第42話 侵略戦争推進派と肉体の硬化作用
7月5日【白の日】
明日は休みである。
なんと言われようと俺は休む。
人生から休みが無くなったら、塩を入れてない料理みたいなもんだ。
それでも仕事はこなさなければならない。
今日も今日とてドラゴンにアイシクルアローを撃ち込む俺。
一度ドラゴンの倒し方が安定すると違う方法は取りにくくなるね。
安全第一、成果第二、挑戦第三である。
ドラゴンが倒せるようになったのでダンジョン探索がまた再開されたりしないのかな?
地下5階はあるのかな? あるのなら魔物は何が出るんだろ? ドラゴンより強いのはやだな。
少し気持ちが下がっていたがスミレの優しさという名の胸部装備無しで気分はアゲアゲである。鼻歌すら出てくる。
今日も予定通りドラゴンを4体倒して午前の業務を終了した。
午後からはサイファ団長への報告会である。
昼食を食べて時間になったので魔導団の団長室に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「今週はドラゴン討伐ご苦労様。問題無くドラゴンの魔石を納品してくれているみたいね。まだドラゴンの魔石の供給が足りてないから、当分はこのままね」
当分? 嫌な予感するな。
「供給が足りてきたら、またダンジョン調査の再開ですかね?」
「それは否定できないわね。未知のダンジョンについてはできる限り調査しておきたいから。何かしらの利益があるかもしれないし」
やっぱりそうだよな。
「心の準備はしておきますね」
「それはそうとロード王国の使者は大人しく帰っていったわ。流石にオーガのモンスターハウスを軽く殲滅する軍人がいる軍に戦う意志は無くなったと思うわ」
ロード王国から攻められなければ戦争に行く気はないからな。一先ず安心か。あとはエクス帝国内の侵略戦争推進派が暴走しなければ良いな。
他に話し合う議題が無いため、雑談を少しして今週の報告会は終わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
休みの前日のためスミレと外食をする事にした。
いつもの飲食店に行く。
今日はゆっくりと食事とお酒を楽しんでいる。
近くでスミレの魔力を感じながらお酒を飲むのは最高だな。
「そういえば、最近のロード王国とエクス帝国の国境付近の緊張感はどうなっているの?」
「あんまり変わってないみたい。ロード王国側の盗賊は活発に活動しているし、それに対してロード王国も軍隊の派遣は控えたままよ。このままだと周囲の治安の悪化を原因にしてエクス帝国側から治安維持隊の名目で国境を越えるかもしれないわね」
なるほどなぁ。侵略戦争推進派って狡猾なんだな。
まとめると、
①盗賊に武器を与えてロード王国側の国境付近で略奪させる。
②盗賊の武器が優秀でその地域の軍隊じゃ盗賊を抑えられない。
③ロード王国はエクス帝国を刺激させたくないため中央から国軍を派遣できない。
④盗賊のせいでその周囲の治安が悪くなる。
⑤治安維持の名目でエクス帝国が国境を越えて、その地域を実行支配する。
エグいな。
ロード王国はどうするつもりなんだろ?
エクス帝国を攻めるとドラゴンスレイヤーの俺が参戦する。放っておくと国境付近がジワジワと侵されてしまう。
これって詰んでない?
結局は弱い者は強い者に奪われるって事か。
弱肉強食か。
無情だな。
俺にできる事はやれる範囲でエクス帝国の侵略戦争推進派を弱めるだけか。
俺が考えてもしょうがない。この状況を動かすほどの権力が無いし、人脈もない。所詮は平民上がりだからな。
「あ、スミレ。結婚したらすぐに子供作る?」
「ジョージとの子供は早く欲しいな。ジョージはどう思う?」
「俺もスミレとの子供は欲しいよ。それならすぐにできるように頑張ろうね」
微笑みながらこちらを見るスミレ。
堪らん!!
