第166話 おっぱいの困った、いやいっぱいの困った事
12月14日【緑の日】
オリビアの母親のポーラさんをどうするか? 保護するとタイル・バラス公爵と敵対する感じなのかな? タイル・バラス公爵の提案も考えないと……。
俺にこういう頭脳労働は向いていないよ。
昨日に続いて今日もベルク宰相に相談しないと駄目か? いや待てよ。こういう頭脳労働が得意なやつがいるじゃん!
どれどれ、どこにいるかな?
魔力反応はエクス城だな。朝から勤勉やな。
俺は早速ザインを使いに出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
すぐにダンはグラコート伯爵邸に来てくれた。
「どうしました? ジョージさん?」
今日も長めの金髪を無造作に後ろに縛っている色男のダン。
男性から見ても色気があるよな……。
俺もこんな色気を醸し出したいわ。
「実は困った事がいっぱいあってね。ダンの知恵を貸して欲しくて」
「いっぱいなんですか。ジョージさんの頼みならいくらでも知恵を貸しますよ。どうです? 私を直接雇いませんか?」
なぬ!?
ベルク宰相の
そんな爆弾はいらん! 俺の部下になるなら
「いや、今のところは間に合っているかな。ベルク宰相もダンが辞めると困るだろう?」
軽く笑うダン。
「下っ端の文官が1人くらい辞めてもベルク宰相は困りませんよ。私は平民だから出世がほとんどできませんのでね。ジョージさんに人生を賭けたほうが大きな果実を手に入れられそうです。また面白そうですから」
あら、ダンは案外賭博師なのか? もしやスミレに
「そんな事は無いよ。ダンはエクス帝国に必要な人でしょ。ダンを引き抜いたらベルク宰相に恨まれるわ」
目を細めて俺を見るダン。全てを見透かすような視線……。
いやぁーー! ダンに裸にされている!!
「もしかして、ジョージさんはスミレさんの事を心配していないですか? それは無いですよ。スミレさんはジョージさんにベタ惚れじゃないですか。ジョージさんとスミレさんとの間に余人は誰も入れないです」
スミレが俺にベタ惚れ!?
「それにジョージさんには魔力ソナーがあるじゃないですか。どうやってジョージさんに隠れて、スミレさんとそんな事できるんですか」
なるほど。そりゃそうだ。冷静に考えるとそうかも。でもダンの存在がスミレの心に波紋が生じるかもしれないしな。
スミレから、俺と別れてダンと一緒になると言われたら死ねるわ。
「まぁ、今日はいいです。ただ、頭の片隅に入れておいてください。私は本気ですから。それよりいっぱいの困った事を教えてください」
俺はおっぱいの困った事ではなく、いっぱいの困った事の経緯をダンに説明した。
俺の話を聞いて、眼を閉じて難しい顔をするダン。きっと頭の中はフル回転なんだろうな。
俺の頭脳労働担当2号! 頑張って!
少し経つとダンは眼を開いてゆっくりと話し出す。
「理解しました。やはりタイル・バラス公爵の提案は断りましょう」
えっ! それってオリビアが奴隷になるって事だよな。それに俺の悪い噂が広がって、他の貴族に嫌がらせされるんじゃないの?
「ポーラがこちらの手の内に入って状況が変化しています。それを利用しましょう」
うん? そうなの? 良くわからん。
「まずはタイル・バラス公爵にオリビアがジョージさんの側室になる提案を正式に断ります。オリビアは正式に奴隷に落とされるでしょう。ジョージさんは奴隷業者は国が絡んでいるのを知っていますか?」
そうなの? 奴隷なんて俺の人生に関係無いと思ってたから知らないな。
「せっかくなのでジョージさんにエクス帝国の奴隷制度について説明しましょう。奴隷には3種類あります。他国との戦争での戦利品としての戦争奴隷。犯罪者が奴隷身分に落とされる犯罪奴隷。借金を返せなくて奴隷になる借金奴隷です」
それはさすがに知っとる。
「この内の戦争奴隷と犯罪奴隷は国が大きく関わっていますね」
そりゃそうだ。
国が戦争して捕らえる戦争奴隷。国が捕まえて犯罪者認定する事で生じる犯罪奴隷。どちらも奴隷になる過程で国が関わっているもんな。
俺は大きく頷いた。
「国が戦争奴隷と犯罪奴隷をエクス国民に売っているわけです。その為、その窓口の奴隷業者はほとんど国がしているわけです。戦争奴隷は一生奴隷です。そして犯罪奴隷は期間が過ぎれば奴隷身分から解放されます。ここで借金奴隷について説明いたします。借金奴隷は借金をして返せなくなった人がなるものです。国が間に入って、債務者に借金を支払わせる方法です。借金奴隷になりますと、国の管理下で借金奴隷を働かせます。そして借金奴隷が稼いだお金を奴隷業者が徴収し、7割が債権者に、3割が国庫に入る事になります。借金が無くなれば奴隷から解放されますね」
うん? オリビアは戦争奴隷、犯罪奴隷、借金奴隷のどれにも当て嵌まらんやん?
