第132話 アリス皇女と修練のダンジョン
11月1日【青の日】
今日の午前中はアリスさんを修練のダンジョンに連れて行く事になった。
あの後、ベルク宰相がアリスさんにダンジョン行きの許可を出したら、すぐに行きたいと言われたそうだ。
ただ、アリスさんは俺がいないと、まだ自室から出られないみたい。
と、いうわけで俺は馬車でエクス城に向かっているところだ。
アリスさんをお迎えにいかないといけない。
アリスさんの部屋に行くと満面の笑みで迎えてくれる。
アリスさんは動きやすそうな軽装だ。上は白のシャツ、下はスリムのパンツスタイルだ。
俺が手を差し出すとアリスさんは自然に手を添える。
これでアリスさんは部屋から出られるみたい。
部屋から出ると少しだけアリスさんの顔が強張った。
少し待つか。
アリスさんは俺の腕にしがみ付いて深呼吸をする。落ち着いたようでこちらを見てニッコリとする。
あ、なんか柔らかいものが当たるんですけど……。
そのまま馬車まで移動する。
腕を組んで歩くのは浮気になるのかな? さすがにならないよな。
今日、スミレは午前中は屋敷でお休みだ。何か悪い事をしている気持ちになってしまう。何故かスミレに言い訳を考えてしまう俺がいる。
馬車の中でもアリスさんは腕を絡めたままだ。
今日はずっとこんな感じなのかな?
帝都を出て修練のダンジョンについた。アリスさんは、ダンジョンの入り口が見えないので不思議そうな顔をしている。
「ちょっと魔法を使うから腕を離してもらって良いかな?」
「あ、分かりました。それならこれで良いですか?」
アリスさんは絡めていた腕を離して、俺の上着の裾を掴んだ。
何、この可愛い生物は。
いかん!
俺は妻帯者、俺は妻帯者、俺は妻帯者!
よし!
もう大丈夫だ。
俺はロックウォールの呪文の詠唱を開始した。
【堅固なる岩石、全ての災いを跳ね返す壁となれ、ロックウォール!】
修練のダンジョンへの入り口が現れる。
目を丸くするアリスさん。
「それでは行きますね。アリスさんは身体能力向上ができませんから、ゆっくり歩いていきましょう。オーガのモンスターハウスまで行って殲滅します。その後、モンスターハウスが復活するまで待って、もう一度モンスターハウスを殲滅したら帰還します。気楽に行きましょう」
コクリと頷くアリスさん。
守ってあげたくなるタイプだな。
下りの階段を手を繋ぎながら降りていく。
まぁゆっくり行きますか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【
アリスさんと手を繋いでいるため【黒月】は使えない。魔法で魔物を倒して進んでいく。
遠距離攻撃の上に魔力ソナーで魔物の位置が分かっているから安全だ。
ゆっくり歩いているが部屋に引きこもっていたアリスさんには体力的に辛いかもしれないな。
少し息が上がっている。
「大丈夫ですか? 引き返しましょうか?」
「せっかくここまで来たのですからオーガのモンスターハウスまでは行きたいです。レベルアップすれば自分に自信が持てるような気がするんです。例えそれが借り物の力でも、それに縋りたいんです」
なるほど、いろいろ考えているんだな。
「もし、良かったら俺の背中に乗りませんか? 嫌でしたら止めますけど」
「え、良いんですか。私をおぶって戦えるんですか?」
「問題無いですね。いつもはもっと重いドラゴンの魔石を背負って戦っていますから」
「それじゃお願いします」
アリスさんは俺の首に手を回して身体を預けてきた。
俺の左手を後ろに回してアリスさんのお尻の下に配置する。
や、柔らかい……。
あ、背中にも柔らかい感触が……。
あ、密着したため良い匂いがする……。
や、ヤバいな、これは。
俺は妻帯者、俺は妻帯者、俺は妻帯者!
よし、この欲情は今晩スミレにぶつけよう!
アリスさんを背負ったおかげで身体能力向上を使う事ができるようになった。
「凄い! 風に乗ってるみたい!」
背中で喜んでくれるアリスさん。
右手に【黒月】を握って、コボルトとゴブリンを一刀のもとに斬り伏せていく。
背中から驚嘆の声が上がる。
ついつい調子に乗ってしまう。
これはしょうがない。女性の歓声は男性のエネルギーなのだから。
地下3階に入り、アイシクルアローでオーガを倒していく。
オーガが近づく前に倒しているため、アリスさんは恐怖を感じていないようだ。
オーガのモンスターハウスの前に着いた。
一度、アリスさんを背中から下ろした。すぐに俺の上着の裾を掴むアリスさん。
これは治るのかな? まぁ今に良くなっていくよね。
「これからオーガのモンスターハウスに入ります。俺の前に出なければ安全だから安心してね」
「わかりました。絶対ジョージ様の前には出ません」
「それでは行きます」
俺はオーガのモンスターハウスの扉を開けた。
すぐにアイシクルアローの魔法を唱える。
よし! 今日は大盤振る舞いだ。
【
500本の氷の矢が20体のオーガに向かって飛んでいく。
【ドドドドドドドドド!!】
まさに蹂躙。
ちょっと凄い魔法を見せたかった俺のカッコつけである。
「うわぁ!」
これは成功だったかな?
「たくさんの氷の矢が綺麗でしたし、とても凄いスピードでした! 迫力満点ですね! 想像より凄かったです!」
女性の賛美は男性の栄養だ。
俺は気持ちよくその後のダンジョン探索を継続した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
もう一度、オーガのモンスターハウスを殲滅してダンジョンから帰還した。
修練のダンジョンを出ても俺の背中から降りないアリスさん。
「あの〜。そろそろ背中から降りてもらえますか」
「あ、何かとても気持ちが良かったから……。ごめんなさい」
そう言って俺の背中から降りたアリスさんはすぐに俺の腕にしがみついた。
「せっかくですので冒険者ギルドでギルドカードを作りましょうか? レベルの確認もできるようになりますよ」
「それは嬉しいです。早速行きましょう!」
ご機嫌のアリスさんを連れて冒険者ギルドに馬車を向ける。
冒険者ギルドに入ると騒めきが広がる。
そりゃそうだ。だって皇家の紋章が入っている馬車で乗り付けたんだからね。
俺の腕を離さないアリスさんだが、冒険者ギルドには興味津々だ。キョロキョロ辺りを見渡している。
俺は受付に向かってアリスさんのギルド登録を頼む。緊張している受付嬢だが、応対はしっかりしている。
アリスさんは魔道具を渡されて握りしめる。これで後はギルドカードが出来上がるのを待つだけである。
数分でアリスさんにギルドカードが渡された。
「どうでした? レベルはいくつでしたか?」
「あ、ジョージ様、人のレベルを聞くなんて女性に年齢を聞くくらいのマナー違反なんですよ。知らないんですか?」
お、世間知らずのお姫様だと思っていたが、そんな事はないのかな?
「これは失礼致しました。案外、ポロって言うかなって思っちゃいました」
「フフフ、それくらいの常識は知っていますよ。部屋の中では本ばかり読んでいますから」
読書か。それならば常識を知っていてもしょうがないな。
「今のお勧めの小説は【ドラゴン
な、なに! 俺って小説にもなってるの!
「私はその主人公のファンなんです。だからジョージ様のファンでもありますね。あ、スミレ様のファンでもありますよ」
知らない間にとんでも無い事になっている事に気づいた日だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます