第32話 人生の岐路、それは告白

 まずはこれまで冒険者ギルドに預けっぱなしにしていたオーガの魔石の納品処理にでも行きますか。

 果たしてレベルはどうなっているかな?

 6月1日から6月24日までに倒したオーガは9,500体を超えていた。

 いやぁ、倒しまくったな。

 さてオーガの魔石の納品のお金を記録してもらい更新した。

 さてレベルはいくつになっているかな?


レベル ーーー


 横棒が3本!? なんだこれ?


「すいません。ギルドカードのレベルの表示がおかしいのですが?」


受付のお姉さんに聞いてみた。


「あれ? 本当に表示が変ですね。すいません。調べてみます」


 隣りにいたスミレさんは問題ないのかな?


「スミレさんは問題なかったですか?」


「いや私のレベル表示もおかしいな君と一緒だ」


 初めてスミレさんのギルドカードを見せてもらった。

 俺と同じでレベルーーーになっている。


「すいません。俺のパーティメンバーのレベル表示もおかしいです」


「そちらの方もですか、一緒に調べてみます。お待ちください」


「ギルドの食堂で昼食を食べてますね。よろしくお願いします」


 俺とスミレさんは待っている間、ゆっくりと食事を楽しんだ。

 最近はずっと時間に追われている感じだったからな。落ち着いて食事ができるって最高!!

 お酒も飲みたかったが、この後にサイファ団長に報告しにいくからな。

 それに今日の夜はスミレさんと2人でドラゴン討伐の打ち上げだ!


 食事を食べ終わって受付に行ってみるとギルド長室に呼ばれた。

 ギルド長室には以前魔導団本部で会った大柄な男性と細身の女性がいた。ギルド長のライオスさんと統括事務のキャサリンさんだったかな?


「わざわざ来てもらってすまないな。レベル表示がおかしいギルドカードを見せてもらえるかな?」


 ライオスにそう言われ、俺とスミレさんはギルドカードを渡した。


「確かにレベルの表示がーーーになっているな。キャサリン、魔道具に不具合は無かったんだろ?」


「ありませんでした。考えられる可能性は2人のレベルが2桁を超えて3桁になっているのかと思います」


 レベルが3桁!? 100超えって事か。

 キャサリンさんが説明をしてくれる。


「ギルドカードの魔道具はレベル表示は2桁までなんです。通常はそれで充分ですから」


 俺たちって通常じゃないって事か。確かにレベル50で伝説って言われているからな。


「今からレベル表示が3桁まで対応できるギルドカードを作成してみます。1時間ほど時間がかかりますのでお待ちください」


 キャサリンさんは事務的に話すだけ話すとギルド長室を後にした。


「ジョージ、あ、ジョージ伯爵だったな。最後に確認したレベルはいくつだった?」


「6月1日にレベル65でしたかね」


「レベルが65!? そりゃ本当か! それにしてもまだそれから1ヶ月経ってないぞ」


「6月1日から2人でオーガを9,500体以上倒しました。あとは今日、ドラゴンを倒してきました」


「!?。お前らは化け物か! どうやったら1ヶ月弱でオーガを1万体ほど倒せるんだ! それにドラゴンを倒したのか!」


「先程、ドラゴンの魔石は帝室に献上してきました。すぐに情報が流れてくると思いますよ」


「それならレベル3桁もおかしくないかもな」


 ギルド長に呆れ顔をされてしまった。

 ドラゴン討伐の詳細を話していたらキャサリンが戻ってきた。


「こちらが新しいギルドカードです。データを移しますので今までのギルドカードを貸してください」


 そういってキャサリンは見た事のない魔道具に新しいカードと今までのカードを差し込んだ。


「これでデータを移しました。レベル表示を確認してみてください」


 新しいギルドカードのレベル表記にはレベル125の数字があった。


「しっかりとレベル表示がされています。ありがとうございました」


 続いてスミレさんもデータを移し変えて新しいギルドカードにしてもらった。

 相変わらずスミレさんはレベルを教えてくれない。


 部屋を出る時にギルド長から声をかけられた。


「レベルは大切な個人の情報だ。冒険者ギルドがそれを公表する事はない。だがお前ら2人のレベルが3桁になっている事は知られる可能性が高いと思ってくれ。流石に隠し切れん。それとドラゴン討伐は偉業として認められると思う。ギルドランクが上がると思っておいてくれ」


「了解しました。それでは失礼します」


 まぁレベル表示がーーーになるなんておかしいもんね。誰かがレベルが3桁になっていると気がつくわな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 冒険者ギルドを出て魔導団本部に行く。

 団長室をノックして応答を待って入室をする。


「あら、あなた達はドラゴン討伐指令の追い込みをかけているところじゃないの? こんな所に来てて大丈夫かしら?」


「それの報告に来ました。今朝、試練のダンジョンの地下4階に行き、ドラゴン討伐に成功致しました。ドラゴンの魔石は帝室に献上してきました」


 目を見開くサイファ団長。


「あらららら、それは急な話ね。あなた達なら間違いなくドラゴン討伐指令を遂行するとは思っていたけど、ギリギリで挑戦すると思っていたわ」


「上手く行きそうになければ逃げる予定でしたから。何回か挑戦する事も考えていました」


「そっか、その方が安全かもね。でも良かったわ。ドラゴン討伐を成功させるとは思っていたけど、やっぱり心配だったから。まずは本当におめでとう。またお疲れ様。そうね。今週は2人共休みにしなさい。結構無茶なレベル上げをしてたみたいだからね。仕事は来週からにしましょう」


