第27話 揺れる胸より重要な事がこの世にあるのだろうか?
魔導団第一隊修練部21〜23日。
修練のダンジョン内でのアイシクルアローの練習は進んでいる。精度、速さ、威力が上がっていっている。今のところは順調だ。
5月22日にスミレさんと修練のダンジョンに行った時は、オーガのモンスターハウスは全てスミレさんに任せた。完全に安定してオーガを倒している。
午後からの近接戦闘訓練では新たな事ができるようになった。
体内魔法である身体能力向上。これは身体内に魔力循環をする事でできるようになる。
新たにできるようになった事は部分強化である。足に集中して魔力循環を行うと、通常より速く走れるようになった。また腕に集中して魔力循環すると模擬剣で斬られても無傷で済んだ。
他の人にはできないようなので、魔力制御の熟達が必要みたいだ。
ドラゴン討伐に向けて順調に進んでいるような気がする。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
魔導団第一隊修練部24日。
やっと明日は休みだ。
いろいろあったので気持ちが休みに向いていかない。少し疲れているのかな? 休暇でももらって旅行でも行きたいな。
今日の午前中はスミレさんと修練のダンジョン。
やはりスミレさんとのダンジョンは楽しい。魔力サーチと魔石拾いとお尻凝視に忙しい。ご褒美がないと軍人なんてやってられるか!
スミレさんが【雪花】に魔力を通すと刃は2倍程度に伸びるようになっている。取り回しに問題が生じるかもしれないと危惧したが、スミレさんには問題が無かったようだ。
自分の手足のように【雪花】を扱う。
今日からスミレさんは革の胸部装備を着るのを止めてしまった。オーガやドラゴン相手に装備の意味が無いとの事だ。
今日は青のシャツに白のホットパンツ、膝まで革のブーツ姿。
革の胸部装備を外したせいで戦闘中にスミレさんの胸が揺れる揺れる、また揺れる。
完全に目の毒である。俺の心には薬だけど。
とても有意義な午前中だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
午後からはサイファ団長に修練部の報告会である。今回から第一部長の俺と第二部長のスミレさんの2人で報告にきた。
「さて、ドラゴン討伐の話からしましょうか。ジョージ君はパートナーにスミレさんを選んだのね。実際に勝てそうかしら?」
「実際に戦った事がないため予測ですが、かなりの確率で勝てると思います」
「あら、随分な自信ね。ジョージ君はもっと謙虚かと思っていたわ」
せっかく自分を奮い立たせているのに……。
「ドラゴンに立ち向かうには強い心が必要です。勝てると自分に言い聞かせているんですよ。強がりとも言えますね」
俺の言葉にスミレさんが口を挟む。
「ジョージ君はこう言ってますが、私もかなりの確率で勝てると思っております。あとは作戦を考えて討伐の可能性を高める事だと思います」
その言葉に笑顔を見せるサイファ団長。
「なら大丈夫かしら。一応来月のジョージ君の陞爵の後にドラゴン討伐の命令が発動されるわ。期限は1ヶ月ね。大変かと思うけど宜しくね」
期限が1ヶ月!? いくらなんでも短くないか?
「実はロード王国との外交があるのよ。その話し合いまでにジョージ君とスミレさんにはドラゴンスレイヤーの称号持ちになって欲しいの。討伐証明はドラゴンの魔石になるわね」
まぁ期限が長くてもダラけるだけかもな。前向きに考えよう。
「了解しました。今回のドラゴン討伐任務の準備と、修練のダンジョンにおける魔導団と騎士団の底上げは同時並行して行うのですか?」
「流石にそんなに鬼じゃないわよ。週明けからは魔導団と騎士団の修練のダンジョンへの引率は中断ね。ジョージ君とスミレさんのレベルアップだけに修練のダンジョンを使って。冒険者への開放も終了させたわ」
よし! それならガンガンレベルを上げようじゃないか!
あ、レベルアップのために合宿をやるか。
「サイファ団長、お願いがあります。修練のダンジョンのすぐ外に簡易で寝られる建物を立てて欲しいです」
「なるほど。本気で修練のダンジョンでレベルアップに励むつもりね。それくらいの予算は融通できるわ」
あとは攻撃力は問題無いと思うので守りの魔法を試してみるか。
ドラゴンが瞬殺できれば嬉しいが、そうで無い場合には俺が固定砲台になるのが良いかな。
細かい作戦はスミレさんと考えよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
スミレさんと魔導団の団長室を出て、修練場の隅にきた。
早速、地属性の発展系の岩属性の魔法を使ってみる。
地面に手を置いて呪文を詠唱開始。
【堅固なる岩石、全ての災いを跳ね返す壁となれ、ロックウォール!】
高さ3m、幅が5m、厚さ1.5mほどの岩の壁が地面から生えてきた。
取り敢えず発動して良かった。魔力消費はそれ程感じない。岩の壁の耐久力は
20m程離れて岩の壁目掛けてファイアボールを発射する。
【火の変化、千変万化たる身を
直径1m程の火の玉が岩の壁に直撃する。岩の壁は表面は焦げたが、火の玉をしっかりと防ぎ切ってくれた。これならドラゴンの吐く火の玉にも対処できそうだ。
その後、ロックウォールの呪文をあれこれ試してみた。
イメージで岩の壁の形を変えれる。直径5mの半球のドーム状にして前面に魔法の発射孔を作る。後ろには万が一の逃げ道を開けておく。完全に閉じてしまうと真っ暗になるしね。
スミレさんが何も言わずに【雪花】を抜く。
岩のドームを斬りつける。
りんりんりんと鳴く【雪花】。岩のドームはスミレさんの一撃に耐える事は出来なかった。綺麗に真っ二つになる。
ここは岩のドームの耐久力を嘆くより、スミレさんの攻撃力の凄さを喜ぶべきだ。
誇らし気なスミレさんは胸を張っている。そう胸を張っている。やっぱり胸を張っている。最高だ!!
