第169話 瞑想が迷走

12月15日【赤の日】


 ベッドの横で座禅で瞑想しているスミレ。俺はそれを正面から凝視している。

 魔力ソナーを鍛えているスミレの日課だ。

 深い呼吸に合わせて胸が上下する。その映像を頭に焼き付けるように凝視する俺。

 太陽の光が部屋に入ってきた。その光を浴びてスミレの透き通るような白い肌が強調される。

 あぁ、何て神々しいんだ。


 俺が自分の世界に浸っていると、スミレが静かに眼を開ける。


「ねぇ、やっぱりおかしくない?」


「なにがさ?」


「魔力ソナーの鍛錬をする時は裸のほうが良いって……」


「これは俺の経験から提案したものだよ。五感から入ってくる情報をできるだけ少なくするんだ。スミレは魔力ソナーを鍛錬する時に眼を閉じるでしょ。それは視覚からの情報を排除しているんだ。服を着ていると触覚から服を着ているという情報が脳に伝達する。裸になるのはそれを排除する方法だ。また肌を多く露出したほうが感覚が鋭敏になるんだ。それが魔力ソナーの感覚に良い影響を与えるはずさ」


 全裸のスミレは俺をジト目で見る。

 ま、負けるな俺! 俺は裸で瞑想するスミレが見たいのだ!


 スミレは一つ息を吐いて呆れたような声を出す。


「ま、良いけどね。この件はジョージに騙されてあげるわ」


 おぉ! これで毎朝全裸で瞑想するスミレが見放題やん! 寝坊厳禁! 早起きしないと! やったよ! 俺は人生の勝利者じゃ!


 スミレが挑発的に胸の下で腕を組んだ。それにより豊かなおっぱいがさらに強調される。

 な、なんて破壊力だ……。俺の脳はダウン寸前だよ。

 

「でもね、ジョージ。私が裸で瞑想しているのを見たいのなら、言ってくれたらいくらでもそうするわよ。無理な理論を提唱しなくても大丈夫よ」


 あら、バレてら。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 今日はスミレと朝から修練のダンジョンだ。ここ数日は午前中に用事があって全然スミレとドラゴン討伐に行けなかったからな。


 メイド長のナタリーが俺に鞄を差し出す。


「いつもどおり洗濯できる物は洗濯しております。革の部分は陰干しをしておきました。今日は【赤の日】ですから、赤を選びましたがよろしかったでしょうか?」


「おぉ! いつもありがとう。やっぱり赤が良いね。それじゃ修練のダンジョンに行ってくるよ」


「いってらっしゃいませ、ご主人様。楽しんできてください」


 ナタリーの温かい視線を背に受け、俺はスミレを連れ立って颯爽と修練のダンジョンに向かった。小脇には赤のビキニアーマーの入った鞄を抱えて。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 いつもの午前中はスミレとドラゴンの魔石を9個得る事ができる。

 しかし今日は6個の魔石しか得ていない。これはビキニアーマーの呪いだな。俺は全く悪くない。どちらかといえばけしからん身体をしているスミレのせいだ。


 午後は俺はエクス帝国軍とロード王国軍のレベル上げ。スミレはベルク宰相に裁定を依頼する書類を提出にいく。公的書類で正式には上級貴族間裁定願届書とか言うらしい。

 これを提出すると公けにグラコート伯爵家がバラス公爵家との揉め事をエクス帝国政府裁定してもらう事を依頼した事になる。

 この裁定は公的なものになり、その決定にエクス帝国貴族として必ず従わなければならない。


 貴族間の揉め事を国が解決してくれるのは良いのだけど、費用が1,000万バルトかかる。この費用は上級貴族間裁定願届書を提出した者の負担だ。俺は悪くないのになんでこんなの払わないといけないのか……。

 まぁドラゴンの魔石5個分と思えばたいした金額ではないか。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 夕方に帰宅するとスミレは既に屋敷に戻っていた。


「グラコート伯爵家とバラス公爵家の問題の裁定日が来週の12月19日に決まったわ。事前のベルク宰相の聴き取りが明日の午前中ね」


「随分と早いね。もう少し時間がかかるかと思ったよ」


「エクス帝国の重要貴族であるバラス公爵家とグラコート伯爵家の揉め事だから、早急に解決したいみたい。普通は1ヶ月以上待つわ」


 早く裁定してくれるならありがたい。

 まぁなるようになるだろ。

 スミレが悲しむ結末だけは許さないけどね。

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