どういうこっちゃ?
「オリビアはどの奴隷にもならなくない? 借金もしてないでしょ?」
「エクス帝国の貴族は絶対的な家長制度をとっています。当主の権限が絶対的に強いのです。その為、その家から追放された人に詫び金に当たる離籍賠償金を請求する事ができます」
離籍賠償金!? そんなのあるの?
「この離籍賠償金をオリビアは支払えないと思います。タイル公爵はこれでオリビアを借金奴隷にするつもりでしょう」
それなら俺が肩代わりすれば良いのかな? 俺からオリビアに貸しても良いし。
「ちなみにそれっていくらくらい?」
「オリビアは公爵令嬢ですから、3億バルトですね」
3億って……。それは普通に生活してたら払えんわ。
でもそれならドンドン平民に子供を産ませて離籍すりゃいいやん。
「離籍賠償金があるなら、平民との間に子供を作って、離籍しまくれば当主は儲かるんじゃないの?」
「正室と側室以外の子供を、正式に家に迎え入れる場合には離籍賠償金と同じだけのお金を国に支払う必要があるのです。そんな錬金術は認められていないのです」
なるほど。考えているんだな。オリビアをバラス公爵家に迎え入れるにあたり、バラス公爵家は3億バルトを国に支払っているんだ。
「じゃ、オリビアの離籍賠償金を俺が払うよ。それなら問題ないよね?」
「オリビアの離籍賠償金をジョージさんが支払うと言ってもタイル公爵は受け取りませんね。オリビアにそれだけの価値があると理解して、今後のジョージさんのカードとして手元に置いておくと思います。当主の許可が無いと離籍はできませんから。この場合はオリビアは奴隷になりませんが、ずっとジョージさんへの牽制に使われます。ですからベルク宰相も離籍賠償金をジョージさんが肩代わりする提案をしなかったと思います」
な、なんと。面倒だな。
「またジョージさんがただお金を払えば良いわけではありません。貴族からは何の下心も無いのにジョージさんがお金を払う事を理解できないでしょう。いらぬ疑いを持たれてしまいます。お金でオリビアを買ったと思われるでしょうね」
あぁ、面倒くさい。本当に面倒だ。
「じゃどうすれば良いのさ?」
「オリビアを今後のジョージさんとのカードにされないようにバラス公爵家の関係を完全に断ち切る必要があります。そのためにはタイル公爵に自ら動いてもらうしかありません。その為自発的にオリビアを奴隷にしてもらうのです」
「オリビアが奴隷になってから、俺がお金を支払っても、貴族連中にはお金でオリビアを買ったって思われるんでしょ? それじゃ駄目じゃん」
「オリビアを借金奴隷として買い取る大義名分としてポーラを利用します。ジョージさんはポーラから
「それで批判の矛先が変わる? 難しくない?」
「そこは私に任せてください。情報操作は得意分野です。貴族が納得できる大義名分があれば楽勝ですね」
涼しげな顔のダンがとても頼もしく見えた。
その後、ダンから注意点を教わった。
ポーラをグラコート伯爵邸で保護している事をタイル公爵に知られない事。
それを知られると、タイル公爵がオリビアを奴隷にしない可能性が高いと言われた。
またオリビアとは奴隷解放するまで裏で接触しないようにする事。
あとは普通にやれば良いって。
早速、グラコート伯爵邸で働いている人に
これで一安心だな。
まだ午前10時か。
指針も立った事だし、ストレス解消にドラゴンをアイシクルアローで串刺しにしてくるか。
修練のダンジョンに行こうとしたら嫌な魔力反応がこちらに向かってきている。十中八九俺に用があるんだろう。
しょうがない。タイル・バラス公爵を迎えるか。
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