ドラゴン討伐の作戦は大体頭に浮かんでいる。あとはどれだけレベルアップが出来るかだ。
俺はスミレさんの胸を堪能しながら思考していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
魔導団第一隊修練部25日目
朝の魔力循環と魔力ソナーの併用訓練の間にドラゴン対策を練る。練り過ぎて困る事はない。
出来れば瞬殺したいなぁ。そんなに上手くいかないだろうけど。
ドラゴンの誘導と牽制をスミレさんに担当してもらう。その為にはスミレさんに目立ってもらわないとダメだ。
修練のダンジョンの地下4階は草原で一面緑だ。ここは緑の反対色である赤色の服装を揃えてもらおう。ドラゴンの色覚が人間と一緒かわからないけど。
それにしても女性を知らないまま死にたくないな。そういうお店に行くべきなのか。敷居が高いな。諦めるか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
宿舎の食堂で朝ごはんを食べているとマールが凄い勢いで近づいてきた。
「ちょっとあんたどういう事よ!」
何か凄い剣幕だな。
「どういう事って?」
「なんでドラゴン討伐の任務にあなたの一番弟子の私を選ばないの!」
「それこそなんでマールを選ばないとダメなんだ。それに一番弟子ってなんだ?」
「ドラゴンは遠距離攻撃が有効でしょ。それならば魔導団実力No.3の私を選んで当然だわ」
「遠距離攻撃は俺は1人で間に合っているんだ。あとは遊撃が欲しいからな。一番弟子については完全無視か?」
「あなたは私より優れた魔導師よ。なら実力が下の者を導く義務があるでしょ。常識よ」
「そんな常識は知らん。俺はお前を弟子になどしない」
マールの常識、皆んなの非常識だ。
やはり第一印象って信用できるな。マールの第一印象は面倒くさい女だったもんな。
マールは「ちっ!」と舌打ちして帰っていった。
全くサイファ団長はマールにしっかり首輪着けて置いて欲しいわ。
明日からは修練のダンジョンに籠る予定だ。今日くらいゆっくりしたいもんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
たまには帝都をブラブラするか。
オーガの魔石の納品のおかげでお金には不自由しなくなっている。買い物に行くのも良いかな。
あ、この間コーディネートしてもらった洋服屋に行こう。もう少しオシャレの洋服のバリエーションが欲しいからね。
帝都の中央通りをゆっくり歩いていると、魔導団第一隊所属の女性を見かけた。確かリンさんだったかな?ショートカットの髪型が似合う活発そうな子だ。
向こうも気が付いたようだ。俺に近づいてくる。
「ジョージさんじゃないですか。何をしているんですか?」
「別にやる事ないから洋服でも買おうかなって思ってね。前に行った洋服屋に行くつもり」
リンさんは少し俯いて何か考え、ほんの数秒で顔をあげた。目をキラキラさせている。
「ジョージさん! 私も付いて行って良いですか?」
「え、別に良いけど、リンさんは用事ないの?」
「大した用でないから後日で構いません。ジョージさんと一緒にブラブラしたほうが楽しいに決まっています! 私が洋服を選んであげますよ。これでも自信はあります!」
「それなら頼もうかな。自慢じゃないけどオシャレには疎いんだよ」
「任せてください! ジョージさんにバッチリ合う洋服を選ばせてもらいます!」
リンさんはテンション高いなぁ。一緒に修練のダンジョンに行った時は静かだったような……。
取り敢えずこの間の洋服屋を目指す。洋服屋の前でリンさんが声を漏らす。
「えっ! ここのお店なんですか」
「そうだよ。この間、ここの店員さんにコーディネートしてもらったんだ。センスの良い店員さんだったよ」
俺が洋服店に入るとリンさんは俯き加減で俺の後に入る。この間の綺麗なお姉さんが店の奥から出てきてた。
「いらっしゃいませ。先日来られた方ですね。髪がさっぱりして素敵になりましたね。あら? リンじゃない? もしかしてこの方が彼氏?」
「違うわよ! お姉ちゃん! こちらは魔導団第一隊の部長さんなの! 失礼な事を言わないでよ!」
「そうなの? せっかくリンが素敵な男性を紹介してくれるのかなって思ったんだけど……。だったら私が立候補しようかしら?」
冗談でも綺麗なお姉さんにこんな事を言われると嬉しくなるな。
どうやらここの綺麗なお姉さんはリンさんの本当のお姉さんのようだ。
リンさんが俺に心配そうな顔を見せる。
「お姉ちゃんのお店ってセンスは良いけどそこそこ高級店だけど大丈夫ですか?」
お金の心配されちゃった。まぁ普通の魔導団の給料だとちょっと厳しいかもね。
「リンさん、大丈夫ですよ。オーガの魔石の納品でお金には困ってないですから」
目がキラリと光るリンさん。
「お姉ちゃん! ジョージさんに最高の洋服を選びましょう!」
ここから俺はリンさんとお姉さんの着せ替え人形と化す。
結局、洋服代の支払いに80万バルト程かかった。でもこれでセンスの良いコーディネートが4種類ばかり増えたことになる。
オシャレには金がかかるもんだ。
洋服選びをしてくれたリンさんに夕食をご馳走しようとしたが、どうしても外せない用事があるとの事で断られた。
うーん。思わせぶりな態度を取られたのかな? 俺がモテるわけないもんな。
1人寂しく宿舎に帰った。
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