第39話 耐えきれない剣
7月2日【緑の日】
朝の8時に修練のダンジョン前に着いた。
当然スミレは既に待っている。ドラゴン用の装備で赤系統でまとめている。
俺はスミレが胸部装備はしていない事に気が付いた。
俺が気が付いた事に気が付いたスミレ。俯いて顔が赤くなる。
俺に揺れる胸を見せてくれるっていう事か。
堪らん。
俺は恥ずかしさを誤魔化すように元気な声を出す。
「おはようスミレ! 安全第一でドラゴンを倒しに行こうか」
「落ち着いていけば問題ないわ。ジョージのアイシクルアローに歯向かえる敵なんていないから」
2人で笑顔になり、いつものように修練のダンジョンに入って行く。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ドラゴンの火の玉が迫ってくる。
余裕で避ける。
後ろで聞こえる轟音。
昨日の訓練が役に立っているな。やはりドラゴンは残り距離が500mを切る辺りで俺の存在に気がつくみたいだ。
スミレがドラゴンの注意を引いているため、俺にはたまにしか火の玉の攻撃をしてこない。
しっかりとドラゴンを見据える。
俺はいつでも回避できるようにゆっくりとドラゴンに向かって歩き出す。
ドラゴンには俺の動きが分かっているようだが、スミレの方に意識がいっている。
完璧な牽制役である。
ドラゴンとの距離が300mを切ったところで呪文を詠唱する。
【
こちらを見て回避しようとするドラゴン。
しかし300本の氷の矢はそれを許さない。
圧倒的な速さと貫通力でドラゴンを葬った。
魔石に変わったドラゴンを見てスミレに片手を上げる。スミレは俺の上げた手のひらを自分の手のひらで叩く。ついでに胸も揺れた。
やっぱりドラゴンを倒すとテンションが上がるね。
魔力ソナーで確認すると2km先にドラゴンがいるみたいだ。
「2km先にドラゴンがいるけど連戦はできないよね」
「残念だけど魔石を運べないわ。一度ダンジョンを出ないとね」
「それなら魔石を運んだら、もう一度くるか。まだ9時前だよ」
「そうね。少しでもドラゴンと戦闘を重ねたいかな」
ドラゴンの魔石は直径1.5mはある。俺が抱えながら帰還する。
地下3階に戻ったところでスミレから提案があった。
「せっかくだからオーガのモンスターハウスを全滅させていきましょうか。そんなに遠回りじゃないから」
「それもそうだね。オーガの魔石20個くらいなら俺のリュックサックの半分の量だから持てるね」
俺とスミレって本当に魔物殺戮者になっているような……。
まぁ俺とスミレのレベルアップの糧になってくれ。
修練のダンジョン入り口脇の詰所にドラゴンの魔石1個とオーガの魔石20個を預ける。
また修練のダンジョンの4階層を目指す。
今度はドラゴンとの距離が500mを切っても、ドラゴンは俺に火の玉を放って来なかった。スミレの牽制がうまくなっているのだろう。
今回もアイシクルアローで討伐。
氷の矢は200本に減らしてみた。
効率を高めないとね。
まだオーガのモンスターハウスが復活していないので真っ直ぐダンジョンを出る。
まだ10時だ。
1時間で1体ドラゴンを倒せるな。午前中で4体か。何かドラゴンスレイヤーの称号も有り難みがなくなるな。
今日3回目のドラゴン討伐も問題無く終了。帰りにオーガのモンスターハウスの殲滅も忘れない。
4回目のドラゴン討伐でそれは起きた。
スミレが【雪花】に魔力を流すと、魔力の刃ができる。それがレベルアップによって今は長さが4mを超えていた。
俺に火の玉を吐こうとするドラゴンの予備動作を見てスミレはドラゴンに向けてジャンプした。
回避を考えるとジャンプは最悪の選択になる。ジャンプしたスミレは魔力を流して【雪花】をドラゴンに振り下ろした。
ドラゴンの肩から腰にかけて一刀両断にしてしまった。
そのまま落下するドラゴン。明らかに絶命している。
スミレ1人でドラゴンを倒しちゃった。
スミレは中距離でも死角が無くなってきている。
俺の嫁(確定)は強いな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昼食は修練のダンジョンの脇の詰所でウチの料理人のバキが作ってくれたお弁当を食べる。
公爵家で働いていただけあって実に美味しい。本当に良い人が雇えて良かったよ。
午前中だけの討伐でドラゴン4体、オーガを42体。
ドラゴンの魔石は1つ200万バルト。オーガの魔石は1つ1万バルト。しめて842万バルトだ。1人あたり421万バルトになった。
ドラゴンの魔石の供給が増えれば魔石の納品価格も下がってくるだろうな。でもここでしか得られない魔石だからな。どうなるんだろう。まぁ気にせず行くか。
ちなみに俺とスミレは冒険者ランクがBランクになっていた。
どうでも良いけどね
ギルドカードを確認するとレベル表示は133になっていた。あれから戦闘は今日しかしてないのでドラゴン1体でレベルが2つ上がった計算か。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
午後からスミレは騎士団第一隊の人をオーガ討伐に連れていく。
スミレは初めての引率なのに緊張はしてないみたいだ。しっかりと胸部装備をしている。
俺は修練場に戻って騎士団の訓練に参加しようと思っている。近距離戦闘はまだまだ技術が上がると思う。
スミレと別れて修練場に行く。
騎士団の人達は模擬戦をやっている。
俺は重装備の金属鎧を着て、魔力循環の身体能力向上をしながら1時間のランニングを開始した。全く疲れない。
これでトレーニングになっているのか?
