第45話 修練部の提案書


7月13日〜7月16日

 ロード王国との諍いも日常には関係がない。これまでと同じ事の繰り返し。

 午前中はドラゴン討伐。俺1人で倒した。


 午後はスミレが騎士団と魔導団を修練のダンジョンの3階に連れて行く。俺は修練部の部屋でお勉強。

 こうやって仕事をしているとロード王国との事なんか遠い場所での話に感じてしまうな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


7月17日【白の日】

 世界で何があろうと休みはやってくる。

 これは真理だろう。

 明日の予定は何も無いけど、それでも休日は最高なのである。休日に飛び込むためには今日という日を乗り越えなければならない。


 今日のドラゴン討伐はスミレと2人で協力して行う。

 まぁ俺が揺れる胸をゆっくり見たいからなんだけどね。【白の日】は揺れる胸の日と呼ぶ事にしよう。


 午後からはサイファ団長に報告会。

 サイファ団長がいきなり詰問調で話を始める。


「ジョージ君、あなた6月の魔導試験を受けてないでしょ!」


 あぁ、3ヶ月に1回の魔導試験か。でも受けなかったんじゃなくて、受けられなかったんだよね。


「サイファ団長。残念ながら俺は修練場の魔法射撃場が出禁なんですよ。魔導試験が受けられるわけがないじゃないですか」


「あら、そうだったわね。貴方とスミレの魔導試験結果がなかったから、焦ってしまったわ」


「スミレも魔法射撃場の的を壊す可能性がありますよ。やめておいたほうが良いと思います」


「一応、上司として2人の能力を把握しておきたかったんだけど……。しょうがないから自己申告ね。ジョージ君の魔力ソナーの有効範囲は現在どれくらいかしら?」


 どうなんだろう。最近は無意識下で魔力循環と魔力ソナーを常時使っているからなぁ。魔力循環を切って、魔力ソナーだけにするとどうなるんだろう?


「どのくらいの有効範囲かはわからないですね。今は魔力循環をしながら魔力ソナーを使っていますから。それでも帝都内は全て範囲内ですね。あと、連日のドラゴン討伐のおかげで魔力がまだまだ増えています。それに合わせて魔力ソナーの範囲も広がっていってますよ」


 目を見開くサイファ団長。


「魔力循環と併用していて魔力ソナーの有効範囲が帝都の大きさを超えてるの? それなら戦場に出たら、全ての敵の位置が分かるじゃない!」


「まぁ分かりますね。人数が多くなると個人を判別していると頭がおかしくなりそうになるんです。だから何となくいるなぁって感じですけどね」


「魔力ソナーで敵の場所が分かればファイアアローかアイシクルアローで撃ち抜ける?」


「たぶんできますよ。ドラゴン相手じゃないから当たれば良いですもんね。ドラゴンって避けるんですよ」


「ちなみにアイシクルアローの有効距離と、一度に撃てる本数はいくつなの!」


 何かサイファ団長が興奮してきたなぁ。こういう時は大口を叩くと痛い目を見る。少しばかりの余裕を持たせるのが俺の処世術だ。


「離れれば離れるほど、また本数を増やせば増やすほど、命中精度が落ちますからね。人で試した事がないのでなんとも言えませんが、1kmの範囲ならば300人をアイシクルアローで撃ち抜く事は可能だと思います」


 本当は2〜3kmの範囲で600人はいけそうだけどね。

 驚いた顔をするサイファ団長。


「ジョージ君1人で戦況が変えられるわね。一度ロード王国に行って実力を見せてくるのも良いかもしれないわ」


 サイファ団長は、そう言ってため息をついた。

 ロード王国なんか行きたくないよ。敵国じゃん! 危ないわ。

 君子危うきに近寄らず。ただしハニートラップは別腹。


「全力で拒否させていただきます」


 その後、サイファ団長はスミレの戦闘力の聴き取りをして報告会は終了した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 休みの前の日の夜はスミレと飲食店で会食だ。

 いつもの個室に通され、ワインで乾杯する。

 スミレが少し真剣な顔をしている。


「ねぇ、私たちのレベルって一般的に言って異常でしょ」


「そりゃ週に20体のドラゴン倒しているからね。異常になって当たり前だよ」


「さっき、サイファ団長の聴き取りで改めて自分の力を思い知ったのよ。こんな力をたくさんの人が獲得したら世界が終わりそうだって」


 なるほど。俺の力ははっきりいってヤバ過ぎる。簡単に大量殺人ができるもんな。でも武器を持っているからってそんな事をする奴は早々いない。そういう意味ではスミレの言っている事はズレているような気もするが。


