第37話 ロード王国外交代表団
6月30日【無の日】
長期休暇の最後の日だ。
あと1日しか無いと思うか、まだ1日もあると思うかでその人の性格が分かれる。俺は悲観主義者のため、あと1日しか無いと思ってしまう。
新しい屋敷、いやグラコート伯爵家の屋敷で初めての朝を迎えた。なかなか引っ越しの作業は終わらない。
まぁ1日で終わるはずがないわな。
それでも料理人のバキは美味しい料理を作ってくれる。顔を洗って食堂に行くと既に朝食の準備ができていた。
使用人と一緒に食べるわけにはいかないため、1人の食事だ。ちょっと寂しい。
早くスミレが一緒に住まないかな。結婚まで待たないとね。
使用人との交流を図るという邪魔をしながら時間を潰しているとエクス城のベルク宰相から呼び出しを受けた。
慌てて魔導団の制服に着替えて迎えの馬車に乗る。
案内されたところはエクス城の会議室だった
片側にエクス帝国の国旗が、反対側にはロード王国の国旗がある。
どうやら既に交渉が始まっていたようだ。3人ずつ向かい合って座っている。エクス帝国の責任者は、ベルク宰相のようだ。
「休みの日にわざわざすまないね。ジョージ伯爵。実は頼みがあるんだ」
「頼みですか?」
「こちらに座っているのがロード王国の外交代表団だ。話し合いがうまくいってなくてね。このままならロード王国がエクス帝国に攻め込むのも
あらこちらが攻められるの? それなら俺も戦争に行かないとな。
「エクス帝国にはドラゴンスレイヤーの君がいるからそんな事は止めた方が良いと説得しているが信じなくてね。実際に君の実力を見てもらおうと思った次第だ」
なるほどね。じゃドラゴンを見せに行くのかな?
「悪いですけど、ドラゴンを見せに行っても良いですけど、その人達だと死ぬ可能性が否定できませんよ」
「何を! 我がロード王国騎士団を愚弄するのか!」
ロード王国側に座っていた唯一の武闘派らしき人が怒鳴り声をあげた。
「俺も弱い人と修練のダンジョンの地下4階には行きたくないですよ。地下3階のオーガのモンスターハウスで勘弁してもらえないですか?」
「エクス帝国は我々ロード王国を馬鹿にしているのか! オーガがそんなダンジョンの浅層で現れるわけがないだろ! 虚偽ばかりで話にならん!」
そんな事言われてもな。
「ベルク宰相、了解致しました。地下3階層のオーガのモンスターハウスで軽く魔法をぶっ放してきますよ。それで戦争が避けられるなら手間じゃないですから」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
エクス城から馬車で修練のダンジョンに向かう。
馬車は二台出したのでロード王国の人とは別々に移動だ。取り敢えず良かった。
修練のダンジョンに着いた。
俺はロード王国の3人に尋ねる。
「それでは誰が付いてきますか? このダンジョンは2人しか入れないので、貴方方を連れて行けるのは1人だけです」
「その話も信用ならない! 我々を謀るつもりじゃないのか」
「それならまずはそちらから1人選んでください。私とダンジョンに入りましょう。その後残りの2人がダンジョンに入ってみて下さい。結界に阻まれますから」
3人でコソコソ話し合いを始めてしまった。
まぁ良いか。
唯一の武闘派らしき人が声を張り上げる。
「まずは私がお前に付いていく。その後2人がダンジョンに入る予定だ」
だから2人しか入れないんだってば。分からず屋だな。もういいや。
「それなら行きますよ。付いてきてください」
俺は修練のダンジョンに入る。武闘派の人も後に続く。
どれ、少し待ってやるか。
その後2人がダンジョンに入ろうと頑張るが透明な壁があるようでダンジョンに入る事が出来なかった。
「これで分かりましたか。それでは行きますよ。身体能力向上は使えますか?」
「だからお前はロード王国騎士団を舐めるなと言っただろ!」
「使えるなら良いです。それでは付いてきてください」
俺は身体能力向上と魔力サーチを併用させてダンジョンを駆け抜ける。コボルトとゴブリンは剣で斬り伏せていく。
あっという間に地下3階だ。
ロード王国騎士団は口だけでは無いようだ。しっかりと付いてきている。
「ここからはオーガが出ますから気をつけてください。このままオーガのモンスターハウスに向かいます」
無言で付いてくる武闘派の人。
まぁ勝手にしろって感じだ。
途中オーガ2体と遭遇したのでファイアアローで瞬殺する。
オーガのモンスターハウスの前に着いた。
「それではここがオーガのモンスターハウスです。あなたは何もしなくて良いので見学していてください」
モンスターハウスの扉を開け、気合いを入れて呪文を詠唱する。
【
200本を超える氷の矢が20体のオーガ目掛けて飛んで行く。
【ドガガドガドドーン!!】
結構凄い音がしたな。全ての氷の矢がオーガを突き抜けてダンジョンの壁にぶち当たっていた。
「その剣は振り下ろさないほうが良いですよ。本当に戦争が始まりますよ」
俺は武闘派の人に言った。
やはり残心は大事だね。
「俺は接近戦も得意ですよ。間違ってもあなたに負ける可能性はないですね」
俺は肘を武闘派の人の鳩尾に打ち込んだ。苦しそうに倒れる武闘派の人。
「俺を殺せればエクス帝国との戦争に有利になると思いましたか? 浅はかな考えですね。エクス帝国にはまだまだ強い人がたくさんいるのですよ。俺を殺そうとした事は俺の胸の内に仕舞っておいてあげます。こんな事が明るみになったらエクス帝国からロード王国に攻め入る事になりますからね」
ロード王国も追い込まれているのかなぁ。大変だな。
その後は武闘派の人は大人しく付いてきた。
ダンジョンを出て、あとはベルク宰相にお任せだ。
俺はエクス城に戻らず屋敷に帰った。
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