あ、待てよ。
スミレが妊娠してダンジョンに行けないと俺が1人でドラゴン倒さないと。
うん? まぁ何とかなるか。
ドラゴンの火の玉を避けながらアイシクルアローを撃ち込めば良いんだな。
無理じゃないな。
怖いけど……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
7月6日【無の日】
日課の魔力循環と魔力ソナーの併用を行う。
体内魔法の魔力循環。魔力循環を行うと身体能力向上が発揮される。
身体能力向上は力とスピードの強化、肉体の硬化の作用がある。
力の強化は量産品の剣を素振りで折ってしまったから良く分かる。スピードの強化もいつもダンジョン内で走っているし、回避しているから実感できる。
では肉体の硬化はどうなんだろう? わざわざ試さないからな。以前、岩を殴って痛くなかった。レベルが上がった今ならどのくらいまで耐えられるのだろう? 思い立ったら試すしかないか。
屋敷の庭にマリウスとナタリーの息子の雑用係のザインを呼んだ。
ザインは優秀な成績で高等学校を卒業したが、バラス公爵家の嫌がらせで就職できなかった男性である。
腐り切った人生を送りそうになっていたところを俺が雇う事になり、とても感謝されている。
剣術の腕前もそれなりにあるそうだ。
「旦那様、屋敷の庭で何をするのですか?」
何となく怯えているザイン。緊張しているのかな?
「身体能力向上の肉体強化がどれくらいなのか試してみようと思ってね。まずはこの木剣で俺に斬りかかって欲しいんだ」
青褪める顔をするザイン。
「本気ですか? 骨が折れちゃいますよ」
「大丈夫だよ。ちゃんと身体能力向上させるから。まずは軽い感じでお願いね」
「軍人ってこんな事をしないと駄目なんですね。騎士団や魔導団に入らなくて良かったです。まぁエリートの騎士団や魔導団には入れないですけどね」
そうなのだ。騎士団や魔導団ってエリートなんだよね。伊達に準貴族になれるわけではないのだ。
意を決して木剣を振りかぶるザイン。
「それでは行きます!」
ザインの上段からの木剣を左手で防御する。
全く痛くない。
「もう少し強くしてみて」
先程より鋭い振りだ。
同じように左手で防御する。
やっぱり痛くない。
これなら大丈夫かな。
「次は全力でお願いね」
気合いを入れて剣を振り下ろすザイン。
俺は同じく左手で防ぐ。
「バキ」っと音がして木剣が折れた。
「こりゃ凄いですね!旦那様!」
感嘆しているザイン。
しかしこれはまだ序の口なのだ。
次に刃を潰してある剣を持ってきた。
「ザイン! 次はこれでお願いね」
「これは間違ったら腕が切れちゃいますよ。本当にやるんですか?」
「たぶん大丈夫だ。最初は軽くからね」
真剣な顔で俺に付き合ってくれるザイン。なかなか良い奴だ。
結局、刃を潰した剣でも俺に傷一つ付ける事ができなかった。
身体能力向上の肉体硬化って凄いな。物理的な物については相当な硬さだな。
魔法に対してはどうなんだろう? 早速試したくなった。
俺は修練場の魔法射撃場に向かった。
俺は魔法射撃場で出禁をくらっているが、俺が魔法を撃たなければ問題はない。
休みの日でも数人の人が魔法射撃場にいた。
俺に魔法を撃ってもらうように頼むと少し引かれる。それでも付き合ってくれたのも俺が魔導団修練部第一部長だからだろう。
結果としては基本属性の魔法は全て耐える事ができた。
傷一つつかないし、ファイアボールでは火傷にもならない。残念な事に発展属性の使い手は今日はいなかった。発展属性が使える魔導師は魔導団でも数人しかいないそうだ。マールが使えると聞いて驚いた。
これならドラゴンの火の玉にも耐えられるんじゃないか?
回避する必要があるのかな?
まぁ試さないけどね。
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