第47話 過去の清算の決意とマール再び


7/25【青の日】

 今日は午前のドラゴン退治を中止して、朝からサイファ団長と面会する約束だ。


 朝からサイファ団長は心配した顔で俺を見る。


「おはよう。もう大丈夫かしらジョージ君。いったい何があったの?」


 俺はロード王国で英雄視されている女性のエル・サライドールが妹である可能性が極めて高いと説明した。


「それは驚くわよね。当時から妹さんは魔法の素養が高かったの?」


「特にそんな感じはなかったですけど」


「それでもジョージ君と比べたらお話にならないでしょうけど。エル・サライドールがドットバン伯爵の領軍の100名を退けるのに数発のファイアアローを使用しているみたいだからね。あなたなら一撃でしょ。それでジョージ君はどうする気? 暗殺指令が出たら受けるの?」


 俺は居住まいを正し、サイファ団長にしっかりと向き合った。


「自分の過去の清算をしっかりしたいと思います。その為に結婚式を挙げてから、スミレと2人でロード王国に行きます」


「過去の清算って何をする気なの? 2人だけでロード王国と戦争をするつもり?」


「どうなんでしょうね。俺は今の母親と妹と話し合ってこようと思っているんですが、立場上それだけでは無くなりそうですよね」


「そうね。ただの私人としてロード王国に行くのは今の状況では難しくなりそうね。せっかくだからロード王国の上層部を脅してきなさい。あなたの力を存分に見せつけてあげるのよ。私が陛下から許可をもらってきてあげるわ。それよりジョージはロード王国に取り込まれないわよね? 貴方はロード王国のサライドール子爵の孫息子になるわけなんだけど?」


「俺の故郷はエクス帝国です。愛するスミレとの思い出はここにあります。またエクス帝国の軍人としての矜持を持っているつもりです。それは安心してください」


「疑うような事を言ってごめんなさいね。一応確認は必要だから。陛下達との話し合いで、ジョージ君とスミレさんがどのような立場でロード王国に入国させるかを決定させるわ。早速行ってくるわね」


 サイファ団長はすぐにエクス城に行くようだ。

 時間が余った俺とスミレは結局ドラゴンを倒しに修練のダンジョンに向かった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ドラゴン退治が終わって冒険者ギルドで魔石の納品をする。

 ギルドカードも更新された。レベルを見ると確かに201になっていた。

 遂に200越えかぁ。レベルなんてもうどうでも良いや。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 午後になりスミレは魔導団第一隊の人を修練のダンジョンに連れていく。

 俺は修練部の部屋でロード王国で何をするかを漠然と考えていたら、いきなり扉が開けられた。

 サイファ団長だった。


「ジョージ君とスミレさんのロード王国への派遣が決定したわ。詳細を話すから私の部屋に行きましょう」


 今朝、話したばかりなのに、もう派遣が決定したのか!?

 驚きながらも団長室に移動する。


 サイファ団長がソファに座り一つ息を吐いた。


「あなたとスミレさんの結婚式の2日後に出発する事になったわ。ちょっとバタバタするけど許してね」


 ちょっとって……。

 少しはスミレと甘い時間を過ごしたいのにな。

 そんな俺の不満顔を敏感に察知したサイファ団長が口を開く。


「帝国から馬車を二つ出すから、イチャイチャしたかったら道中の馬車の中でしてね」


 あら、バレてらぁ〜。


「了解致しました。それで俺はどのようにすれば良いですか?」


「エクス帝国の外交団の副団長ね。団長はベルク宰相よ。まずはロード王国の国王に謁見してもらうわ。脅す事になると思うから注意してね。その後、あなたの祖父にあたるサライドール子爵と面会を設定するのよ。ベルク宰相が立ち会う事になるわ。母親と妹と会う場合も同じね」


 ロード王国国王を脅すのか。城をぶっ壊せば良いのかな?


