第25話 ドラゴン討伐の打診とアイシクルアロー
修練のダンジョン、地下4階、ドラゴン。
どうしてそうなる!?
俺の疑問に答えるようにサイファ団長が説明を始めた。
「今日は【無の日】の休日だから、午前中も冒険者に修練のダンジョンが開放されているわ。今日の午前中の冒険者は隠密に優れている冒険者2人だったの。地下4階に通じるマッピングは以前の調査で終わっている。地下3階のオーガから逃げながら地下4階に降りたみたい。何かお宝があるかもしれないと思ったって言ってるわ」
どうやら
「地下4階に降りた冒険者2人は洞窟を出で草原に出たそうよ。ここまではジョージ君とスミレさんの報告と同じね。付近に何かないか捜索していた時に遠くの方から咆哮が聞こえてきたって。咆哮がした方向を確認すると空を飛ぶ物体を発見する。向こうも気が付いたらしく近寄ってくる。ドンドン大きくなる飛行物体。迫り来る赤黒い巨体。2つの角に大きな牙。強靭な鱗に覆われている身体。鋭そうな爪。冒険者は慌てて踵を返して逃げ出してきたって。冒険者からの聴き取りの結果、先程その魔物はドラゴンで間違いないと学者が断定したわ」
あの物凄い魔力反応はドラゴンのものだったのか。それなら納得だ。人間が勝てるとは思えない。
サイファ団長が真剣な顔になった。
「修練のダンジョンの地下4階層の調査は中止にしていたわ。しかし魔物がドラゴンと分かって状況に変化が生じる可能性があるの。ドラゴン討伐は間違いなく英雄になれる。そしてエクス帝国は英雄を待ち望んでいる。いやエクス帝国だけじゃなくどこの国、いつの時代でも英雄を欲しているのよ」
ま、まさかと思うけど……。
「ジョージ君にドラゴン討伐の特別任務が出るわ」
確かに以前、ドラゴンの眼にファイアアローが突き刺さればドラゴンでも倒せるかもとは聞いていたけど……。
実際には英雄なんてなりたくないぞ。ドラゴンスレイヤーの称号なんて紙に丸めてポイさせてもらうよ。
そんな俺の気持ちを見透かしたようにサイファ団長が言葉を続ける。
「ジョージ君、考えてほしいの。ドラゴンを倒す人間がいる国と戦争をしようと思う? ドラゴンスレイヤーの称号は戦争抑止のわかりやすい指標になるのよ」
「お言葉ですが、修練のダンジョンには2人までしか入れません。サイファ団長は本当に2人だけでドラゴンを倒せるとお思いですか?」
「ジョージ君の成長速度を考えると
目の前が暗くなった。戦争に行けと言われたほうがまだマシだ。あんな化け物ような魔力を持っている魔物と相対するのか。
無慈悲なサイファ団長の声が続く。
「たぶん数日中にこの特別任務は発動される。ドラゴン討伐のパートナーはジョージ君に一任するつもり。近接戦闘得意の人を選んで自分を守らせるも良し、攻撃魔法が得意な魔導団から選んで一緒にドラゴンを遠距離攻撃しても良いわ」
ゾロン騎士団長は何も言わない。
冷静に考えて、騎士団の人員では空を飛ぶドラゴン相手は厳しいのだろう。
ドンドン外堀が埋められていっている。ドラゴン討伐の特別任務を断るという選択肢が無くなっている。
もうやるしかないようだ。
「ドラゴン討伐の特別任務はジョージ君の陞爵の後にする予定よ。伯爵になったその後にドラゴン討伐の任務を出すわ。若き伯爵がドラゴンスレイヤーになるなんて乙女心をくすぐるわね」
乙女心だぁ! おどりゃ、何歳やねん!