「スミレの言っている事は一理あるかもしれないね。でも俺達は修練部だよ。騎士団と魔導団の実力の底上げが仕事だ」


「分かっているわ。実力の底上げには反対しない。だけど規格外の人材を作る事を危惧しているの」


 確かにレベルが100以上がゴロゴロいる軍隊は危な過ぎるか。侵略戦争ばかりしそうだ。


「それでスミレはどうしたいんだ?」


「反発が多く出ると思うけど、修練部で騎士団と魔導団のレベルの管理をすれば良いかなって。修練のダンジョンに連れて行くのはレベル30まで。例外として騎士団長と魔導団長が認めた者はレベル40くらいまでにするとか」


 なるほど。一般的にレベルが10を超えるとかけ出し卒業、20を超えると中堅、30を超えると一流、40を超えると超一流、50を超えると伝説と言われている。


 一流レベルの30までは底上げする。超一流レベルの40は許可制か。

 サイファ団長に提案はできるな。確かに侵略戦争推進派が規格外の力を持ったら、戦争ばかりになりそうだもんな。


「分かったよ。週が明けたらサイファ団長に俺とスミレとの連名で提案書を出してみようか。それとだけど……。明日2人で結婚指輪を買いに行かないか?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


7月18日【無の日】

 もう再来週にはスミレとの結婚式だ。温かい家庭を作ってやる! 子供はいっぱい欲しいな。最低でも男の子と女の子が1人ずつは欲しい。


 日課になっている魔力循環と魔力ソナーの併用の修練をする。今は日常的にどちらも常時使用しているが、集中して行うと全く違う感覚を養える。


 魔力関係の修練が終わったので、庭に出て身体を動かす事にした。

 スミレが懐妊したら近距離戦闘で俺を守ってくれる人がいなくなるからね。

 【黒月】を持って剣術の型の素振りを丁寧に行う。


 スミレとの買い物は一緒に昼食を食べてから行く予定だ。

 スミレと待ち合わせて、若者で賑わっているオシャレな飲食店でランチを食べる。なかなか繁盛しているだけあって美味しいランチだ。


 指輪は帝都一の宝石店で購入することにした。

 20歳で入るには少しばかり、いやかなり緊張をいる店構えだ。

 指輪の材質は決めている。ミスリルだ。

 ミスリルは魔法鉱物と言われていて、魔法を込めておく事ができる。また白銀色でとても綺麗だ。

 込める魔法は決めてある。

 守りの魔法、ウォーターカーテンだ。


 装飾の石は俺は中央に自分の瞳の色の黒い石。その両隣りにスミレの瞳の色の翠色の石。スミレ装飾はその反対の色だ。

 少々お高いお買い物になったがとても満足だ。

 指輪のサイズ調整のため受け取りは来週となる。これで来週の休みもスミレと一緒だね。


 この日は帝都の中央通りから人気ひとけの無い路地に入り、唇を交わしてからスミレと別れた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


7月19日【青の日】

 午前中にドラゴンを4体倒し、午後からは提案書を作成することにした。


◉提案書◉

 過ぎたる力は抑止力を超えて、エクス帝国が侵略国家への道を歩む危険性があります。

 エクス帝国魔導団修練部としては、その事を危惧し、騎士団と魔導団のレベルの底上げに一定の歯止めが必要と考えます。

 修練部として下記の提案を致します。審議のほどお願い致します。


①修練のダンジョンで上げるレベルは30までを基本とする。


②騎士団長及び魔導団長及び修練部が許可した者についてはレベル30までの縛りを受けないものとする。但し、上記の場合に於いてもレベル40までを上限とする。


③修練部に引率される騎士団、魔導団の者は、修練部にギルドカードを閲覧させ、レベルの確認を義務付ける。


④修練部にギルドカードの開示を拒否する者は修練のダンジョンに入場させない。


 こんなもんかな。あと付け足すのないか。スミレに確認を取ってからだな。


 午後の5時30分にスミレが修練部の部屋に帰ってきた。

 早速、作成した提案書を確認してもらう。特に修正は入らなかった。

 これならギリギリ今日中にサイファ団長に提出できそうだ。スミレがサイファ団長に用があると言うので、ついでに提案書の提出をお願いして俺は帰宅した。

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