第139話 伝説の魔導師とエルフの救世主

11月6日【無の日】

 今週も午前中はダンスレッスン。

 昨晩、ダンスを披露した話をする。もう中級者レベルだとリースさんにお墨付きをもらった。

 このままいけば上級者になれるかも。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 午後からはライドさんの実験に付き合う事になった。

 何回か断っていたので、今日のライドさんは実験に相当前のめりになっている。


「まずはジョージ君の魔力ソナーの有効距離を測りたいんだ。今から馬車で私は帝都の外まで行ってくる。念のためここからは20kmは離れて見るつもりだ。私の魔力が感じられなくなった時間をしっかりと記録しておいてくれ」


 ライドさんは俺に懐中時計を渡す。


「私は時間を見ながら距離を換算するから。よろしく頼むよ」


 そう言って、すぐに馬車に飛び乗るライドさん。馭者をしてくれるマリウスの息子のザインには申し訳なく思う。

 馬車はライドさんの掛け声で出発して行った。


 俺は自室に入りゆったりする事にした。

 最近は集中しなくても魔力ソナーはおこなえる。

 あ、昼だけどスミレとイチャつくか。でも魔力ソナーが疎かにならないかな。でも性欲はしょうがないよね。明るい日差しの下のスミレが魅力的過ぎるのが悪いんだ。

 結局、俺はスミレを誘って寝室に篭った。


 いつもスミレと肌を合わせている時は、スミレの魔力に集中するのだが、今回はライドさんの魔力も感じていなければならない。

 どうしても行為に没入できないのが歯痒い。


 あ、これは趣きを変えよう。俺は自分の天才的な閃きに神に感謝した。


 スミレの綺麗な裸を鑑賞する事に集中する事にした。

 昼の日差しがレースのカーテン越しに入ってくる寝室。

 スミレの真っ白な肌がとても綺麗だ。

 なだらかな曲線、艶やかな髪、吸い込まれるような唇。

 最高だぁ!!


 行為に及ばなくても、触れ合っているだけで幸せになる。

 あぁこんな楽しみ方も乙なもんだ。

 結局、魔力ソナーの有効距離を測る実験中は、ずっとスミレとベッドで戯れあっていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 夕方にライドさんが帰ってきた。


「どうだった? 何時まで魔力ソナーで私の魔力を感じられた!」


「ずっと感じていましたよ。途切れる事は無かったですね」


 俺の返事に唖然とするライドさん。


「本当なのか? 本当に途切れてないのかい?」


 こっちだってライドさんの魔力が途切れれば、すぐにスミレと行為に及ぶ予定だったのに……。


「ずっとライドさんの魔力を感じていました。本当ですよ。邪魔だったんだから」


「邪魔ってどういう事? 集中して魔力ソナーを使っていたんじゃないのか?」


「あ、今は片手間で魔力ソナーを使えます。そんなに集中はしてないですね」


「片手間……」


 あ、アホ面のライドさんだ! 美形のアホ面は本当に面白い! 駄目だ、笑ってしまう。

 俺は軽く咳払いをして笑いを誤魔化す。

 俺の両肩を掴むライドさん。とても真剣な表情だ。


「ジョージ君! いやジョージ様! 貴方はやはり伝説の魔導師、エルフの救世主だ! それ以外に考えられない!」


 あぁ、ライドさん、興奮して鼻息が荒くなっている。

 こ、怖いや。


「あ、あの、伝説の魔導師とエルフの救世主ってなんなんですか? サイファ団長との会話でも言ってましたけど……」


「800年ほど昔に世界樹が枯れかけた時があったんだよ。どんなに手を尽くしてもそれが止められなかった。もう駄目だと諦めかけていた。その時、旅人の魔導師が現れてたちまち世界樹を甦らせたんだ。お礼をしようとしたが、その旅の魔導師はすぐにエルフの里を去っていったんだ。エルフはその感謝を忘れずにいるんだよ。伝説の魔導師、エルフの救世主として語り継がれている。まぁ今は御伽噺になっている感じだけどね」


 ふ〜ん。そうなんだ。

 世界樹が甦った記録があるなら、あながち無理じゃないのかもしれないな。エルフの里に行ってみればわかるか。


「やはりジョージ様は伝説の魔導師、エルフの救世主だよ。今日の実験で確信したね。実験が落ち着いたら、一回エルフの里に帰ってエルフの救世主がいた事を報告してこないといけないな」


 うんうんと悩み出すライドさん。まぁいくらでも悩んでくれ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その夜は、昼間に溜め込んだ欲望を、思う存分ベッドで吐き出してスッキリした。

 結婚って本当に良いもんだな。

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