第135話 タイル・バラス公爵の来訪

11月3日【赤の日】

 カイト皇太子が正式にカイト・ハイドース侯爵になった。

 領地は帝都の東側。皇家が直接管理していた場所だ。

 スイフト皇子もカメリア皇太子夫人も皇家を出てハイドース侯爵家に入る。スイフト皇子はスイフト侯爵令息、カメリア皇太子夫人はカメリア侯爵夫人となる。

 またゾロン騎士団長が騎士団を退団し、ハイドース侯爵家の領軍に参加するそうだ。

 新しいエクス帝国騎士団長にライバーさんがなった。

 あのエロエロライバーさんがなるなんて……。まぁ仕事はできる人だからな。


 ダマス皇子はエクス帝国騎士団第二隊に捕縛されている。

 殺人、誘拐、拷問、強姦、脅迫の証拠があり過ぎるくらいあるらしい。

 ザラス陛下の時は握り潰していたのね。

 裁判にかける前にエクス皇家の恥になるため、ダマス皇子は平民に落とされた。今月中には裁判があり、死刑になると見られている。


 現在、エクス皇家はアリス皇女のみとなってしまった。

 状況次第ではエクス皇家の血を継いでいる人を養子に取るかもしれない。

 血を繋げていく行為って大変なんだな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


11月4日【黒の日】

 朝からドラゴンを討伐して屋敷で昼食を食べていると来客があった。

 客人はタイル・バラス公爵。


 な、なんで!?

 逃げたい思いを噛み殺して何とか応接室に行く。スミレは修練のダンジョンに行くため、俺一人だ。

 俺の屋敷の使用人は元々バラス公爵家の人達だ。皆んなバラス公爵に追い出されるように辞めた人ばかりだ。お茶を出すメイド長のナタリーでも顔が引き攣っている。

 どこ吹く風のタイル・バラス公爵。今日も黒髪をオールバックにしている。普通に見ていると穏やかそうな壮年の男性だ。


「お待たせしました。今日はどのようなご用件ですか?」


「ジョージさんは本格的な貴族になって日が浅かったですな。いきなり本題に入るのは、はしたない行為として嫌われますぞ」


 そんな事言われてもこの人苦手なんだよな。早く帰って欲しいもんな。


「ご指摘ありがとうございます。なかなか忙しい身で、雑談に興じる時間を惜しむ癖がありまして」


「ジョージさんは、今をときめく英雄ですからな。ドラゴンの魔石を納品できるのはジョージさんだけですし、騎士団と魔導団の実力の底上げもジョージさんとスミレさんだけですから」


 う〜ん。何しに来たのか全く分からん。適当に応対しておくか。


「修練のダンジョンは危ないですからね。オーガと連戦できる実力が無いと意味が無いダンジョンですから」


「オーガと連戦なんて考えたくもないな。通常のダンジョンでは深層に出没する破壊の権化だぞ。浅層で出没する修練のダンジョンが異常だし、それを連戦して倒してしまうジョージさん達が異常なんだよ」


 何か異常、異常、言われるとイラついてくる。別に仲良くしたい人じゃないしな。


「そんな事を言いに来たわけではないですよね。そろそろ本題に移ってもらって良いですか」


「ジョージさんは雑談があまりお好きじゃないみたいだね。それなら本題に入ろうか。今回来たのは2つの案件を持ってきたんだ。その一つ目がジョージさん、バラス公爵家の養子にならないか?」


 バラス公爵家の養子!?

 あ、ベルク宰相にも軽く言われたな。アリス皇女と結婚する気があるならベルク宰相の養子になれば良いって。ベルク宰相もエバンビーク公爵家だからな。

 この話もそれだな。


「誠に申し訳ございませんがアリス皇女と結婚するつもりはありません。養子の話はお断りします」


 だいたい俺がバラス公爵家の養子になったら、使用人に総スカンを喰らうわ!

 眉がピクリと動くタイル・バラス公爵。


「まぁそんなにすぐに答えを出さなくても良いじゃないか。頭に入れておいてくれると嬉しいかな」


 取り敢えず提案してみたって感じかな。絶対、バラス公爵家の養子なんてならないけどね。


「もう一つがドラゴンの魔石について私と専売契約を結ばないか。今よりも破格の価格で契約させていただくよ。これは健全な商取引の提案だ。どうかな? 噂ではエルバド共和国の商人が既に訪ねて来ているみたいじゃないか。国交の無い国の商人と取り引きするより、エクス帝国の公爵の私と取り引きするのがエクス帝国のためになるだろう?」


 あら? この間のエルバド共和国の人が訪ねてきたのを知っているんだ。だから慌てて商取引を持ちかけたって感じかな。


「エルバド共和国の人には正式なルートで交渉をするように言いました。今後、何かあるとしてもエクス帝国を通してですね。私が直接エルバド共和国の人と取引契約はしないです」


「それなら私と契約をしてくれるという事かな?」


 身を乗り出すタイル・バラス公爵。

 本当に金儲けばかりなんだな、この人。


「それも無いですね。修練のダンジョンは私が所有している形ではありますが、もたらされる利益は公共の物と思っております。別にドラゴンの魔石でお金儲けをしようとは微塵も考えておりません。これまで通り公共性の高い冒険者ギルドに納品していくつもりです」


 タイル・バラス公爵は俺の言葉の意味は分かるが、内容が把握できない顔をしている。はっきり言ってしまえばアホ面である。

 この人の優先順位の一番は金なんだろうな。その考えは別に否定しないが、俺の優先順位とは違う。一生分かり合えない人だろう。


「話は以上ですかね? それでは私は用事がありますので失礼させてもらって良いですかね?」


 アホ面から立ち直ったタイル・バラス公爵は急に俺を睨んだ。


「後悔するぞ。この私に歯向かうと言う事か。後から契約をしてくださいと頼んでも遅いからな」


「私との専売契約の可能性を残すのなら、今の言葉は不必要では無いですか? 一時の感情で未来の可能性を潰す人とは契約はしにくいですね」


 タイル・バラス公爵は、顔を赤くして無言で立ち上がり帰って行った。


 はぁ……。疲れたな。

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