第140話 ベルク宰相とドラゴン討伐

11月7日【青の日】

 午前中はドラゴン討伐。

 今日も今日とてドラゴン討伐に勤しむ。

 これでエクス帝国が助かるなら楽なもんだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 午後からは何とベルク宰相を修練のダンジョンに連れて行く事になっている。

 アリス皇女のレベルアップが思ったより評判が良かったようだ。これからは要人のレベルアップもやる事になった。

 その第一弾がベルク宰相になる。


 ベルク宰相の今日の格好はいつもの文官ではなく、驚く事に騎士団の姿だ。それがとても様になっている。


「とても似合っていますね。驚きましたよ」


「これでも若い時は騎士団に数年在籍していたんです。身体能力向上も使えますよ」


 そう言ってベルク宰相はギルドカードを見せてくれる。

 レベルが15だ。中堅の騎士のレベルじゃないか!? ベルクさんって強い人だったんだ。


「ただしもう錆び付いていますから。何とかジョージさんに付いていくくらいです。今日はよろしくお願いしますね」


 早速、修練のダンジョンに入った。

 俺は身体能力向上を使用して移動速度を上げていく。ベルク宰相は楽々と付いてくる。

 何が錆び付いているだよ! 現役の騎士にも劣らない速度だぞ。

 できる男はなんでもできると感じた瞬間だった。


 オーガのモンスターハウスを殲滅させたところでベルク宰相が唐突に口を開いた。


「ジョージさんさえよければ、地下4階でドラゴン討伐を見せていただけませんか? 実際にどうなっているのか知っておきたいので」


 う〜ん。

 現在は俺一人でドラゴンの討伐は問題無い。最悪、ベルク宰相にはロックウォールの中で大人しくしてもらえば安全かな。世話になっているベルク宰相だし、ドラゴン討伐に行くか。


「了解しました。ただし、こちらの指示には従ってくださいね。ドラゴン討伐は危険ですから」


「おぉ! ありがたいです。指示に従うのは当たり前ですよ。それではよろしくお願いします」


 ベルク宰相のテンションがいつもより高い。やはりドラゴンを見るのは興奮するのかな?


 二人で地下4階に続く階段を降りていく。すでに魔力ソナーにドラゴンを感じている。草原に出たところでドラゴンまでの距離は1kmってとこか。今の実力ならこのまま討伐できるな。

 どうするか?

 せっかくベルク宰相がここまで来ているんだ。もう少しドラゴンに近づくか。


「ベルク宰相。どうせだからもう少しドラゴンに近づいてみますか? 600mまでなら安全だと思いますけど……」


「そうですね。こんな機会はもう無いですから、限界まで近付きたいです」


 限界ってなるともっとイケるけどやめておくか。今、ベルク宰相に何かがあったらエクス帝国は詰んじゃうもんね。600mの距離ならロックウォールの壁もいらないな。


 1kmのドラゴンにアイシクルアローを放つ。牽制のつもりだったが右肩に当たってしまった。

 ちぇ! あれぐらい避けろよ!

 ドラゴンはこちらに気が付いたようで一直線に飛んでくる。


【ゴァー!】


 ドラゴンの咆哮の声が聞こえるが、聴き慣れた声だ。

 何の迫力も感じないなあ。

 600mに近づく手前で400本のアイシクルアローを放った。断末魔をあげる暇も無く、氷の矢に串刺しになるドラゴン。そして地上に墜落して魔石に変わった。


「凄い迫力でしたね! 肝が冷えましたよ!」


 ベルク宰相が興奮した様子で喋り出す。

 そうだよね。これが普通の反応だよな。俺も初めてドラゴンを倒した時はビビりまくったし。


 今日はドラゴン用のリュックサックじゃなかったからベルク宰相にドラゴンの魔石を持ってもらって、もう一体ドラゴンを討伐する。

 2人でドラゴンの魔石を抱えながらダンジョンを歩く。


「ドラゴンの魔石はなかなか重たいですな。普段はこれを背負いながら戦っているのですか?」


「もう慣れちゃいましたよ。身体能力向上を使えば苦じゃありませんし」


 そう言いながら俺はドラゴンの魔石をダンジョンの床に置いた。


静謐せいひつなる氷、悠久ゆうきゅうの身を矢にして貫け、アイシクルアロー!】


 前方にいるオーガを瞬殺して、俺は再びドラゴンの魔石を抱え上げる。


「見事なもんですな。ほれぼれしますよ。ジョージさんが帝都の女性達に大人気なのも理解できます」


 姿絵や小説の話を聞いて薄々感じていたが、やはりそうなのか。独身時代はモテずに、既婚者になってからモテてどうするの!?

