第136話 パトリシア王女の来訪とダンス披露
11月5日【白の日】
なんか今週はお客さんが多いなっと思っていたら午後からロード王国のパトリシア王女がやってきた。
またまたスミレに午後の騎士団の引率を任せてしまう。
このままじゃいけないな。しっかりと交代制にしようかな。
応接室にパトリシア王女を待たせていため、急ぎ身支度を整えて応接室に向かう。
部屋に入ると柔らかい微笑みを浮かべるパトリシア王女。
勘違いしちゃうぞ!
もう結婚しないんだから、パトリシアではまずいよな。パトリシア王女と呼ぼう。
「こんにちは、パトリシア王女。今日はどうなされました?」
「先日はジョージ様には失礼な言葉を言ってしまって申し訳ございませんでした」
「いや、パトリシア王女のロード王国を大切にする心から出たものですから気にしてませんよ」
「そう言ってもらえると助かります。あれから使者をロード王国に戻して話し合いをしていただきました。まだ正式ではありませんがジョージ様にはロード王国の侯爵になっていただこうと調整しているところです」
「まあ、貴族の位は何でも良いんですけどね。それよりロード王国の軍隊の底上げをするのはどう思いますか? 修練のダンジョンでレベルが30までなら上げる事が出来るようになりますよ。お金もかかりますし、エクス帝国との調整も必要ですけど。軍隊の力の底上げができれば西側の辺境の地の反乱を抑えるのも楽になるんじゃないですか?」
「そんな事まで考えてくれているんですね。ありがたい事です」
「どうしても俺はエクス帝国の帝都を離れるのが難しいですからね。当然、ロード王国が大変な時は助けに行きますけど」
「ありがとうございます。ジョージ様がロード王国の守護者になるだけで、エクス帝国の外交姿勢が180度変わりました。貢ぎ物も最小限になりましたし、これからは友好国扱いをしてくれるそうです。それだけでロード王国は立ち直れます」
「それは良かったです。これからは一緒にロード王国の王国民を守っていきましょう」
パトリシア王女の瞳から涙が溢れてきた。
「本当にありがとうございます。この御恩はロード王家として一生忘れません」
俺は泣き出したパトリシア王女にアタフタしてしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日の夜はエバンビーク公爵家が開催する夜会に参加だ。
現在のエバンビーク公爵はベルク宰相のお兄さんだ。残念ながら公爵は領地にいるそうだ。
今晩のホストはエバンビーク公爵の次男のバラフィー・エバンビークだ。今年29歳になった独身の青年である。アリス皇女の結婚相手の最右翼だろう。
未来の皇配かもしれない人のため、失礼な事はできないな。
エバンビーク公爵家の屋敷に着いた。
まずはホストのバラフィーさんに挨拶だな。バラフィーさんを見ると寒くなってきたのにひっきりなしに汗を拭いている。
少し小太りの低身長の男性だ。来客の相手を一生懸命やっている。俺はスミレを伴って挨拶に向かう。
「こんばんは、ジョージ・グラコートです。こちらは家内のスミレです。本日はこのような素晴らしい夜会に参加させていただきありがとうございます」
バラフィーさんは俺の言葉に笑顔で応えてくれた。
「ジョージさんに来ていただくとは。叔父のベルクよりいつもジョージさんの話を聞いております。エクス帝国の英雄と知り合いになれるとは本当に光栄です」
とても礼儀正しそうな人だ。柔らかい印象を受けるな。これが大貴族の余裕なんだろうか?
「ベルク宰相にはいつもお世話になっております。バラフィーさんはホストで忙しそうですね。お邪魔になりそうですので、この辺で私達は会場に移動します。またお時間がありましたらお話しをしましょう」
「気をつかってくれて悪いですね。やり慣れない夜会のホストに四苦八苦しています。私は田舎の貴族ですから」
バラフィーさんは今までエバンビーク公爵領に住んでいた。この度、アリス皇女の結婚相手の候補として帝都に来ている。慣れない生活で大変そうだな。
俺とスミレは夜会の会場のホールに移動した。エバンビーク公爵家の屋敷のホールは豪華絢爛で大きかった。さすがに公爵家だけはある。
周りを見渡すとベルク宰相が数人の参加者と談笑している。挨拶はしないとな。
「ベルク宰相、今晩は夜会に参加しに来ました。よろしくお願いします」
「おぉ! ジョージさん! 我が家の夜会に参加してくれてありがたい。喪中のため、あまり盛大にできないが楽しんでもらうと嬉しいな」
「今日はエバンビーク公爵家と美味しい料理を楽しみにきました」
「それよりジョージさんはダンスを練習しているんだろ? 今日は楽団がいるからジョージさんのダンスの腕前を見せて欲しいな」
ゲッ! 人前で踊るのはまだ恥ずかしいな。
そう思っているとスミレが口を開く。
「ダンスは人前で披露すると上手くなるわよ。せっかくだから踊っていきましょう」
「スミレさんがこう言っているんだ。ジョージさんも諦めてダンスを披露するんだな」
ベルク宰相の目が笑っている。
そうだな。せっかくダンスの練習をしているんだ。こういう時のための練習だ。
【習うより慣れよ】。至極名言である。
「よし、ジョージさんもその気になったな。せっかくだからこの夜会のファーストダンスをやってもらうか」
エッと思っていると、ベルク宰相が大声をあげる。
「皆さん、エバンビーク公爵家の夜会に参加してくれてありがとう。今日はエクス帝国の守護者であるグラコート夫妻が参加してくれている。ジョージ・グラコート伯爵はドラゴン
おぉ!っとどよめくホール。
そして拍手が湧き起こる。
ホールの中央にダンスができるように場所を作ってくれる。
あ、もう逃げられない。こんなに注目を浴びるなんて……。
ベルク宰相酷い。
スミレを見ると笑顔を俺に向けて手を差し出す。
とても落ち着いているな。
しょうがない。やってやるよ。
俺は魔力ソナーでスミレの魔力を感じるように集中する。
相変わらず
俺は優雅にスミレの手を取って、ホール中央に歩き出した。俺とスミレがホール中央に立つと楽団が音楽を奏で始める。
スミレの魔力に集中する事で練習の時と同じように踊る事ができた。
気がつくと音楽が終了していた。
ホールに大歓声が響く。
スミレが温かい目で俺を見つめていた。
俺、ちゃんと踊れていたのか。無我夢中だったな。
俺とスミレは拍手の嵐に包まれていた。
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