第153話 魂の半身

 ベルク宰相が帰ったあと、スミレが俺の自室に顔を出した。


「ベルク宰相から聞いたわよ。ジョージが私に気を遣ってアリス皇女の件を断ろうとしたって」


「だって間違いなくアリス皇女は俺の事を恋慕れんぼしている。これは自惚うぬぼれじゃない。アリス皇女からは憧れだけじゃない心を感じるんだ。俺も俺の事を想ってくれる女性と一緒にいたら自制が効かない可能性だってあるよ。藁の近くで火遊びはしたくないんだ。それが火事になるかもしれないだろ?」


「確かにアリス皇女の魔力は清涼で優しい魔力を感じるわね。きっとジョージのジョージくんも元気溌剌はつらつになるでしょうね」


「それならなんで了解したんだよ。俺はスミレが反対してくれると思ったのに。勝手だけど、俺は少しだけアリス皇女とそういう事になる事を望んでいるんだ。なかなか自分から断る踏ん切りがつかないんだよ。ズルいけどスミレが断ってくれたら、それが踏ん切りになったのに……」


 ソファに座っていた俺に近寄ってくるスミレ。そのまま俺の頭を優しく抱き締めた。


「そんな事はハイドンの貴方を見てわかっているわよ。貴方が他の女性にも性的な事をしたいって思っていること。それは健全な男性だったら当たり前でしょ」


 うん? なんだ? 

 これは奥さん公認の浮気を許すって事?

 スミレが良いならそれも良いけど……。

 これは俺のハーレムの道ができたのか?


 俺の頭を抱き締めていたスミレが腕を解く。そして俺の眼をジッと見つめる。


「ジョージが浮気したいと思わせない努力を私はするわ。貴方を私で骨抜きにしてあげる。アリス皇女と会う前の晩はジョージを朝まで寝かせないわよ。それにアリス皇女と会って帰ってきた日は私を可愛がってね」


 そう言ってスミレは微笑んだ。

 俺の背中に電流が走る。

 その電流が下半身に到達した。


「あ、あの……。スミレさん? それはアリス皇女と会う前の晩だけですか? できればどんなもんか味わってみたいのですが?」


「本当にジョージはしょうがないわね。そうね、寝室に行きましょうか」


 俺は妖艶に微笑むスミレと手を繋ぎながら自室から繋がる寝室のドアを明けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 なるほど。スミレの本気は恐ろしい。身体を合わせれば合わせるほど快感が増していく。確かにスミレが操るノースコート侯爵家に伝わる性技は凄い。長い年月の間培ってきただけはある。しかしスミレの本当の凄さは違う。

 俺との相性が最高なんだろう。身体だけじゃない。精神的な相性だ。

 快感を得るのに必要なのは技じゃない。心なんだと気付かされる。

 きっとスミレは俺の半身なんだろう。そう何となく思った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


12月3日【赤の日】


 いつもどおり午前中はスミレとドラゴン討伐。午後はエクス帝国軍のレベル上げ。来週からはロード王国軍の軍人も混ざってくるみたい。

 ロード王国のパトリシア王女にロード王国軍のレベルアップを提案したのは11月5日だ。

 ロード王国の往復には1ヶ月弱かかる。いろいろと調整もあるだろうから良くこんなに早く実現したな。

 それだけロード王国に取って良い話だったんだろう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 夕食は赤の日恒例のマナー講座だ。今日もマナー講師のルードさん夫妻と食事を共にする。


「既にジョージさんのマナーは問題ありませんな。もう私は御役御免になりそうです」


 なぬ!

 ルードさんから免許皆伝をいただけるのか!

 それは嬉しいが、ルードさんが御役御免は困る。

 俺にとってルードさんはマナーの師でもあるが人生の師でもあるのだ。

 俺が一目惚れしたルードさんの魔力は質実しつじつにして剛健ごうけん。巌のような魔力だから。


「まだまだルードさんから教わりたい事がいっぱいあります。これからも人生の師としてご指導お願いします」


「まだそんな事を言っているんですか? それは丁重ていちょうにお断りしたはずですよ」


「それじゃ、もうルードさんとこうやって食事ができなくなるのですか?」


「いやこちらからそれはお願いしたいと思います。これからは友人として私と付き合っていただけませんか? 私も家内も既にグラコート伯爵家が大好きになっていますから」


 おぉ!

 まさかルードさんが友人だなんて!

 これは夢ではないのか?

 夢ではないよな。


「こちらこそ嬉しいです! 是非このまま赤の日には一緒に夕食を共にしましょう!」


 この日はいつもより楽しい夕食の時間を過ごす事ができた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


12月4日【黒の日】


「何! 本当にそんなに早くエルフの里にきてくれるのか!」


 相変わらず綺麗な顔が崩れるのは面白いな。

 ライドさんは本当に百面相の持ち主だ。


「嘘は言わないですよ。本当に行く予定です。エルフの里まではここから馬車で片道1ヶ月でしたよね。3月末にはエクス帝国に戻らないといけないから、1月20日頃から向かう予定です。それなら1週間くらいは滞在できるのかな?」


 ライドさんの顔に喜色きしょくがありありと浮かぶ。


「ジョージさん! 本当にありがとう! 君は魔力制御だけでなく、心も優しい! やっぱりジョージさんは間違い無く伝説の魔導師、エルフの救世主だよ! こうしちゃいられない! そうだ! ジョージさん、まずはお金を貸してくれないか?」


 なんだ? 意味不明?


「ジョージさんがエルフの里にきてくれる事を里の皆んなに知らせないと。僕がいければいいんだけど、往復すると2ヶ月かかるから間に合わない。誰かに伝言を頼もうと思ってね。それにはお金がいるだろう?」


 なるほど。いきなり訪問するよりその方が良いか。ならエクス帝国騎士団に頼んでみるかな。今の騎士団長はエロエロライバーさんだから、何とかしてくれるだろ。


「お金は貸さないけど、エルフの里に派遣する人を見つけてくるよ。ライドさんは、エルフの里の人に手紙でも書いてくれれば良いよ」


「おぉ! さすがジョージさんだ! わかった。早速長老に手紙を書くよ! 今日中に書いておくから!」


 そう叫んだライドさんは、朝食の途中なのに勢いよく自分の部屋に向かった。

 凄く興奮しているな。

 まぁ俺はライドさんの顔がとても面白いから良いけどね。

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