第24話 頑固者には上からの命令が効果的

魔導団第一隊修練部15日目。

 午前中は魔導団第一隊の人を修練のダンジョンに連れて行った。今日も問題なく終わった。

 さて、今日のスミレさんの機嫌はどんな感じだ?

 午後になり修練場に向かった。スミレさんがいた。

 俺に気がつくとスミレさんは敬礼をして大きな声を上げる。


「ジョージさん! 今日もよろしくお願いいたします!」


 ジョージさん!? なんじゃ!?


「あの……、スミレさん。ジョージさんって何?」


「ジョージさんは私の上官ですから当たり前です。今までが間違っていました。私の事はこれからはスミレと呼んでください」


 おぉ! スミレさんを呼び捨てするなんて! 恋人みたいだ!

 でもこれは違うよね。甘ったるい雰囲気が皆無じゃん。


「スミレさん、魔導団第一隊修練部は俺とスミレさんの2人しかいない新規の部です。今まで通り気楽にやりましょうよ」


「それは駄目です。魔導団は軍隊であります。上官に対しては礼儀が必要です」


「俺とスミレさんは1か月間、修練のダンジョンを調査したパーティじゃないですか。俺はスミレさんの事を相棒だと思っています。そんな他人行儀な話し方だと悲しくなります。魔導団は騎士団と比べて、その辺は緩いから大丈夫ですよ」


「それでもケジメは必要です」


 こりゃ頑固だ。スミレさんってこんなところもあるのか。なんか良い方法はないかな。

 困った時のサイファ団長!


「ちょっと団長室に行ってきます。待っててください」


「了解致しました。ジョージさん」


 まいったね。こりゃ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺は全くプレッシャーのかからなくなった分厚い団長室の扉をノックした。中から入室許可の返事が聞こえた。

 サイファ団長は微笑を浮かべて俺を迎えてくれた。何かホッとする。


「誠に申し訳ございませんが頼み事があります」


「マールの事でしたら、今朝一番で本人から報告がありましたよ。貴方から許してもらったって。修練のダンジョンに連れて行くかどうかは私の判断に委ねるそうね。まぁ当分は駄目かしらね」


「あ、すいません。そちらもよろしくお願いします。お願いしたい事とは新しい事で……」


「あら何かしら?」


「スミレさんは現在、私の補佐になっております。形として私が上官になっております。何とか同格にしてくれませんか?」


「別に構わないけど、どうしたの?」


「スミレさんが俺の事をジョージさんって呼ぶようになったんです。それに敬語を使うんですよ。今さらやりにくいです」


「あらあら、一体何があったのかしら。でも貴方がやりにくいのでしたら新しい肩書きを考えましょう。そうね。貴方はエクス帝国魔導団第一隊修練部第一部長、スミレさんは第二部長にしましょう。もちろん同格よ。早速辞令を書くわね。ちょっと待っててね」


「無理なお願いを聞いていただきありがとうございます。本当に助かります」


 他の仕事を止めて俺とスミレさんの辞令を書いてくれる。サイファ団長は優しいな。好きになっちゃいそうだ。


「はい、これをスミレさんに渡してあげてね。これで貴方とスミレさんは同格の同僚よ。敬語の必要もなくなるわね。仲良くやりなさいね」


「ありがとうございました」


 俺は辞令を受け取り修練場に向かった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おかえりなさい。ジョージさん」


 敬礼で俺を出迎えるスミレさん。スミレさんには「お疲れ様です。あなた」って迎えてほしいものだ。

 俺はサイファ団長からもらった辞令をスミレさんに渡した。目を丸くするスミレさん。


「こんなに簡単に辞令って出るのか?」


「まぁそれが魔導団です。規律が緩めなんですね。変わり者が多い魔導団をまとめるためにはしょうがないところがあります。これで俺とスミレさんは同格の同僚です。今まで通りでお願いします」


「あ、あぁ、わかった。何とか頑張るよ」


「何で頑張る必要があるのですか? 普通で良いですから」


「その普通が難しいから軍人として対応したんだ!」


「何か俺、スミレさんにしましたか? 気に触るような事があったら言ってください。直しますから」


「いや、そんな事ではないんだ。私の問題だ。今まで通りになるように頑張るから気にするな」


 何故かスミレさんの顔が赤くなっていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


魔導団第一隊修練部15、16日目。

 午前中は魔導団第一隊の人を修練のダンジョンに連れて行った。

 やはりずっと身体能力向上を継続して走るのはキツいみたいだ。休みを入れながらオーガ討伐を実施した。それでもオーガの魔石は90個はあるので充分だろう。

 午後の近接戦闘訓練は変わりなく続いている。まだスミレさんは少しぎこちないが少しずつ前の状態に戻ってきた。

 ホッと胸を撫で下ろした。


 近接戦闘訓練も楽にこなせるようになってきている。やっぱりこれのせいだろうな。俺のギルドカードを見るとレベル56の文字が。まだ上がっている。レベル50で伝説ならレベル60だと何になるのか? 人外かな?


