族です。エクス帝国に取ってグラコート伯爵家は重要ですが、バラス公爵家も同じくらい重要なのです。バラス公爵家がその気になればエクス帝国の経済は麻痺してしまうでしょう」
それはそれで困るな。やっぱりタイル・バラス公爵をプチっとしちゃ駄目なのかな?
「あのー、もし、もしなんですけど、俺がタイル公爵にムカついて再起不能とかにしちゃうと問題ですか?」
「問題が
そうなんだ……。
スミレの悲しい顔やポーラの泣き顔を思い出すとタイル公爵に怒りしか湧かないからなぁ。注意しないと。
「今回の揉め事はエクス帝国一の経済貴族とエクス帝国一の武力貴族のものと認識してください。どちらの家もエクス帝国には大事なんです。ジョージさんが何とか納得できる着地点を考えますから、どうぞよろしくお願いします」
そう言って深々と頭を下げるベルク宰相。お父さんにここまでされたら俺も大人しくするしかないよな。
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