第16話 カイト皇太子からの召喚


魔導団第一隊修練部6日目。

 今日は幸せのお休みだ!

 うん……。空元気だ。


 昨日のサイファ団長の不老の話が重かった。

 同じ時を過ごす人と結婚したいか……。どうすれば相手も幸せで俺も幸せな結婚ができるのだろう。簡単には答えがでない。いやきっと正しい答えはない。


 今日はどうしてようかな? 外をぶらつく気持ちにもなれないや。ベッドに横になりながら魔力循環と魔力ソナーの併用でもずっとやってるか。

 その時ノックの音がした。

 休みの日に誰だ? ドアを開けるとエクス城の文官の制服を着ている人がいた。


「ジョージ・モンゴリだな」


知らない人だ。


「そうですけど、なにか?」


「カイト皇太子殿下よりエクス城への召喚状をお持ちした。できる限り迅速にご用意をお願いしたい」


 カイト皇太子? 召喚状? なんだ?

 行きたくないけど、そういうわけにはいかないな。


「わかりました。今から準備致します。少々お待ちください」


「私は外の馬車でお待ちしておりますので、よろしくお願いします。それでは」


 慌てて魔導団の制服を着る。仕事関係なのか、プライベートなのかわからないからだ。

 顔を洗い、寝癖を直して準備完了。宿舎の外に止まっている馬車に飛び乗る。すぐに馬車は発車する。


 いったい何の用なんだろう。まぁ困ったらサイファ団長の名前を出して切り抜けよう。

 俺の重い心とは違って、空は快晴だった。


 エクス城では来客用の部屋に案内された。

 メイドがお茶を淹れてくれた。10分くらい待っているとカイト皇太子が護衛を引き連れやってきた。

俺 は席から立ち上がり敬礼して挨拶する。


「エクス帝国魔導団第一隊のジョージ・モンゴリです。召喚の指示に従い、エクス城に登城致しました」


 カイト皇太子は鷹揚に頷き、俺に着席を勧めた。カイト皇太子は俺の正面に座る。護衛はその後ろで俺を見つめている。


 メイドが改めてお茶を淹れ直してくれた。


「そんな堅苦しい挨拶をお前に求めてないぞ。この間の会合のような言葉遣いで良い。別に不敬でも罪に問わん」


 う〜ん。まだ召喚理由が分からん。本当に言葉遣いを普通にして良いのか? まぁ良いか。


「それは助かります。育ちが悪いのでこちらのほうが気が楽です。それで今日はどのような用事がありましたか?」


「この間、お前が言っていたな。もし戦争になったら、俺がエクス軍総帥となる可能性が高い。その時は魔導団と騎士団が俺の指揮下に入るとな」


「確かに言いました。事実ですから」


「そうだな。事実だ。戦争になったら主力は魔導団と騎士団の第一隊になる。魔導団第一隊のエースがどの程度の戦力なのかを知っておく必要があるだろ。お前がどの程度強いのか見学がしたい」


「わかりました。別に構いませんがどうすれば良いですか?」


「今、お前は魔導団第一隊修練部の部長だな。午前中は修練のダンジョンの地下3階に騎士団を連れて行っているんだろ。それに俺を連れていけ」


「修練のダンジョンは国の管理となっております。勝手に探索する事ができません。できれば上司の魔導団団長サイファ団長に許可を取っていただくと嬉しいです。ただ平日の午前中は既に予定が埋まっております。平日の午後か、今日の様に休日がよろしいかと思います」


「別に誰も入っていないなら、今日の午後でも問題無いだろ!」


「俺の権限外の事を言われても困ります。それに俺の実力をみたいなら修練のダンジョンに行かなくても平日の午後に修練場で騎士団第一隊と訓練しておりますので、そちらを見学したほうが良いかと思いますが」


「俺は実戦を見たいのだ。訓練など見ても他の奴と変わらないじゃないか」


「実戦を見たいというなら、やはり修練場の訓練の見学ですね。実戦形式の模擬戦や俺特有の多人数との模擬戦もありますから。修練のダンジョンのオーガ討伐なんてただの作業ですよ」


「ただの作業じゃない事をやれば良いだろ。そうだな、地下4階に降りるとかな」


「お断りします。地下4階の調査はしない事になったはずです。そのような考えを持っている人と修練のダンジョンで2人パーティを組む気はございません」


「なんでそんなに地下4階に行くのを嫌がる。オーガを倒しまくる剛の者とは思えないな。もし地下4階の魔物が地下3階のオーガよりレベルアップや魔石の取得の効率が良かったらどうするのか? ある程度の危険をおかさないと大きな利益は得られないものだぞ」


「俺は一度地下4階で魔力ソナーを使いました。その時に魔物の魔力反応を感じました。その瞬間震えましたね。あの魔物には人間が手を出してはいけないと本能的に思いました。カイト殿下がどうしても修練ダンジョンの地下4階に行きたいのならば俺以外の人とパーティを組んでください。意見の不一致があるパーティでダンジョンに入るのはとても危ない事です」


「……。分かった。今日のところは修練のダンジョンの事は諦める」


「カイト殿下は何故そんなに地下4階にこだわっているのですか? 魔導団と騎士団のレベルの底上げなら地下3階のオーガでも充分と思いますが。このまま続けていけばそれなりの速さで実力の底上げができますよ」


カイト皇太子の顔が険しくなる。


「それなりの速さでは納得ができない! できるだけ早く強さの底上げをして欲しいんだ!」


 口調がキツくなった。


「西のロード王国がこちらに攻めてくる徴候ちょうこうでもありましたか? それならば急ぐ必要があるかもしれませんが」


「ロード王国がウチに攻めてくる?そんな事あるわけないだろ! こちらから攻め込んでやるんだ!」


「カイト殿下は侵略戦争推進の考えなんですね。私はエクス帝国が攻められたら守る為に戦いますが、他国を攻めるために人殺しはしたくないですね」


「お前は自分の力が分かっていないのか? 個人の武勇では並ぶものが無いと言われているぞ。それに魔導団や騎士団の戦力の底上げができる。お前は英雄になる資質があるんだ。お前が英雄になればロード王国への戦争も皆んな前向きになる。どうして英雄になろうとしない」


「人殺しで英雄になりたいとは思いません。向こうから攻めてくるなら戦いますけど。俺を侵略戦争の英雄に祭り上げようと画策しないでください。話し合いの外交の場で戦力カードとしていただくのは良いですけど」


「力を持っているものは、それ相応の責任が生じるんだぞ」


「ハハハハ。そういう考えは間に合っています。思考はもっと自由にありたいと思います。簡単に言えばクソ喰らえ! って事ですね」


 眉を顰めるカイト皇太子。俺はぬるくなったお茶を飲み干した。


「これ以上話してもお互いのためにもならないと愚考しますが、この辺で退散致しましょうか?」


「そうだな。今日は城まで来てくれて大儀だった。話し合った事でお前の考えが分かって良かったと思う。今度、午後の修練場での訓練を見学には行かせてもらうよ」


俺は頭を下げて部屋を後にした。

何かついてない休みになるのかな?

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