第35話 ノースコート侯爵家の人々・2
ドーラン・ノースコート。
スミレの兄である。
スミレからの事前情報はエクス城で文官をしながら領地経営の勉強をしているノースコート侯爵家の後継ぎの25歳。
髪色は銀髪、瞳は灰色で、父親のギランとそっくりな外見である。
明らかに違う点は銀縁の眼鏡をかけているところだろう。
趣味は魔法研究。そう、魔法研究なのだ。
ここに体内魔法と体外魔法の併用が唯一使え、莫大な魔力量で繊細な魔力操作に優れている魔導師がいる。
俺の事だ。
趣味が魔法研究の人が興味を持たないわけがない。スミレさんからはなるべく関わらないほうが良いと言われている。
そうは言っても話しかけられて無視するわけにはいかない。一応、義理の兄になる人なのだ。
「ジョージ・グラコートです。どうぞよろしくお願いします」
「もっと気楽に喋ってよ。義理とはいえ兄弟になるんだからさ。ドーランって呼び捨てで良いからね」
「せっかくの申し出なので言葉遣いは気にせずやらせてもらいますよ。呼び捨てはハードルが高いけど」
「まぁ気楽にしてくれれば良いよ。僕はジョージに興味があるんだ」
「女性に言われて嬉しい言葉のトップ10に入りそうですが、男性に言われると微妙ですね」
「そんな事言わずにいろいろ話が聞きたいな。僕はエクス帝国高等学校領地経営科を卒業しているんだけど、本当は魔導科に入りたかったんだよね」
「俺の話を聞いてもしょうがないと思いますよ。俺は魔導科の劣等生でしたから」
「まさか魔導科の劣等生が卒業後2年ちょいでドラゴン討伐をするのかい? そんな事あるの?」
「つい3ヶ月前はショボい魔法しか使えませんでしたから。俺自身、激変する状況に対応するので精一杯ですよ」
「ふ〜ん。何か特別な理由があるみたいだね。じっくりと話を聞きたいけれど、今日は時間も無いしなぁ。今度、僕に時間を取ってくれないか? 魔法研究に協力して欲しいんだ」
「できる範囲なら問題無いですよ。ただしスミレがヤキモチを焼かないのが条件です。スミレに恨まれてまで魔法研究に協力はできないですから」
「それなら問題ない。スミレにも魔法研究の協力をしてもらうよ。最近、スミレは体外魔法を積極的にトレーニングしているしね。今日は初顔合わせだからウザがられる前に消えるとしようかな。それじゃ夕食の時にまたね」
あっさりとソファから腰を上げるドーラン。
話しやすいタイプだった。兄や姉が欲しかったから少し嬉しい気持ちがあるなぁ。
ドーランの事を考えていたら女性が部屋に入ってきた。
金髪で瞳の色は灰色。美人系の姉のスミレと違い可愛い系の女性。姉妹であまり似ていない。
そう、スミレの妹のフレイヤ・ノースコートだ。
確かエクス帝国高等学校総合学科に在籍中のはずだ。
「こんにちはジョージさん。お姉様にはほっとかれているのね」
悪戯っ子っぽい笑顔をするフレイヤ。
自分が可愛いと理解しているような子だな。
「まぁ急いで結婚式を上げるからしょうがないさ。時間が無いからね」
「どうして英雄の貴方がお姉様なんかと結婚するのよ。私に変えない? 私と結婚したほうが良いと思うわ」
いきなりぶっ込んでくる性格か。
エクス帝国高等学校の総合学科ははっきりいえば結婚相手探しの学科だ。優秀な人材を卒業前に捕まえたいんだろうな。
「残念だけど、自分の姉を蔑むような女性には魅力を感じないんだ。俺とフレイヤとは縁が無いみたいだね」
頬っぺたを膨らませて苛立ちを表すフレイヤ。
本当に頬っぺたを膨らます奴なんているんだ。これは良いものを見れた。
「お姉様なんて女なのに騎士団に入団するようなガサツな女でしょ。私の方が良い女性に決まっているじゃない」
「ふ〜ん。そんなもんかね。それなら確認させてもらうよ」
「確認?」
俺はフレイヤの疑問の言葉を無視して魔力ソナーでフレイヤの魔力の質を感じる事にした。
こりゃ酷い。乱れまくり、濁りまくっている魔力。汚泥に例えれば良いかな。
「フレイヤの魔力は最悪だね。まるで腐りきっている汚泥みたいな魔力だよ。清流のようなスミレの魔力とは正に雲泥の差だね。こんな女性とは落ち着いて一緒にいられないな」
顔を真っ赤にして立ち上がるフレイヤ。
激怒したようだ。
「ここまで無礼な事を言われたのは初めてよ! 何なのよ!」
「愛する婚約者であるスミレを、先に馬鹿にしたのは君のほうだ。俺はスミレを馬鹿にする奴を許すわけにはいかないな」
フレイヤは怒りでプルプル震えている。
荒々しくドアを開けて、部屋を出て行った。
スミレの妹はなかなか個性的だったな。あまり関わらないようにしよう。
そこでノースコート侯爵家のメイドが俺を呼びに来た。
物静かなメイドだな。
案内された部屋にはウェディングドレスを着たスミレがいた。
綺麗だ……。
この人が俺の伴侶になるのか……。
呆然としている俺に恥ずかしそうに口を開くスミレ。
「ど、どうかな? 変じゃないかな?」
「変じゃないよ! スミレの美しさに見惚れていたんだ。その形のドレスにするのかい?」
「お母様がこのドレスの形を推しているのよ。私も気に入ったからジョージの感想も聞いてみたくて」
ドレスはAラインと言われるシルエット。肩が全て出ているタイプだ。胸元と背中は上品さが崩れないような露出でありながらスタイリッシュだ。
「まるでスミレのためにデザインしたかと疑うほど似合っている。俺も気に入ったよ」
「それじゃこのタイプでドレスを作るわ。ドレスの装飾はシンプルにしてね。ジョージの式典用のスーツがスタイリッシュだから合うようにしたいわ」
やっぱりスミレの言葉遣いが女性らしくなっている。もともとは俺の上官として知り合っていたからなぁ。それに軍の中だもんな。こんな言葉遣いのスミレは可愛いな。
「そうね、それが良いわスミレ。あとは装飾品も少し買おうかしら。スミレ用に持たせてあげたいから」
母親のソフィアさんがとても楽しそうだ。やはり娘の結婚の準備は楽しいんだろうな。
俺は邪魔をしないように早々に退出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ノースコート家の食堂は広かった。
長いテーブルには片側だけで10名は座れるだろう。
今日、食事をするのはスミレの両親と兄と妹、スミレと俺の6人だ。大きなテーブルの隅だけを使う感じだ。
テーブルのお誕生日席にはホストのギランさんとソフィアさん。その右手には俺とスミレ。左手にはドーランとフレイヤだ。
テーブルマナーは帝国高等学校でしっかりと教わっている。あとはお酒を飲み過ぎないことだな。
ギランさんは話題が豊富でとても楽しい夕食の席となった。
こんな父親だったら嬉しかったな。
ギランさんやソフィアさんに
夜の8時にお暇させてもらった。
明日もまだまだ忙しいからな。
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