第130話 引きこもりのアリス

10月19日〜23日

 ライドさんから俺のロックウォールの魔法を調べたいと言われたため、修練のダンジョンの横に岩のドームや壁などを数種類作った。

 時間経過や形による強度などを調べるようだ。


 ドラゴン討伐と騎士団と魔導団の実力の底上げを頑張った。

 こういう淡々とした生活も良いもんだな。

 最近はビキニアーマーじゃなくても興奮できるようになった。

 やっぱり毎日ビキニアーマーだと飽きるよね。

 普通の服で揺れる胸にも意味がある事を知った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


10月24日【無の日】

 そう、今日は休みの日だ。

 午前中はダンスレッスン。継続は力なり。

 スミレとダンスをするのも最高に楽しい。


 午後からはエクス城へ行く予定だ。

 実はアリス皇女からお呼びがかかっている。俺だけが呼ばれている。スミレはお留守番だ。

 昼食を食べて馬車でエクス城に向かう。

 さてどんな用件かな?

 エクス城の入り口で来訪理由を告げるとすぐに案内人が付いた。どうやら真っ直ぐアリス皇女の部屋に向かっているようだ。


 前に来た時はアリス皇女の部屋の前には女官が1人だけだったが、今は女官の他に騎士が2人立っている。

 皇帝になる事が内定して警備が厳しくなっているのだろう。

 部屋に入るとすぐにアリス皇女が出迎えてくれる。


「ジョージ様、来ていただいて嬉しく思います。どうぞ座ってゆっくりしてください」


 アリス皇女の満面の笑みに、ドキッとしてしまう。

 妻帯者じゃなければ勘違い案件になるな。

 アリス皇女に勧められた椅子に座り、侍女が入れてくれたお茶を飲む。その間、アリス皇女は俺を見てニコニコしている。

 あ、これは勘違い案件じゃないのかも……。いや、やっぱり勘違い案件だよな。それより用件を聞かないと。ジッと見られていて調子が狂うな。


「本日はお招きいただきありがとうございます。アリス様がお元気そうで何よりです。今日はどのようなご用件がございましたか?」


 俺の言葉に少しだけ不機嫌な顔になるアリス皇女。


「ジョージ様はこの間は私の事をアリスさんと呼んでいました。今はアリス様になっています。他人行儀みたいで嫌です」


「そうは申しましてもアリス様は皇帝になられるお方です。アリスさんでは不敬になります」


「その固い口調も嫌です。前の口調に戻してください」


「そうは言いましても……」


「悲しい事に、私には同年代の友達がいないんです。だから同い年のジョージ様には友達になって欲しいんです。ジョージ様は私が皇帝になった時の後ろ盾になってくださるのですよね。私からしたら一心同体みたいなものです。ジョージ様には私と心の距離を取らないで欲しいのです」


 結構、頑固そうだな。皇帝になる重責で心にも負担がかかっているのかもしれないな。これは諦めるか。


「よし、わかりました。いやわかった。気楽に話す事にするよ。ただし公的な場所では駄目だからな。よろしくアリスさん」


 俺の口調を無礼にしたら、とても良い笑顔に変わるアリスさん。


「ジョージ様、ありがとうございます。これからはエクス帝国を発展させる仲間として一緒に頑張りましょう」


「でも俺はアリスさんなのに、アリスさんは俺をジョージ様って変じゃないの?」


「ジョージ様はジョージ様です。これは譲れませんね」


 なんだか分からんけど、まぁ良いか。


「それより用件はなんだい?」


「じつはベルク宰相にエクス帝国で一番強い人を尋ねたのです。そうしたら迷わずジョージ・グラコート伯爵と答えてくれました」


 エクス帝国で一番強いのか俺? 近接戦闘ならスミレに完封負けしそうだけど。


「一番強い人と一緒ならこの部屋を出ても身体が強張らないかもしれないと思いまして……」


 あ、アリスさんも前向きに頑張っているんだ。それならお手伝いをしたいな。


「無理のない程度に一緒に部屋を出てみますか? 無理強いはしませんけど」


 少し顔が強張るアリス。

 意を決して椅子から立ち上がる。

 俺はマナー講習で習ったように手を差し出してエスコートをする。

 俺の手を握りしめるアリスさん。少し震えているかな。


「それでは少しだけ部屋の外に出てみましょうか。様子を見て駄目なら部屋に戻りましょう」


 俺は優しくアリスさんの手を引いて部屋の外に向かう。アリスさんはゆっくりとした歩調で歩き出す。


 アリスさんの身体が扉から一歩外に出た。

 たった一歩だが、アリスさんからしたら大きな一歩だ。

 俺はアリスさんの顔を見る。

 少し強張っているかな。


「大丈夫ですか? 厳しそうなら戻りますよ」


「前より全然楽です。身体も動きます。ジョージ様の腕にしがみ付いて良いですか?」


 俺は腕を組みやすい体勢になる。

 腕を絡めるアリスさん。

 数秒待ったところでアリスさんは大きく深呼吸をした。


「とても安心できます。よろしかったらこのまま中庭までエスコートしてもらえますか?」


「それくらいは問題ありませんよ。今日は良い天気ですから外の日差しを浴びるのは良い事ですね」


 俺はエクス城の中庭の場所がわからないからアリスさんの指示に従ってエクス城内を歩く。

 すれ違う人が驚いた顔をする。引きこもりのアリスさんが部屋の外に出ているからだ。

 今のアリスさんの顔は強張っていない。軽い微笑みを浮かべている。

 これは案外、引きこもりが治るかもしれないな。美人と腕を組めるのも役得だね。


 天気が良くて中庭はとても明るい光景だった。

 さすがエクス城の中庭だ。しっかりと手入れされており芸術的だね。

 俺の腕にしがみ付きながらアリスさんが口を開く。


「外に出たのは何年ぶりでしょう。こんなに綺麗な世界なのに……。あぁ外に出て良かったです。ジョージ様、連れてきてくれてありがとうございます」


「身体も強張ってないですし、安心しました。ゆっくりと慣らしていけば問題なくなるかもしれませんね」


「今日はジョージ様がいるからです。身体も心も全てジョージ様にゆだねていますから。他の人だとまだ難しそうです」


 あら勘違いしちゃいそうな言葉だ。

 俺は妻帯者、俺は妻帯者、俺は妻帯者。

 これで大丈夫だ。

 ただ腕に当たる柔らかいものに意識がいってしまうのは男のさがだね。


 その後はアリスさんを部屋に送り、軽く雑談をしてからエクス城をあとにした。

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