スピードアップだな。それでもイマイチ負荷が足りない。ここは上空に向けて魔法を放とう。質量が殆どない火の魔法が良いな。
【火の変化、千変万化たる身を矢にして
300本を超える火の矢が上空に放たれる。
走りながら何度もファイアアローを撃ち続ける。周りからは驚愕の目で見られているみたいだ。
全身鎧で凄い速さで走る人が上空に300本のファイアアローを撃ち続ける。
確かに変人だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
1時間のウォーミングアップが終わり、次は剣の型の確認だ。
精神を集中して剣を上段から振り下ろす。
【パキン!】
なんだ!? 剣が途中から折れてしまったぞ。
若い男性騎士が寄ってきた。
あ、以前オーガ討伐に連れて行ったライバーさんだ。
ライバーさんは折れた俺の剣を見て溜め息をついた。
「ジョージさん、これはあなたの剣の振りの強さと速さに剣が耐えられていないですよ。残念ですがジョージさんはもう量産の剣ではダメですね」
え、そうなの? そりゃ困る。
「何か良い方法はないですかね?」
「力をセーブするしかないですよ。でも危険が迫っている時にそんな事をしている場合じゃないですからね。危ないですから。自分の力とスピードに耐えられる武器を見つけるしかないですね」
あぁ……。なんてこったい。
何か良い剣を得る方法はないかな……。
あ、あるぞ! これしかないな。
俺は即行で魔導団の団長室に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なるほど。貴方の力とスピードに量産の剣では耐える事ができないって事ね。そんな事態は初めての事だわ」
サイファ団長が呆れている。
「それで考えたんですけど、俺の力とスピードに耐えられる剣が必要かと」
「そんなに簡単に言うけど当てはあるの?」
「ドラゴン討伐指令を陛下に報告した時に何か褒美を考えるって言われたんです。帝室には優れた剣がいっぱいあるかと思うんですけど…」
思案顔になったサイファ団長。
「どうかな? 帝室に献上される武器類は美術品の価値が高い物が多いからね。実用性のものとなるとどうなるかしら?」
な、なんと、無いのか…。
「あ、ちょっと待ってね。確かスミレさんの刀の【雪花】と対になっている刀が帝室にあるはず。それならば貴方の力に耐えられそうね。たしか銘は【
おぉ!! なんかカッコいい。それが欲しい!
「分かったわ。私から帝室に頼んでおいてあげるわ。下賜かしされると良いわね」
「よろしくお願いします。ついでに安定したドラゴン討伐も上手くいきそうです。今日は4体のドラゴンをスミレと倒してきました」
「4体って……。分かったわ。その件も伝えれば帝室も【黒月】を下賜してくれそうね」
良し! 武器ゲットの可能性が上がった!
「それにしても貴方がスミレさんと結婚するとはねぇ。ちょっと吃驚したわ。不老の件は大丈夫?」
「スミレが生きている間は全力で愛する事に決めました。ただそれだけですよ」
「あらら、素敵な話ね。応援させてもらうわね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
武器を得るまで、剣の型の練習ができない。取り敢えず魔法の勉強を一から始める事にした。
もっとちゃんと学生時代に勉強しておけば良かったな。
修練部の自分のデスクに【魔法体系概論】、【魔法史】、【呪文解析概論】の教科書を出した。
今、俺が使っている魔法は火属性のファイアボールとファイアアロー。
氷属性のアイシクルアロー。
岩属性のロックウォール。
戦いなんてやってきてなかったからなぁ。修練のダンジョンだけだもんな。
地下1階のコボルト、地下2階のゴブリン、地下3階のオーガ、地下4階のドラゴン。
4種類ばかり倒してきたな。一応、白亜のダンジョンでオークなんかを倒してきたけど、俺は修練のダンジョンに特化しているんだよね。
戦争になれば魔法の引き出しを増やす事も大切だな。
覚えるとしたら上位属性の【炎】【岩】【颯】【氷】が良いか。戦争ならば見えにくい風属性の上位属性の颯属性かな。
何たって颯属性は疾風属性とも言われるほど速い魔法だしね。
魔法射撃場が出禁なのが痛いな。試せるとしたらダンジョン内だけか。今日は呪文を覚えて明日試してみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます