ドラゴン魔石定期納品編

第38話 ドラゴン殺戮者への道

7月1日【青の日】

 今日から仕事開始である。

 長期休暇の後にバリバリ働ける人とグダグダになってしまう人がいる。俺は自慢じゃないが後者だ。


 朝にはメイド見習いのサラに起こされ寝ぼけたまま魔力循環と魔力ソナーの併用をする。

 その後食堂にて料理人のバキから朝のメニューの説明を聞きながら朝食を食べる。

 俺とスミレのお弁当も作ってくれた。

 バキの料理って最高に美味しいんだよね。バキを褒めると熊のような体格を丸めて喜ぶのが堪らない。


 7時50分、使用人が玄関ホールに集合し、俺を見送ってくれる。

 何か偉くなったみたい。


 プラプラと魔導団本部に向かうとエクス帝国高等学校の制服がいっぱいだ。

 通学の時間と重なっているのか。魔力ソナーに知っている魔力が引っかかる。

 スミレの妹のフレイヤ・ノースコートだ。

 相変わらず濁った魔力だな。見つかる前に魔導団本部に急ごう。


 魔導団本部には修練部に新しい部屋を用意してくれた。といっても2人しかいないけどね。

 新しい部屋に入るとスミレが既にいる。魔力ソナーで知っていたけどね。


「おはようスミレ! 今日も綺麗だね」


「おはようジョージ、貴方も素敵だわ」


 まさにバカップルの会話である。でもきっとこういうのが幸せなんだろうな。


「料理人のバキがスミレの分のお弁当を作ってくれたよ。これからはお昼ご飯はバキに任せちゃうね。じゃ早速、サイファ団長のところに行こうか。結婚する事も報告しないとね」


 2人で団長室に向かう。団長室の分厚い扉からは全くプレッシャーを感じなくなってしまった。

 これは俺の成長なんだろうか? 少し寂しいけどな。

 遠い昔の敵をノックして応答を待ってから入室する。


「2人ともゆっくり休んだ? 楽しいお休みだったかしら?」


「おはようございます。サイファ団長。長期休暇ありがとうございました。長期休暇中の事なんですが、この度、俺とスミレ・ノースコートが婚約致しました。結婚式は今月の7月30日の【無の日】です」


「あらぁ〜! 素敵ね。私もジョージ君を狙っていたのに、スミレさんに取られちゃったのね。まずはおめでとう。結婚式には参加させてもらうわね。さて仕事の話ね。まず確認したいのは修練のダンジョンでドラゴンを継続的に倒せるかしら?」


 どうなんだろう。

 スミレがドラゴンを引き連れてきてくれて俺のアイシクルアローで串刺しにする。こないだみたいに300本くらいの範囲で放てば避けられる事も無さそうだな。それでも300mくらいの距離に近づいて撃たないと。

 300mに近づくまでロックウォールの後ろに隠れておけばドラゴンの火の玉攻撃から守られるけど、アイシクルアローを撃つ時に壁から出ないとな。ドラゴンから目を切っているから壁から出る時に危険はある。


「まず、安定してドラゴンを倒すためにはもう少し慣れと訓練が必要になると思います。スミレにドラゴンを引き連れて来てもらうのですが、その時の回避の安定性を高める必要があります。俺はドラゴンとの距離が500mを切ってからのドラゴンの攻撃の回避ができるようになる必要がありますね。ドラゴンはたぶん魔力ソナーを使っています。500mが有効範囲と推測しています。アイシクルアローの攻撃は300m以内にしたいので、ドラゴンとの距離が300〜500mでは火の玉の回避をしていきたいです」


「なるほどね。それでもドラゴンを倒していたらレベルアップはオーガの比じゃないし、慣れてくるでしょう。それなら毎日午前中は2人でドラゴン討伐ね。2人共身体能力向上ができるから最悪逃げる事はできるでしょう」


 毎日ドラゴン討伐!? なんじゃそりゃ!


「本当に毎日ドラゴンを倒すんですか?」


「国と冒険者ギルドから頼まれてしまったの。ドラゴンの魔石は大量のエネルギーが内蔵されていてね。大規模な魔道具を動かすためにもっとドラゴンの魔石が欲しいみたい。魔道具の研究、開発にも必要みたい」


 俺とスミレはドラゴン討伐者スレイヤーではなくドラゴン殺戮者スローターにジョブチェンジなのか!?