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


魔導団第一隊修練部17日目。

 午後から毎週最終日のサイファ団長への活動報告にいく。


「早速のお願いなんだけど、来週から修練のダンジョンにスミレさんを連れて行ってほしいのよ」


「別に問題はありませんよ。何か理由があるんですか?」


「先日、スミレさんから申し出があったのね。今ならオーガのモンスターハウスは厳しいけど、通常のオーガとの連戦ならこなせると思うって。それで近接戦闘のスペシャリストを育成しようと計画が上がったのよ。1ヶ月の修練のダンジョンの調査でスミレさんが1番レベルが高いの。育てるなら若い人材が良いってなってね」


「了解致しました。シフトはどうしますか?」


「5月中は隔日の午前中にスミレさんを同行させて。6月からは午後の冒険者の開放が終了するから午後に行く感じね」


 またスミレさんとダンジョンに行けるのか。楽しそうだ。スミレさんの剣筋は綺麗だから見ていると魅了されるんだよね。

 決してお尻に魅了されているわけではない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


魔導団第一隊修練部18日目。

 休みの日だ。

 今日はやる事がないので自室で魔力ソナーの限界に挑戦していた。

 体内魔法の身体能力向上を切り、完全に魔力ソナーのみを発動させる。

 自分の魔力を体外に広げていく。

 広く、広く、広く、広く。

 薄く、薄く、薄く、薄く。

 どこまでも広がっていく。

 気がつくと帝都全域が有効範囲になっている。まだまだ広げる事ができる。

 こりゃどこまで行けるか分からないな。意識すると誰がどこにいるか分かるな。

 帝都のノースコートの屋敷辺りに意識を向ける。


 いた!


 この静謐せいひつで清らかな魔力はスミレさんだ。

 幸せだ。なんでスミレさんの魔力を感じると幸せな気分になるんだろう。

 でも以前よりスミレさんの魔力の量と質が違いすぎる。やはりダンジョンでのレベルアップが関係あるんだろうな。魔力の量や質を感じると人の強さが分かる。これはレベルが分かっちゃうね。

 やはり帝都での強さで断トツなのはスミレさんだ。他の人が霞んで感じる。

 ただサイファ団長の魔力だけはわからない。魔力ソナーによれば、それ程魔力が高いように感じないのだが何か変だ。まるで偽物の魔力を見せられている感じだ。魔力隠蔽や魔力偽装とかできるのかな? 今度聞いてみよう。


 宿舎の廊下を走る魔力を感じる。

 知ってる魔力だ。魔導団第一隊の人だな。

 その魔力は俺の部屋の前で止まり、ドアを叩く音がした。扉を開けるとやっぱり魔導団第一隊の人だった。


「サイファ団長より緊急の呼び出しです。至急団長室までよろしくお願いします」


「了解致しました。急いで用意をしてすぐに伺います」


 俺は魔導団の制服を着て隣にある魔導団本部の団長室を訪れる。

 サイファ団長がこちらを見て微笑んだ。


「休みの日に悪いわね。今、スミレさんとゾロンも呼んでいるから皆んなが来るまでお茶でも飲んで待っていてね」


 俺は団長室にあるティーセットから勝手にお茶を入れる。

 皆んなが集まるまで時間がありそうなので魔力ソナーでサイファ団長の魔力を真剣に探ってみる。

 スミレさんのような静謐せいひつで清らかな魔力ではない。なんと例えたら良いのだろうか。深淵な穴の中を覗いているような感覚。

 サイファ団長の魔力に集中しているとサイファ団長が俺を見て微笑んだ。


「ジョージ君。乙女の秘密を探る様な事はしちゃダメよ」


 俺はその言葉にビクッとなった。


「俺が魔力ソナーを使っているのが分かるんですか」


「通常の魔力ソナーだと分からないけど、そこまで私の魔力を覗き込もうとしたら流石に分かるわよ。あまりよろしくない行為だわ」


「失礼しました。つい好奇心に負けてしまったみたいです。もうしません」


「まぁ人間では殆ど気がつかないでしょうね。エルフ相手だと半々くらいかな。魔力ソナーは自分の魔力を体外に広げて、相手の魔力との反発で感知する魔法だから。それだけだったら気がつかないわ。貴方が今やったのは、無理矢理相手の魔力に自分の魔力を浸透させる行為だから魔力に敏感な人は感じてしまうわね」


「へぇ、そうなんですか」


「学校で勉強したでしょ。呪文解析概論の範囲よ」


「すいません。劣等生だったので……。そういえば今度、魔法について相談に乗ってほしいのですが」


「私に教わる前に高等学校の教科書を読んできた方が良いと思うわ。まずは自ら勉強して、それでも困ったら相談してね」


 簡単に断られてしまった。まぁ当たり前か。高等学校の教科書は宿舎のクローゼットの奥にあるはず。良し勉強してみるか。


 お茶を飲んで待っていると騎士団のゾロン団長とスミレさんがやってきた。

 全員がソファに座りサイファ魔導団長が口を開いた。


「休日に集まってくれてありがとうございます。今日、お呼びした件ですが、修練のダンジョンの地下4階でドラゴンが発見されたわ」

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