第23話 もやもや気分【スミレの視点】
【スミレ・ノースコートの視点】
魔導団第一隊修練部14日目。
私は毎日朝の6時に起床する。今までは1時間剣術の練習をしていたが、ジョージ君おすすめの魔力ソナーの訓練に変えている。魔力ソナーの有効距離を伸ばす訓練は精神的にとても疲れる。
有効範囲は魔導師でも平均で30m、魔力制御に優れていても50mくらいだ。頑張って有効範囲を伸ばしても30mが50mくらいにしかならない。それくらいの距離なら目視で充分だ。
確かにこんな訓練は誰もやらないだろう。魔力ソナーは繊細な魔力制御が必要だ。自分の魔力を体外に放出する。
広く、広く。薄く、薄く。
魔力を静かな湖面のようにしなければならない。ちょっとした集中力の乱れで魔力がさざめく。
最近ではやっと有効範囲が30mになった。最初は全く出来なかったから格段の進歩だ。
7時になったので訓練を切り上げ、屋敷の食堂に行く。
使用人が朝食の用意をしてくれている。帝都のノースコート侯爵家の屋敷には現在、兄と妹と私の他には使用人しかいない。父と母は領地にいる。兄と妹とは時間が合わないため朝食は1人だ。
朝食を食べ魔導団の制服に着替える。ここから魔導団本部までは歩いて10分程度だ。余裕をもって出勤をする。
魔導団本部ではジョージ君とマールという女性の話で持ちきりだった。
マールが修練のダンジョンで問題を起こした事は何となく聞いていたが、昨晩、独身宿舎の食堂にてジョージ君とマールが一緒に2人で夕食を食べていたらしい。
その話を聞いて、何故か分からないが胸がモヤモヤする。こんな感覚は初めてだ。
周りの会話を聞いていると、魔導団所属の女性隊員が騒いでいる。どうやらジョージ君は男性として優良物件になっているようだ。
伯爵になる事が内定しているし、魔導団第三隊から第一隊に抜擢された。ジョージ君本人にも魔法の腕に自信がついてきたのだろう。出会った頃のようなオドオドした感じが失せている。手入れがされていなかった髪型がスッキリして見た目にも悪くない。修練のダンジョンで得る事ができるオーガの魔石により、金銭的にも魅力がある。
なるほど。ジョージ君が現在モテているのも当たり前か。そんな事を思っていると気が強そうな女性が近づいてきた。
「貴女が騎士団第一隊から転籍してきたスミレ・ノースコートね。私はマール・ボアラム。天才魔導師よ」
「なにか用か?」
「貴女は魔導団第一隊修練部に所属しているんでしょ。その前は修練のダンジョンの調査をジョージ・モンゴリと行っていた。ジョージについて知ってる事を教えなさい」
「何故、私がそんな事を教えないといけないんだ?」
「それはジョージ・モンゴリは私の伴侶に相応しいからよ。またジョージも私と結婚すれば幸せになれる」
ジョージ君は将来は愛する人と温かい家庭を作りたいと言っていた。だが私の直感は相手はこの女性ではないと確信してしまう。
「お断りだ。お前はジョージ君に悪影響を与えそうだ」
「何でアンタにそんな事を言われないといけないのよ! それにジョージはアンタの上官になっているんでしょ! それを君付けで呼ぶなんて軍人としておかしいんじゃないの!」
確かにジョージ君は年下でこの間までは私が指揮をしていたが、今は上官だな。でもこれとそれとは話が違う。
「とにかくお前に教える事は何一つない」
私はマールの返事を聞かず修練場の魔法射撃場に向かった。
いつも通り攻撃魔法の練習だ。今日の結果は散々だった。射撃場の魔道具でわかる魔法精度の値はいつもより悪かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
午後からのジョージ君の近接戦闘訓練では、胸のモヤモヤが晴れずジョージ君にキツく当たってしまった。
こんな事はダメだと思いながらも止められなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
午後の訓練が終わり帰宅して屋敷の自室で考えた。
私は何をしているのだろうか? 意味のわからない感情に振り回されてどうする。これはまずい状況かもしれない。軍人として自分を律しなければ。
それならば軍人として、明日からはジョージ君ではなくジョージさんと呼ぶ事にするか。意識して軍人としてジョージ君と付き合えば問題が無くなるはずだ。
何か胸に痛みを感じたが、気にせず就寝した。
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