「了解致しました。努力してみます」


「午後からは騎士団と魔導団の人をオーガ討伐に連れて行って欲しいわ」


「オーガ討伐については俺だけじゃなくスミレも連れて行けると思います。スミレはオーガのモンスターハウスを軽く全滅させる事ができますから。ただ魔力ソナーと身体能力向上の併用ができないのでサーチ&デストロイがしにくいかも」


 スミレが言葉を挟む。


「ジョージ、私も日々努力しています。今は魔力ソナーと身体能力向上の併用はできませんが切り替えはそれなりに早くできるようになっています。問題なくオーガ討伐に連れていけます」


「それは凄いわね。スミレさんがそこまで魔力制御の能力が上がっているなんて。その辺は2人で話し合ってスケジュールを決めてね。今日はスケジュールを決めてもらえれば良いわ。明日からは午前中にドラゴン討伐、午後からオーガ討伐引率ね」


 こうしてドラゴン殺戮者スローターへの道を歩む事になった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 修練部の部屋に戻り、ドラゴン討伐の課題を書き出していった。


①スミレのドラゴン誘導時の回避安定性の向上

②ロックウォールを使うとドラゴンから目線を切るため危険

③ドラゴンとの距離が500mを切るとドラゴンに気付かれる

④アイシクルアローはドラゴンとの距離が300m以内が望ましい


① スミレのドラゴン誘導時の回避安定性の向上

 これはスミレの慣れとレベルアップで対処


②ロックウォールを使うとドラゴンから目線を切るため危険

 ロックウォールは緊急時以外使わない事にする


③ドラゴンとの距離が500mを切るとドラゴンに気付かれる

 これはしょうがない。分かっただけ儲けもんだ。


④アイシクルアローはドラゴンとの距離が300m以内が望ましい

 ドラゴンとの距離が300m以内にするためには俺からドラゴンに近づいたり、回避力を上げる必要がある。俺の努力が必要だね。


 分かったことはスミレも俺も回避力を上げることだ。

 スミレ曰く、ドラゴンが火の玉を放つ時は予備動作があったような気がすると言っていた。慣れればわかるのかな?


 魔導団の人に頼んでファイアボールを撃ち込んでもらうか。早速、午後から頼んでみよう。

 あ、大事な要件があった。


「スミレにお願いがあるんだ」


「何かしら?」


「訓練の時や俺以外の人とダンジョンに行く時には胸部装備を必ずして欲しいんだ」


「???。どうしてかしら? オーガ相手に胸部装備は無意味よ」


「胸部装備を外すとスミレの胸が揺れて魅惑的なんだよ。そんなの他の男性には見せたくないんだ。俺だけに見せてくれ」


 俺は顔から火が出そうになった。スミレも俺に釣られて顔が真っ赤だ。


「分かったわ。ジョージと2人の時だけ胸部装備を外すわね。それ以外は外さないわ」


 スミレはか細い声で返答してくれた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 午後からは魔導団第一隊の人に10人集まってもらった。場所は魔法射撃場だ。


「皆さん、集まってくれてありがとうございます。ドラゴンの火の玉の回避の訓練になります。俺とスミレにファイアボールの魔法を放ってください。俺もスミレも身体能力向上をしているためファイアボールが当たっても致命傷にはなりませんが威力は控えめにお願いします。スピードは速い方が良いです。それではお願い致します」


 俺とスミレは30m先の的の前に行く。

 魔法を撃たれる経験なんてないからなぁ。心臓がドキドキしてくるよ。

 詠唱が聞こえてくる。


【火の変化、千変万化たる身をつぶてにして穿うがて、ファイアボール!】

【火の変化、千変万化たる身をつぶてにして穿うがて、ファイアボール!】

【火の変化、千変万化たる身をつぶてにして穿うがて、ファイアボール!】

【火の変化、千変万化たる身をつぶてにして穿うがて、ファイアボール!】

【火の変化、千変万化たる身をつぶてにして穿うがて、ファイアボール!】


 おぉ!! 火の玉が次々と襲ってくる。

 それを瞬時に避けていく。頬を掠めるファイアボールが空気を焼いている。

 落ち着いて対処すれば問題無く反応ができる。スピード的にはこちらの方がドラゴンの火の玉より速いくらいだ。威力はドラゴンのほうが段違いに凄いけど……。


 30分ほど訓練を続けた。俺もスミレも全く当たらずに終了した。

 あんまり意味がなかったか。いや火の玉が襲ってくるのには慣れたな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 屋敷に帰ってからマリウスを自室に呼んだ。


「明日からは毎日ドラゴン討伐をしなくてはならなくなったんだ」


「毎日ですか」


「命令だからね。それでこれから仕事の日にはドラゴンの魔石代が入ってくる事になるよ。最初は1つ200万バルトで換金してくれるみたいだけど、毎日になると価格も下がると思う。それで俺に万一の時があるかもしれないから、その場合には俺のギルドカードに入っているお金を使用人で等分に分けて欲しいんだ。どうしても俺は軍人だからね。命の危険性はあるからさ」


「ジョージ様のご慈悲のお言葉に感謝しかありません。万が一など想像したくありませんが、その時はこのマリウスが責任を持って対処させていただきます」


 よし、これで安心してドラゴン討伐に行ける。皆を路頭に迷わすわけにはいかないからね。

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