第22話 何となく冷たいスミレさん

魔導団第一隊修練部14日目。

 今日も魔導団第一隊の人を修練のダンジョンに連れて行く予定だ。

 朝の8時にダンジョン前に行くと若い男性が待っていた。俺に気付くと近寄ってきて頭を下げる。


「魔導団第一隊所属のカタスです。今日はよろしくお願いします」


 カタスさんは挨拶をして柔和な笑みを浮かべた。年齢は30歳までいってなさそう。とても穏やかそうな男性だ。今日は問題がなさそうだな。


「魔導団第一隊修練部のジョージです。こちらこそよろしくお願いします。カタスさんは体内魔法の身体能力向上は問題なくできますか?」


「騎士団ほどではありませんが、何とか大丈夫です。それに体外魔法との切り替えはとても時間がかかります」


「それなら今日は身体能力向上だけを行ってもらえば良いですよ。戦闘は全てこちらでやります」


「心強い言葉をありがとうございます。足を引っ張らないように頑張ります」


 俺はカタスさんを伴って修練のダンジョンに入った。

 カタスさんは地下1階、地下2階と特に問題なく付いてきている。身体能力向上をしっかり使えるようだ。今のところは大丈夫だけど体力が持つかな? 騎士団第一隊の人は毎日訓練で1時間走っているからなぁ。

 地下3階に降りた。昨日はオーガのモンスターハウスに向かう時に遭遇したオーガで問題が生じたけど、今日は大丈夫だろうな。


「カタスさん。オーガに魔法を撃たないでくださいね。危ないですから」


「了解です。ジョージさんの邪魔は絶対しないよ。僕もサイファ団長は怖いからね」


 どうやらサイファ団長から相当釘を刺されてきているみたいだ。ちょうど前方に1体のオーガの魔力反応があった。


「オーガが前方にいます。すぐに倒しますね」


 俺は丁寧に詠唱を始める。


【火の変化、千変万化たる身を矢にして穿うがて、ファイアアロー!】


 俺の右手から火の矢が1本出現するやいなや、オーガに向かっていく。

 一瞬でオーガの右眼球に刺さる。崩れ落ちるオーガ。


「こりゃ凄いな。コントロールも凄いけど、魔法の速度が桁違いだね。普通の風の魔法より早いんじゃないか」


 風の属性の魔法の特徴は不可視と速さだ。その風の魔法より速いと褒められると嬉しくなるね。


「魔石を拾って進みましょうか。オーガのモンスターハウスに行きますよ」


「おぉ! オーガのモンスターハウスなんて普通は入れないから楽しみにしてきたんだ」


 オーガのモンスターハウスなんて普通の人には一生縁が無い場所だよな。楽しみにしているか。なるほどねぇ。

 オーガのモンスターハウスでは、いつも通りにファイアアローの2連発で全滅させた。呆気に取られているカタスさん。


「カタスさん。魔石を拾ったら、次に行きますよ」


「いやぁ! 興奮したよ! ジョージさんの魔法は規格外だね。オーガが雑魚になっているじゃないか! 1発目のファイアアローは正に芸術だよ!」


「今日はあと2回オーガのモンスターハウスに入りますよ。それより魔石を拾ってください」


 慌てて魔石を拾い始めるカタスさん。まぁ良い人なんだろうな。

 モンスターハウスにオーガが復活するまでは地下3階でサーチ&デストロイを行う。

 俺の魔法を見る度に感嘆の声を上げるカタスさん。ここまで称賛されるとやり難く感じる。まぁマールより良いか。基本的に騎士団より魔導団のほうが変わり者が多いからな。


 騎士団第一隊と同じように、カタスさんは最後まで付いてこれた。

 身体能力向上をずっと続けながら4時間走るのは体力的にキツいと思うんだけどな。

 カタスさんとの修練のダンジョンで得たオーガの魔石は100個を超えた。これは騎士団第一隊を連れて行った時と変わらない量だ。

 カタスさんは修練のダンジョンを出た時には流石にグッタリしていた。冒険者ギルドで魔石を納品してから、カタスさんと冒険者ギルドの食堂で昼食を一緒に食べる。


「ジョージさんは毎日あんな事をしているのか? 体力と魔力はキツくならない?」


「慣れましたよ。それにダンジョンでレベルアップもしますし。それにまだこれからです。午後には騎士団第一隊との近接戦闘の訓練がありますから」


「こりゃ参った。頭が下がるよ。僕には無理だな。それはそうと、マールが迷惑をかけたみたいだね」


「あぁ、もう別に気にしてないですよ。ただダンジョン内で危険は避けたいですね」


「そっか、それなら良いんだけど、マールは少し焦っているんだ」


「焦っている?」


「マールの実家のボアラム家は没落していてね。ボアラム家がマールにかける期待が凄いんだ。戦争で戦功を立てて欲しいんだろうね」


 ボアラム家も侵略戦争推進派なのかな。無理して戦争しなくてもって思うんだけど、いろんな思惑があるんだろうな。


「僕は元々平民だから気楽だけどね。ジョージさんと一緒さ。魔導爵で満足だよ」


 俺も前は魔導爵で満足してた。伯爵になる事でスミレさんとの結婚が少しだけ現実味が出てきたからなぁ。

 あ、でも不老の問題は放置していた……。ちゃんと考えないとな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 午後からはいつも通り近接戦闘の訓練をした。

 なんだろう。何となくスミレさんが冷たかった。何か俺、気に触る事をしたかな? 全く心当たりがない。こんな日もあるか。


 訓練が終わって宿舎で不老について考えてみた。

 分かった事は悩んでもしょうがないって事だ。結局なるようにしかならない。自分の我儘に生きるのが良いのかなって思った。

 よし! 俺の座右の銘を【何とかなるさ】に変えよう。明日はスミレさんの機嫌が直っていたら良いなぁ。

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