 そんな事を考えていたら困ったような顔になるサイファ団長。


「脅す方法はベルク宰相に一任しているから、それに従っていれば良いからね。暴走はしないように」


 上の偉い人が全て決めてくれるなら簡単だ。

 俺は意志を持たない人形です。

 それが処世術!


「ジョージ君が過去の事を清算させたい気持ちは理解しているつもりよ。どうせジョージ君がロード王国に行くのなら、徹底的にロード王国の心をへし折って欲しいのよ。それが全面戦争を防ぐ事になるわ」


 纏めると、ロード王国までの馬車の中でスミレとイチャついて王様に会う。

 魔法をバーンっと見せてビビらせる。

 祖父さんと母親と妹と会って話し合う。

 そして全面戦争回避。

 万々歳!!って感じかな?

 そんなに上手くいくとは思わないけどベルク宰相は有能な人だから大丈夫だろうな。


「任せてください。ベルク宰相の言う通りに動きます」


「ちょっと心配だけど、任せるわ。あ、ロード王国のお土産を忘れないでね」


 サイファ団長はロード王国のお土産リストの紙を俺に渡してきた。

 この人はいったいいつ用意していたんだろうか?

 サイファ団長の謎が少しだけ深まった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 修練部の部屋に戻ってお茶を飲んでいると、また扉が開けられた。いつからこの帝国ではノックの習慣が無くなったのだろうか?

 部屋に入ってきたのは怒り顔のマールだった。


「どういう事なの! 意味がわからないわ!」


 入ってくるなり怒声を飛ばすマール。

 やっぱりコイツとは性格が合わないと思う。


「何の事を言っているかわからないな? どうした?」


「修練のダンジョンの事よ! 何なのレベル上限の規制って! このままだと私はレベル30まででお終いじゃない!」


「条件をクリアする事でレベル40まで上げる事ができるぞ。頑張れ」


「あの条件だとあなたの許可が必要じゃないの! そんなの汚いわ!」


「汚いのはお前の言葉遣いだ。一応、俺は部署は違うがお前より役職が上だ。しっかりとした言葉を使え」


「うぐぅ!」


「理解したなら部屋から出て行け。俺は忙しいんだよ」


「何よ! お茶飲んでいただけじゃない! 修練部の部長として、魔導団の実力の底上げを図りなさいよ!」


「だからレベル30まで上げてやるんだろ。レベル30なら冒険者としては一流レベルだ。それ以上を望むのなら自分で頑張れ」


「レベル30くらいじゃオーガと連戦もできない! ましてやオーガのモンスターハウスなんか殲滅できないわ!」


「じゃ、諦めな。別にお前がオーガと連戦出来なくとも、オーガのモンスターハウスを殲滅できなくても魔導団は困らない」


「それじゃ私が困るって言ってるの! どうしてわからないの!」


「なんでそんなにレベルアップに固執するんだ? 戦争でもしたいのか?」


「そうよ。悪い? 功績を挙げるために軍人になったんだもの。戦争が無いと戦功が挙げれないじゃないの」


「お前は侵略戦争推進派か?」


「当たり前でしょ。守っていたら褒美で領土がもらえないじゃない」


 確かに防衛戦争だと戦功を挙げても、与える領土が無いもんな。

 そういえば前に聞いたな。マールの実家のボアラム家が没落していて、ボアラム家がマールに期待しているって。


「マールの言い分は理解できるよ。没落した実家を立て直したいんだろ? だけどサイファ団長と俺は侵略戦争反対派だよ。自分の利益だけを考えて他国の人をないがしろにする考えとは相容れないね。自分の実力を上げたいのなら、他を当たってくれ」


 マールは怒りが収まらなかったようで、扉を凄い音を立てて閉めていった。

 ロード王国の心をへし折っても、エクス帝国の侵略戦争推進派が多くなれば戦争だなぁ。


 午後の5時30分にスミレが帰還し、サイファ団長の話の報告をした。

 特に問題はなかった。

 この時までは……。

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