第123話 綺麗な顔でもアホ面になる

 修練のダンジョンまではスミレも一緒に来た。スミレは外で待っていてくれるそうだ。

 岩のドームに包まれている修練のダンジョンの入り口。詰所には既に騎士の姿は無い。


「へい! いったい何処にダンジョンがあるんだい?」


 大袈裟に手を広げるライドさん。俺とスミレは含み笑いをする。すると不思議そうな顔をするライドさん。

 俺はロックウォールの呪文を唱える。


【堅固なる岩石、全ての災いを跳ね返す壁となれ、ロックウォール!】


 魔力制御を駆使して、岩のドームに修練のダンジョンの入り口まで通路を開ける。

 驚く顔を見せてくれるライドさん。


 ライドさんは俺の肩を握り、俺を前後に揺らす。


「ジョージ君はロックウォールの形を思うままに変えられるのか! どうやってやっているんだ! ロックウォールは通常ただの壁だぞ!」


 そうなのか? そうなのかもしれない。でも出来るんだもんな。


「えっと、訓練すればできるようになるんじゃないですか? 俺に聞かれても困ります」


「まさか、この岩の塊がロックウォールの壁だったとは!? これは研究する事がどんどん増えていくな」


 凄い興奮している。

 本当に研究とか好きなんだな。まぁ良いけどね。


「ライドさん、それより行きますよ! スミレ、行ってくるね!」


 俺はスミレに手を振って修練のダンジョンに入って行った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「一つ質問して良いか?」


「何でしょうか?」


「ジョージ君、君は魔力ソナーを使いながら身体能力向上を使っていないかい? 索敵の正確さとその身体の動きは、そうとしか思えないんだが……」


 あ、つい身体能力向上を使って【黒月】で魔物を斬ってた。詠唱が面倒なんだもんな。

 魔力ソナーとの併用も無意識でやってしまっていた。


「内緒ですよ。国家機密ですからね」


「やっぱりそうか! 国家機密をそんなに簡単に見せて良かったのか」


「駄目ですね。今日のは俺のミスです。口外しないようにお願いします」


「わかった。私の心の中だけで止めておこう。ただし、私の研究には協力してくれよ」


 うーん。どうしようかな。魔力制御の極致が体内魔法と体外魔法の併用だと思うんだよね。魔力制御を上げる方法は仮説だけど魔力ソナーの鍛錬だと思っている。あまり口外したくないな。適当に誤魔化すか。


「できる範囲で協力させていただきます」


 俺の気の無い返事に気づいたようだ。


「まぁ良い。少しずつ信頼関係を結ばないと言えない事もあるもんだ」


 おぉ! さすが年齢不詳のエルフだけあるな。大人の対応や!


 その後、地下3階に降りた。

 ここからは魔法で倒していこう。


「それではここからオーガが出没します。魔法で倒していきますね」


 ライドさんは研究者の目に変わったような気がする。

 ちょうど前方にオーガが2体いるな。

 魔力ソナーを切って魔法の詠唱を始める。


静謐せいひつなる氷、悠久ゆうきゅうの身を矢にして貫け、アイシクルアロー!】


 2本の氷の矢が前方のオーガに向かって発射される。どちらも右眼に直撃してオーガは崩れ落ちる。


「は! 何だ、今の氷の矢の速さは! それに2本しかアイシクルアローを発射してないぞ。それなのにオーガを2体討伐したのか!」


 またライドさんが驚いているよ。説明するのも面倒だな。


「あとでまとめて説明させていただきます。まずはオーガのモンスターハウスに向かいましょう」


 オーガのモンスターハウスまで3体のオーガをアイシクルアローで瞬殺した。

 ライドさんの目が真剣だ。

 ちょっと怖い……。


「それではここがオーガのモンスターハウスです。どのように倒しますか?」


「どのようにと言うと?」


「必要最小限の数のアイシクルアローにするか、制御可能な数の大量のアイシクルアローにするか、それとも他の魔法にします?」


 ライドさんの目がキラリと光ったような気がする。


「制御可能な数の大量のアイシクルアローでやってみてくれ!」


「わかりました。取り敢えず、200本くらいでやりますか」


「取り敢えず200!?」


「それじゃ入りますよ」


 俺は慣れ親しんだオーガのモンスターハウスに入った。

 すぐに魔法の詠唱を始める。


静謐せいひつなる氷、悠久ゆうきゅうの身を矢にして貫け、アイシクルアロー!】


 俺の周囲に氷の矢が200本現れる。

 真っ直ぐオーガに向かって発射される。


【ドドドドドドド!!】


 あぁ……。

 威力が強すぎてオーガを貫いてしまうな。それでもダンジョンの壁は壊せないんだから、ダンジョンって不思議だな。


 振り向いてライドさんを見ると呆然としている。口が半開きだ。

 綺麗な顔でもアホ面になるのか。新たな発見だ。


「私は今、最高で最強の魔導師をこの目で見ている。この魔法は芸術だ……」


 最高で最強の魔導師だって。ちょっと照れちゃうな。


「それじゃ帰りますよ」


 帰りの道中、ライドさんはブツブツ言いながら付いてきた。

 なんだかおかしくなった?


 修練のダンジョンを出てもライドさんはブツブツ言っている。

 スミレと顔を見合わせてほっとく事にした。

 ロックウォールで修練のダンジョンの入り口を封鎖して、俺たちは魔導団本部の団長室に向かった。

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