 人生ままならないなぁ……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 冒険者ギルドでドラゴンの魔石を納品した後にベルク宰相が契約のとおりギルドカードを俺に提示する。

 なんとレベルが35になっている!? さすがドラゴンや!

 ベルク宰相が苦笑いしている。


「帰りはとても身体が軽かったんです。やはりレベルアップのおかげでしたか。それにしても今日だけでレベルが20も上がっています。身体を慣らすのに時間がかかりそうですね。ジョージさん、この後、少し時間をもらって良いですか?」


 当然ながら承諾する俺。

 冒険者ギルドの食堂では周囲に内容を聞かれる可能性があるため、近くの個室のある飲食店に入店した。

 お店の名物料理を注文すると、ベルク宰相は会話を始める。


「現在、地下3階で実施しているレベル上げを地下4階のドラゴンでおこなう事は可能ですかね?」


 ドラゴン討伐に騎士団や魔導団を連れていくのか。近距離戦から中距離戦に特化しているスミレには少し厳しいけど、俺なら問題はないかな?


「たぶん俺が連れて行くなら大丈夫だと思います。地下4階でレベル上げをやった方が良いのですか?」


「現在、ロード王国から要請が来てましてね。修練のダンジョンでのレベル上げに参加させてほしいと。今のオーガでのレベル上げだと日程調整が厳しいのです。オーガ相手だとレベル30に上げるまで最低4回は参加する必要があります。ところがドラゴン相手だと1時間20分程度でレベル30にはなるでしょう。半日で3人はレベル30にできるなら、今の12倍の効率になりますね」


 ドラゴンだと12倍の効率か。ちょっと危なくなるけど、ロード王国の軍隊の底上げのためにも実施した方が良いんだろうな。


「わかりました。スミレと相談して返事をさせていただきます」


「是非、許諾して欲しいですね。エクス帝国とロード王国の軍隊の底上げは喫緊の課題の一つですから」


「そうなんですか? 地道に上げていては駄目なんですか?」


「エルバド共和国がジョージさんに接触してきましたからね。エルバド共和国と交渉するにしてもその下地の軍事力の強化は必須です。南のエルバド共和国と相対するとしたら、ロード王国の力も必要になりますからね」


 外交は軍事力あってのものってか。心にメモっとこ。


「了解致しました。前向きに検討させていただきます。明日には返事をさせていただきます」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 夜にベルク宰相の申し出についてスミレと相談した。


「私は反対したい気分だわ。ジョージにかかる負担が増えるから。私がサポートできなくなるもの」


「確かに軍隊の実力の底上げをやるのが俺だけになるもんね。でもたぶんずっとじゃないよ。ある程度の人数が終わったら元に戻せば良くない?」


「一度地下4階で実施したら、もう元には戻せないと思う。それだけ地下4階は効率が良過ぎるもの」


「う〜ん、そうかもね。でもロード王国の軍隊を強くするのは喫緊の課題だと思うんだ。ロード王国の軍隊が強くなれば、辺境の地の争いも減ると思うし」


 難しい顔をするスミレ。真剣な眼で俺を見つめてきた。


「そうね。そうだよね。私の気持ちよりも実利を取ったほうが良いわね。分かったわ。私も賛成する。それがロード王国の国民のためになると思うから」


「よし、それなら明日ベルク宰相に返事をしてくるよ」


 こうして俺は午前中にスミレとドラゴン討伐。午後は軍人を連れてドラゴン討伐をする事になった。

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