 サイファ団長は優しい顔をしてくれた。


「ありがとうございます。せっかくなので甘えたいと思います。体力的には大丈夫でしたが気力的にはギリギリの状態でしたから」


 これでサイファ団長への報告が終わった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 スミレさんとは午後の5時に待ち合わせの約束をして別れた。

 今日の待ち合わせ場所は帝国中央公園の噴水の前にしてもらった。そこでスミレさんに告白をしよう。

 フラれたら、その時はその時だ。悲しいけれど、打ち上げを楽しもう。

 まずは散髪だ。


 宿舎に帰り、リンさんとリンさんのお姉さんに選んでもらった洋服に着替える。腕にはいつも着けているスミレさんとのお揃いのブレスレット。

 早めに宿舎を出てお花屋さんに寄る。予約しておいたすみれの花束を購入した。ブーケの大きさの小ささだ。これならもらっても邪魔にならないだろう。


 約束の5時より1時間前に帝国中央公園の噴水前に着いた。

 間違ってもスミレさんの後に着いたら様にならないからな。

 魔力ソナーにより、現在スミレさんはノースコートの屋敷にいる。ここからでもスミレさんの静謐せいひつで清らかな魔力を感じる事ができる。これだけでも充分幸せなんだ。

 俺みたいな奴が、これ以上の幸せを求めるのは烏滸おこがましい考えなのかなぁ。


 少し怖気付いてきたのか。弱気の虫が騒いでいる。

 俺はドラゴン討伐者スレイヤーだぞ! こんなのドラゴンより怖いはずが無いじゃないか。

 心を落ち着かせる方法は……。

 えっと……。

 俺はスミレさんの魔力を全力で感じる事にした。


 4時30分になりスミレさんの魔力が移動を開始した。

 俺の心臓がトクンと跳ねる。告白するのが怖い。スミレさんとの今の関係が壊れてしまうかもしれない。今のままで良いじゃないか。

 囁く心の中の自分がいる。

 高望み過ぎるぞ。

 現実を教える声が聞こえる。

 やはり告白は中止にするべきか。


 いや……。違う。そうじゃない!

 俺はスミレさんとだから温かい家庭を作りたいんだ!

 そう意志だ。強い意志が大事だ!

 少し暴走気味と自覚しつつも、それくらいじゃないとこの人生の一大イベントは超えられない!

 その時、俺の視界にスミレさんが見えてきた。


 今日のスミレさんは赤色のワンピースを着ていた。スミレさんの白い肌が鮮やかに映える。ポニーテールを下ろした髪は、いつもより大人の雰囲気を醸し出している。

 スミレさんの姿に圧倒される。

 綺麗だ。

 俺はドラゴンより強敵な魔物に遭遇したような気がした。


「もう待っていたのか。随分と早いな」


 スミレさんは笑顔を見せてくれる。


「あのこれを……」


 俺はすみれの花束を渡した。

 スミレさんの顔が綻んだ。


「ありがとう。花をプレゼントされたのは生まれて初めてだ。とても嬉しいもんなんだな。それが私の名前のすみれの花束なんて。一生の思い出になるよ」


 満面の笑みを見せてくれるスミレさんに俺は暴走した。


「スミレさん! 俺がドラゴン討伐の後に伝えたい事があると言った事を覚えていますか! 今それを伝えたいと思います!」


 少し焦った雰囲気が出るスミレさん。

 構うものか! このまま突っ切ってやる!


「スミレさん。貴女にずっと憧れていました。遠くで見ているだけで俺は幸せでした。しかしこの3ヶ月でもっと幸せになりたいと思ってしまいました」


 喉がカラカラだ。唾を一つ飲み込んで言葉を続ける。


「貴女を好きになりました。貴女を俺が幸せにしたいです。いや、何があろうと幸せにしてみせます。オーガだろうがドラゴンだろうがサイクロプスだろうが貴女のためなら倒してみせます。どうか俺と温かい家庭を作って欲しい。そして一緒に人生を歩んで欲しい。どうかこの想いを受け止めてくれませんか」


 俺は右手をスミレさんの前に差し出した。

 俺は真剣な顔でスミレさんから目を逸らさない。

 スミレさんは若干の躊躇の後に顔が赤くなり、そしておずおずと俺の右手を取ってくれた。


 えっ! まさかの告白成功か!

 本当なのか!

 勝算が無かったわけではない。

 でも、それでも今の結果が信じられなかった。

 あの気高い魔力のスミレさんが俺の告白を受け止めくれたのだ。

 これは俺にとって、ドラゴン討伐者スレイヤーの称号より凄い事だ。


 赤い顔のまま俺を見つめるスミレさん。


「ドラゴン討伐後の話はジョージ君に告白されるだろうなと、何となく感じていた。本当は断るつもりだったんだ。だけど今の情熱的な告白にあらがえる女性などいないよ。素敵な告白だった。【何があろうと幸せにしてみせます】。この言葉を信用して私はジョージ君の告白を受け止める事に決めたよ。私もジョージ君が好きだ。私からもどうかよろしくお願いします。私もジョージ君を幸せにしてみせるよ」


 やっぱり告白成功だったんだ。

 俺は無意識にスミレさんを引き寄せ抱き締めていた。

 首筋から香るスミレさんの匂い。

 なんて幸福な匂いなんだ。

 スミレさんも俺の背中に手を回して受け入れてくれていた。

 周囲の目が俺たちに注目している事に気づくまで抱き合っていた。

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