ドラゴン討伐指令編

第29話 ジョージ・グラコート伯爵誕生


ドラゴン討伐指令1日目

 朝に修練のダンジョンから出てくる。

 朝日が眩しい。

 今日は陞爵の日だ。一度宿舎に戻って身支度をしないとな。

 身体は拭いていたがダンジョンに入っている間、風呂に入っていない。流石にこのまま陞爵の場にはいけないな。


 スミレさんと別れ宿舎に帰った。

 エクス城には10時まで行けば大丈夫だ。ゆっくり風呂に入ろう。

 自室にあるお湯が出る魔道具で湯を張りお風呂に浸かる。


「あぁ〜!」


 強張った身体が伸びていく。

 やはりお風呂は最高だ。それにしてもスミレさんは綺麗だったなぁ。しなやかに動く身体は芸術品と言っても過言じゃない。

 連日のオーガ討伐は体力的に問題ないが気力が保つかどうかだな。週一で風呂に入りに帰ろうか。

 朝ご飯を食べるために宿舎の食堂に移動する。

 前は空気扱いの俺だったが、最近は遠巻きに皆んなから注目されている。近寄ってくる人はいないけどね。


 部屋に戻りスミレさんにいただいた式典用の礼服に袖を通す。

 紺色のスーツにラインに明るめの青が入っている。スリムなシルエットが印象をスマートに見せる。式典用のアクセサリーを付けて姿見で確認する。

 これが俺か……。

 近接戦闘の訓練で引き締まった身体。ボサボサだった髪型が綺麗になっている。顔も一回り小さくなった感じだ。

 これは結構……。

 俺ってもしかしてイケメン!?

 いやこれは地雷だ。勘違いはいけないな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 9時にはエクス城から馬車の迎えがきた。

 早めに用意しておいて良かったな。

 すぐに馬車に乗り込んでエクス城に向かう。


 今日は晴天だな。この空のように俺の未来もどこまでも透き通っていれば良いな。


 俺が通された部屋は謁見室の前室みたいだ。

 メイドさんがお茶を淹れてくれる。時間まで待機だろう。

 子供時代に怯えて過ごして来た俺が伯爵かぁ。全く実感が湧かないな。

 過去は過去、未来は未来、そして今が大事。まずはドラゴン討伐だな。


 時間が来たようで文官の人が案内に来た。

 謁見室への通路が長く感じる。荘厳な雰囲気で身が引き締まった。


 謁見室の門係が大きな声を上げる。


「ジョージ・モンゴリ魔導爵の入室です」


 謁見室の扉が開く。

 正面の20m先、3段ほど高い玉座にエクス帝国皇帝陛下のザラス・エクス陛下が座っている。ザラス陛下の両脇にはカイト皇太子とベルク宰相が控えていた。玉座までは赤いカーペットが敷かれており、両脇には20名程の貴族が参列している。

 なかなか緊張感が増す状況だ。

 俺は玉座まで真っ直ぐ歩き玉座から3m程の場所で片膝を付きこうべを下げる。


「ジョージ・モンゴリ、おもてを上げよ。今日という日を楽しみに待っておったぞ。ジョージの凛々しい姿に心が踊ったわ」


「ありがたき御言葉恐縮いたします」


 ザラス陛下は周囲を見渡し大きな声を上げた。


「ここにいるジョージ・モンゴリは類い稀なる才を持つ一傑である。個人での戦力は元より、騎士団と魔導団の戦力の底上げも出来る人材だ。そこで伯爵に陞爵しょうしゃくする事としたが、ジョージはエクス帝国ではなく、このザラスに忠誠を誓うと申しておる。この件に異論がある者がいれば発言せよ!」


 謁見室は数秒鎮まりかえった。


「特に反対者はいないようだな。それではジョージ・モンゴリ魔導爵には由緒あるグラコート家の再興を任せよう。今後はジョージ・グラコート伯爵としてこのザラスを支えてくれ」


 ザラス陛下が言葉を終えると、隣にいたベルク宰相より拳ほどの豪華な巾着袋を渡された。


「こちらがグラコート家の印章いんしょうとなる。身分を証明するのにも使えるため大切にするように」


 ベルク宰相の言葉に恐縮しながら巾着袋を受け取った。

 ベルク宰相は玉座を振り返り、言葉を発する。


「陛下、これにてジョージ・モンゴリ改めジョージ・グラコートの陞爵を終えました。続きましては次の議題をお願い致します」


「ジョージ・グラコート伯爵よ。このザラスに忠誠を誓ってくれて嬉しく思う。さて早速だが伯爵の武威を示して欲しい事がある。ちょうど1ヶ月後の7月1日にロード王国の使者と会合が持たれる運びだ。現在、我がエクス帝国とロード王国の国境地帯では緊張感が増しておる。そのための会合だ。この会合を優位にするためにも【エクス帝国にはドラゴンスレイヤーのジョージ・グラコート伯爵あり】とロード王国に畏怖を与えたい。来月行われる会合の7月1日に間に合うように試練のダンジョンの地下4階でドラゴンを討伐し、ドラゴンの魔石を献上して欲しい。大変かと思うがよろしく頼むぞ」


「陛下、その願い、我が身は微力ながら全力で取り組ませていただきます。必ずや7月1日のロード王国の会合にドラゴンの魔石をお見せ致します」


 そう大見得を切って俺の陞爵の儀は終了した。


 謁見室をあとにし、ベルク宰相よりグラコート伯爵家についての説明が別室にて行われた。

 グラコート家は今より100年ほど前の皇帝陛下に忠誠を誓っていた家で一代で伯爵家までになった。忠誠を誓った皇帝陛下が崩御した時に爵位を返上した家であると。

 是非今後はエクス帝国を支えてくれるように頼まれる。

 まぁ伯爵になったのだから出来る事はしたいよね。


 伯爵になると国から俸禄として年間1億バルトが支給される。現在、領地は無し。欲しければ他の国に侵攻して奪い取っても良いと言われた。

 そこまでして領地は欲しくないよね。ただでさえ領地運営は大変だし、それが戦地復興だなんて、どんな罰ゲームだって話。

 あとは陞爵のお祝いで帝都に屋敷が一つもらえるそうだ。

 細かい話はドラゴン討伐終了後にお願いする事にした。死んじゃうかもしれないしね。


 ドラゴン討伐指令の時間はあまり無い。他の貴族が俺と友好を持ちたかったようだが、辞退させてもらった。

 早速宿舎に帰り着替えてから修練のダンジョンに向かう。

 修練のダンジョンの入り口には既にスミレさんが待っていた。服装が赤系統に変わっている。俺がスミレさんにドラゴンから目立つように頼んだからだな。


「伯爵への陞爵おめでとう。あとはドラゴン討伐に邁進まいしんできるな」


「正式に陛下よりドラゴン討伐指令が降りたよ。期限は来月の7月1日のロード王国の会合に間に合うように。確実に成功させるためにもギリギリまでレベルアップをしていこう」


「ドラゴン相手ならやり過ぎるという事はないな。望むところだ」


 ニヤリとするスミレさん。俺も同じくニヤリとした。

 またオーガ討伐の日々に入る。

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