第44話 盗賊vsドットバン伯爵家領軍vsロード王国第一騎士団

「どうなるのかな?」


「なんとも言えないわ。情報が少ないから」


 そりゃそうだ。

 得られた情報はドットバン伯爵家の領軍がロード王国に侵入してロード王国の小規模の部隊に壊滅されたって事だけだもんな。


 俺とスミレはいつもの飲食店の個室で夕食を共にしていた。結婚までの短い期間、週末の夜は一緒に夕食を取るようにしている。

 俺の疑問にスミレが答えてくれている。


「ただし、治安維持という大義名分を掲げていたドットバン伯爵家の領軍をロード王国所属の部隊が壊滅させた事が問題ね。これでエクス帝国が黙っていたら面子に関わるから」


「このままだとエクス帝国は国軍である騎士団や魔導団を出すって感じ?」


「エクス帝国側の言い分は盗賊で治安が悪化して困っていた。盗賊の根城はロード王国側にある。それをロード王国は放置していた。止むに止まれず治安維持の目的で国境を越えて盗賊討伐に行った。それをロード王国所属の軍隊が壊滅させた。どういう事だって感じかしら。何かしらの謝罪が無いと矛を収める事はないでしょうね」


「でも暴れていた盗賊はエクス帝国側の息がかかっていたんでしょ。自業自得だと思うけど」


「証拠が無ければ意味が無い事よ」


「それでロード王国はどうでる?」


「エクス帝国の要求を突っぱねるでしょうね。勝手にドットバン伯爵家の領軍がロード王国に入ってきたんですから」


「どこか落とし所は無いのかな?」


「もう開戦の可能性が高いのかも…て」


 そうなっちゃうよね。何とも言えないなぁ。ロード王国が攻めてきたら戦うしかないしな。逆侵攻の可能性もあるな。


 ロード王国に攻め入るのか。俺とスミレが中心で戦う可能性がありそう。早めに子作りしてスミレは戦争に行かせないようにするかな。それもありだよね。


 なんとも気の重い夕食となってしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


7月12日【無の日】

 今日は休みである。間違いなく休日だ。なのに俺はスミレと魔導団の団長室にいる。


「悪いわね。休日なのに。早めに意思疎通を図りたくてね。昨晩の会合の内容を知っておいて欲しいのよ」


 お偉方の会合の中身なんて知りたくないな。悪い予感しかしない。


 サイファ団長は一度、俺とスミレに目線を送り、口を開く。


「会合の出席者はザラス陛下、カイト皇太子、ベルク宰相、ゾロン騎士団長、あとは私の5人ね。まずは報告に来たドットバン伯爵の領軍の人から経緯を聞いたわ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その報告によると、ドットバン伯爵の領軍は100人体制で国境を越えてロード王国に入った。

 すぐに盗賊団の根城を発見して攻撃を仕掛ける。

 盗賊との交戦中にロード王国の軍旗をはためかせた20人ほどの隊が現れた。


 ロード王国の軍旗を掲げていた隊はロード王国第一騎士団と名乗り、盗賊には投降を呼び掛け、ドットバン伯爵家の領軍には領土侵犯に当たるためすぐに撤退するように叫ぶ。

 盗賊は抵抗をやめず、ドットバン伯爵家も撤退しなかった。


 そのまま三つ巴で乱戦状態に突入した数分後にロード王国側からファイアアローが降り注いだ。

 盗賊とドットバン伯爵家の領軍に対しての攻撃。

 数回のファイアアローが降り注いだ後には、盗賊もドットバン伯爵の領軍の2/3がやられてしまった。

 盗賊は散り散りになって逃げ、ドットバン伯爵家の領軍も撤退した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ふ〜ん。ロード王国第一騎士団って言いながら魔導師がいたのかな? 盗賊が散り散りになったのなら、もういいんじゃないかな?

 サイファ団長の説明が続く。


「この報告を聞いて怒ったのはカイト皇太子とゾロン騎士団長ね。ロード王国の騎士団にやられておめおめ帰ってきたのかってドットバン伯爵家の領軍の人に詰問してたわ。私とベルク宰相は外交的解決を主張したわ。このままだとロード王国と全面戦争に発展するからね。カイト皇太子とゾロン騎士団長はロード王国に宣戦布告するべきとザラス陛下に進言してたわ。ザラス陛下はまだ結論を出していないみたい。悩んでいるわね。まずはエクス帝国の特使をロード王国に派遣する事は決まったわ。その対応で今後の事を考える事になるわね」


 本当にロード王国と全面戦争になりそうだな。軍人だから戦争はしょうがないけど、個人的には避けられる戦争は避けたいな。国の面子がかかっているとやはり引けないんだろうか。


「もし戦争が始まったら総帥にカイト皇太子ね。その下にゾロン騎士団長と魔導団長の私。私のすぐ下にジョージ君とスミレさんだからよろしくね」


 あらやっぱりかい。心の準備をしておけって事ですね。取り敢えず疑問は解消しないとな。


「俺とスミレは魔導団修練部所属です。修練部は俺とスミレの2人だけで、部下がいないのですが?」


「だから良いのよ。2人で遊撃部隊になれるわ。身軽で強いなんて最高ね。ジョージ君の魔力ソナーと攻撃魔法、スミレさんの近距離戦闘があれば敵無しよ。貴方達はどちらもレベルが100を楽勝で超えているでしょ。そんな戦力は活用しないとね」


 にこやかに答えるサイファ団長。

 俺は少しだけ抵抗を考えた。


「俺とスミレは今月の末に結婚します。すぐに子供を作る予定なんです。スミレが懐妊したら戦争には不参加で良いですよね?」


「あらら、そんなに急いで仕込むつもりなの? 本当ならロード王国との諍いが落ち着くまで子作りは避けて欲しいけど、ジョージ君に言っても無駄でしょうね。その場合はスミレさんは戦争不参加で良いわ。その代わりジョージ君にはもっと働いてもらうからね。あ、それと新婚旅行は近場で済ませてもらうと嬉しいわ。いつ戦争になるかわからないから」


 何、近場で新婚旅行だと!

 でもしょうがないか。

 子作りの言葉に顔が赤くなっているスミレ。

 純情だな。

 でも言質は取ったぞ!

 スミレにはロード王国への侵略戦争には参加させたくないからな。向こうが攻めてくるならしょうがないけどね。

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