第152話 ベルク宰相の来訪

 午前中は9体のドラゴンを討伐した。

 結局、いつもどおりじゃん。でも休み明けの怠さは無くなったな。スミレの言う事に間違いはないか。

 午後からはエクス帝国の軍人の引率が3人か。オーガ討伐からドラゴン討伐になったから、俺が頑張らないとね。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 長期休暇明けの修練のダンジョンでの仕事も終わり屋敷で夕食を食べた。

 食後にバキが作ってくれたデザートを食べていると来客の知らせが入る。


 俺は来客者の名前を聞いて慌てて客室に案内させた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 客室のソファにはベルク宰相が疲れた顔をして座っていた。


「どうしたんですか? 何か面倒な事が起きましたか?」


「面倒な事は特に起きてませんよ。ただジョージさんにお願いがあってきたんです」


 ベルク宰相が俺にお願いとな? なんじゃらほい?


「毎週、1日で良いのでアリス皇女を外に連れ出して欲しいのです。アリス皇女はまだ一人で部屋の外に出られません。ジョージさんと二人の時だけ外に出られているんです」


 なぬ!?

 妻帯者の俺が若い女性を連れ出すとな!?

 これは帝国公認の浮気の勧めなのか?

 も、もしやエクス帝国のハニートラップ??


「あのぉ、俺はスミレと結婚してまして……。アリス皇女を定期的に外に連れ出すのは、スミレの感情的にあまりよろしくないと思いまして……」


「その辺は私からスミレさんに説明いたします。少しずつでも良いからアリス皇女が部屋から外に出られるようになって欲しいのです。これはエクス帝国の今後の浮沈ふちんがかかっています」


 エクス帝国の今後の浮沈ふちんって……。

 でもそうかもしれない。少しでもハニートラップなんて考えて申し訳ないな。


「わかりました。俺はスミレが納得するのであればその依頼をお受けします」


 ニヤリと笑うベルク宰相。


「できればジョージさんにはアリス皇女に手を出して欲しいのですけどね。そうなればエクス帝国は不沈艦ふちんかんになりますからね」


 なるほど。

 アリス皇女に手を出すとなると俺はフルチンになる。フルチンはカチンカチンに。そしてフチンがフチンカンに……。


 馬鹿な事を考えてしまった。

 何だ、やっぱり少しはハニートラップも入ってるやん。心の中でも謝って損したわ。俺の謝罪を返せ!


 あ、ついでにエルフの里についてベルク宰相の意見を聞いてみるか。


「話は変わるのですが、俺が来年の2月と3月の期間にエルフの里に行く事はできますかね? 世界樹の木がどうなっているのか少し心配なので」


 ベルク宰相は顎の下に右手を添えて考えこんでしまった。

 さすがに想定外の申し出だったかな?


「そうですね。1月末まででエクス帝国軍の能力の底上げはそれなりに終わっているはずです。たぶんエルバト共和国の正式な使者は1月の半ばから2月に来るでしょう。確かにエルバト共和国との話し合いはジョージさんがいなくても問題は無いですか。反対にいない方がやりやすい面もありますね。ザラス皇帝陛下の喪が明けてアリス皇女が即位する時までに戻ってきてくれるなら大丈夫です」


 何で俺がいないほうがエルバト共和国との交渉がやりやすいんだ?

 なんか引っ掛かるがまぁ2月、3月にエルフの里に行く許しがでたから良しとしよう。


「それなら東の国々の平定についても話しておきますか。ジョージさんには年が明けてから話すつもりでしたが、カイト・ハイドース侯爵の領軍長であるゾロン元騎士団長から待ったがかかりました」


 そういえばゾロン騎士団長はゾロンハイドース領軍長に職を変えてたな。

 190㎝を超える巨漢と物凄い威圧感を思い出してしまう。


「ザラス皇帝陛下が在命中に、当時騎士団長であったゾロンに総大将として東と北の国々の平定を命じています。帝国騎士団と魔導団は志願制にする形です」


 確かにあった。

 でもあの時と状況が激変しているよね。


「でも東の国の平定の話はエルフの里のライドさんの依頼の形を取るんですよね? それならば前の話と関係性は無いんじゃないですか?」


「確かにそういう一面もあるのですが、ザラス皇帝陛下の意志を蔑ろにするのかと強弁きょうべんされましてね。ザラス皇帝陛下の暗殺に携わったカイト侯爵の部下が何を言ってるって話なんですが……。でも侵略戦争推進派がその主張に乗った事で紛糾しました。現在、侵略戦争推進派はカイト侯爵派になっています。アリス皇女の地盤はまだ完全じゃありません。カイト侯爵の復権を願っている勢力もいるのです」


 うん。面倒くさい。

 これは間違い無く面倒だ。

 これは完全に丸投げ案件だな。


「状況は理解しました。それで俺はどうすれば良いですか?」


「今のアリス皇女の力で、強引に東の国々の平定の責任者をジョージさんにするのは反発を招きます。ここはザラス皇帝陛下の命令のまま、ゾロンを総大将にして志願制にして任せるしかないでしょうね」


 まぁ元々はそうだったんだから問題は無いね。

 でも何でこの話を俺にするのは年明けしてからと判断したのかな? 別に今されても年明けでも変わらないじゃん?


「別にその話を俺が今聞いても年明けに聞いても何も変わらないと思うのですが?」


「東の国々の平定の話はエルフの里に繋がります。それが世界樹の実に繋がり、ジョージさんとスミレさんの子供の話に繋がるじゃないですか。今、ジョージさんにはエルバト共和国との交渉を有利にするためにエクス帝国軍の実力の底上げだけに邁進してほしいのです。でもジョージさんからエルフの里に行く話を聞いて、無駄な事に気が付きました。ジョージさんはずっと子供の事を考えているのですね」


 そうなのかな? そうかもしれないな。

 ライドさんと話してからは深く考えていなかったけど、無意識に考えていたんだろうな。それが昨晩発露したか。


「それでは私はこの後スミレさんにアリス皇女の件について説明してきます。ジョージさんはエルフの里に行くまではエクス帝国軍の力の底上げをお願いしますね」


 その後、俺はスミレの説得に成功したベルク宰相を見送った。

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