あ、ヤバい……。
「何か失礼な事を考えていたみたいだけど、よろしくね」
俺は肩を落として魔導団長室を出た。
俺の気持ちはギロチン台に上がる死刑囚。
後ろからスミレさんが追いかけてきた。
「ジョージ君、頼みがある。ドラゴン討伐のパートナーに私を選んでくれ! 足は引っ張らない! お願いだ!」
そりゃスミレさんがパートナーになってくれたら心強いけど、ドラゴンは危なすぎるよな。
「嬉しい申し出なんですけど、ドラゴン討伐は俺1人で行こうと思います。何も死人を増やす必要はないでしょ」
「死ぬつもりなのか? だったら私を連れて行っても何も困らないはずだ。どうせ死ぬんだから」
「残念ながら俺は意地汚く生き抜くつもりでね。足掻くだけ足掻くつもりですよ。最悪、逃亡しますけどね。そんな事になればエクス帝国にいられなくなります。逃亡軍人で犯罪者ですよ。俺は天涯孤独だから良いけど、スミレさんにはご家族がいるでしょう」
「ジョージ君が足掻くだけ足掻くというなら安心したよ。前にも言っているが私は簡単か難しいかで行動を選択しない。できる、できないじゃない、やるかやらないかだけだ。ドラゴン討伐の難問を工夫して努力して達成するまでだ。君と私ならそれができると確信している」
スミレさんは頑固なところがあったな。腹を括るか。
「そこまで言うなら是非ドラゴン討伐のパートナーになってください。ただし後悔するかもしれませんよ」
「ジョージ君のパートナーにならないと必ず後悔するからな。同じ後悔するなら行動する事を選ぶさ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
スミレさんをドラゴン討伐のパートナーに選んだために逃げるわけにはいかなくなったな。何とかドラゴン討伐を成功させないと。
まずはドラゴンの資料集めからだな。
帝国図書館に行ってドラゴンの資料を集める。
全長は10mを超え、体高は8m以上。
20㎝を超える牙と鋭い爪が生えている。
丸太のような巨大な尻尾をもっていて、全身は丈夫な鱗を纏っている。
角が生えている個体が多く確認されている。
背中には翼が生えているが、ドラゴンは風の魔法を
全身を風の魔法で覆っているため、ドラゴンを討伐するには、この風の魔法を超える攻撃が必要になる。
直径1m程の火の玉を吐き、攻撃魔法を使う個体も確認されている。
弱点と考えられる部位は両眼、鼻腔、耳、口腔、股間、肛門などの鱗が無い部分。
また腹の部分は比較的柔らかいと言われている(それでも硬いが)。
こんな魔物が倒せるのか……。
やっぱりオーガを倒す時のように両眼にアロー系の魔法を撃ち込んで脳味噌を破壊するのが討伐の可能性が上がりそうだ。
ただドラゴンは風の魔法を纏っているから、ファイアアローの火の矢は吹き飛ばされないだろうか?
実際のドラゴン討伐の実例を見てみる。
ダンジョンでのドラゴン討伐事例は無し。
今までダンジョン内でドラゴンが発見された事がない。
修練のダンジョンが初だ。
たぶん普通のダンジョンでは到達されていない深層域にいると考えられている。
ダンジョン外でのドラゴン討伐の例は数例ある。
あるにはあるが全て軍が物量で討伐している。
攻城兵器のバリスタや投石機、大量の攻撃魔法で倒している。
しかも討伐の成功率は滅茶苦茶低い。だいたいはドラゴンを追い払うだけだ。
なるほど。
通常、ドラゴンスレイヤーの称号は個人に与えるものでは無く、軍団に与えるものだ。
こりゃ相当無茶振りをされているのが良く分かる。
自室のクローゼットを開け、奥から高等学校時代の呪文解析概論の教科書を出してくる。
まずはもっと貫通力の強い魔法が必要だ。
魔法の属性を大きく分けると火・地・風・水の4つだ。それぞれに特徴がある。
★火・・・攻撃力は高い。範囲攻撃に適している。貫通力は高くない。
★地・・・地面が無いと魔力を大量に使う。基本は守り特化。
★風・・・見えにくく速い攻撃魔法。攻撃力は少し弱い。
★水・・・汎用性に優れている。直接の攻撃力は弱い。
★無・・・体内魔法の身体能力向上や体外魔法の魔力ソナーなど。
この基本属性だけではドラゴンを倒すには足りない。
基本があれば応用がある。魔法の4属性にも発展系が存在している。
★炎・・・火の属性をより一層高めた属性。貫通力は高くない。
★岩・・・地属性の発展系。地属性を特化させた属性。やはり地面がないと魔力消費が半端ない。
★颯・・・疾風属性とも言われる。風属性より速く、攻撃力も上がっている。ドラゴンが纏っているのも颯属性の可能性がある。
★氷・・・水属性の発展系統。氷属性になると貫通力が高くなる。攻撃力も高い。しかし魔力を大量に消費する。
俺が考えているのは氷属性だ。ファイアアローを超える貫通力。
氷属性のアイシクルアローでドラゴン討伐を目指す。
しかしアイシクルアローは上級魔法だ。俺は使った事がない。
まだ時間があるな。今から修練場の魔法射撃場に行くか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
魔法射撃場に行くと射撃場の管理人から俺は的を狙わないように注意を受けた。また魔道具を壊されてしまうと困るからと言われた。
参ったな。目標物が無いと魔法の狙いがつけにくい。
急遽、丸太を用意してもらいそれに撃ち込んでみる事にした。
まずは一本の氷の矢からだな。
初めての魔法のため魔力はあまり込めずに制御に意識を集中する。そして丁寧に呪文を詠唱した。
【
右手より50㎝程の氷の矢が凄いスピードで丸太に発射された。
氷の矢は丸太の狙ったところを突き抜けて、射撃場の壁をも突き抜けてしまった。そのまま隣の騎士団本部の壁を壊して止まる。
呆然とする俺と射撃場の管理者。
慌てて騎士団本部まで謝罪に行く。
騎士団ではいきなり魔法が撃ち込まれたことで、テロと思ったようだ。
その後、悲しい事に俺は魔法射撃場を出禁になった。
まぁ取り敢えずアイシクルアローのコントロールが問題無くて良かったよ。
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