第15話 同じ時を過ごす人……。

魔導団第一隊修練部2〜4日目。

 午前中のパワーレベリングという名の修練は順調だ。今のところ騎士団第一隊としかパーティを組んでいない為、体力的に問題がなかった。

 騎士団第一隊は毎日訓練で全身金属鎧で1時間走っているからな。魔導団の人と組んだらどうなるのか。


 お昼はいつも一緒にダンジョンに行った人と冒険者ギルドの食堂で食べている。こういう人間関係構築が人生には大事だよね。


 午後からの訓練は厳しさが増してきた。スミレさんの指示でより負荷をかけるようになった。

 全身金属鎧の1時間の走り込みは、1番重い鎧を着て、重石を入れたリュックサックを背負って行っている。素振りをするのにも重い剣を使うようになった。

 模擬戦は俺だけ休み無く連続して行う。相手もより激しく攻めてくる。俺だけの特別訓練である剣で多人数を相手にファイアアローを撃つ訓練でも、今まで5人を相手にしていたのが10人に増えた。


 いったい俺は何になりたいんだろう?

 疑問に思ってしまいながらも、周囲に流されて訓練をこなしていく俺。スミレさんが言っていた【やりたい事】をしっかりと持っていないからだな。改めて大事な事なんだなと感じる。

 それでも朝と晩の魔力循環と魔力ソナーの併用の自主訓練は続けてしまう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


魔導団第一隊修練部5日目。

 やったー! 明日は休みだ! 今日1日頑張ろう!


 午前中のパワーレベリングを終え、冒険者ギルドの食堂で昼食を食べて魔導団本部に行く。休みの前日の午後は修練部活動を団長に報告する時間に設定されている。


 相変わらず魔導団の団長室の扉は厚い。プレッシャーがキツいな。深呼吸をしてノックをする。

 中から返事があったため入室をした。


 奥のデスクに サイファ団長が仕事をしていた。


「あぁ、もうそんな時間なのね。ちょっとそこのソファに座って待っていてね」


 来客セットのソファに座り一息つく。

 忙しそうに働いているサイファ団長。改めて見ていると本当に美しい人だなぁ。緑色の長い髪、涼しげな目元、スッと鼻筋が通っている。顔のパーツが完璧な位置に配置されている。

 エルフの神秘だなぁ。

 サイファ団長に見惚れていると目があってしまった。

 クスッと笑うサイファ団長。


「どうしたの? ジョージくん。そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど……」


「あ、いえ、失礼しました」


「ま、良いけどね。他人の視線には慣れているから。これでキリが良いかな。それでは修練部の報告を聞きますか」


 他人の視線に慣れているなんて美男美女じゃないとできない発言だな。まさにエルフクオリティー!


「えっと、では報告させていただきます。修練のダンジョンに連れて行ったのは今週は5人です。全てにおいてモンスターハウスを3回全滅させております。全員が騎士団第一隊所属のため体力があったため走り続けてオーガ討伐ができました。今後は魔導団の方を受け入れた時にそのスピードに付いてこれるかが懸念事項です」


「まずは問題無くスタートが切れて良かったわ。魔導団第一隊の隊員ならば身体能力向上も少しはできるから、何とかなるかな? 無理そうならスピードを落として対応してね」


「午後の訓練は充実しております。スミレさんの指示により日々訓練の負荷をかけております。自分の成長を実感しているところです」


「それは重畳ちょうじょうですね。貴方の近接戦闘の強化は魔導団第一隊としては重要事項です」


 俺の近接戦闘の強化が魔導団第一隊の重要事項?


「そうなんですか?」


「あら自覚がなかったのかしら。せっかくだから説明しますね。魔導団第一隊と騎士団第一隊は外部との戦闘を主体にする部隊です。まぁ他国との戦争ですね。貴方は戦争の戦力として期待されているって事です。その為に1番苦手な近接戦闘を訓練しているんですよ」


 第一隊に移ったから戦争があったら人殺しをしないとダメか。まぁしょうがない。戦争が無くなる事はないもんな。


「了解致しました。戦争になったとしても実戦で活躍できるように準備致します」


「そんなに肩に力を入れないでね。今のところは戦争はないから。それにエクス帝国の戦力が上がれば、他の国が攻めてくる可能性が下がるんだから。貴方はそれに寄与しているのよ」


「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」


「あ、それと貴方の陞爵の日が決まったわ。6月1日の【青の日】ね。なんでも100年くらい前に爵位を返上した伯爵家を再興させるそうよ。名前はグラコート家ね。陞爵後はジョージ・グラコート伯爵になるわ。確かジョージはご両親がいなかったかしら?」


「はい。父は学生時代に亡くなっております。母は妹を連れて蒸発しております。祖父や祖母もいないです」


「じゃ、今は天涯孤独の身ってことかしら? 私を家族にしてみないかしら?」


「ありがたい申し出ですが、冗談にしては笑えないですよ」


「あら、結構本気よ。私はエルフだから普通の人間と結婚するのにはハードルが高いのね。どうしても先に死なれてしまうから。できれば同じ時を過ごす人と結婚したいわ」


「まだ俺が不老かどうか分からないじゃないですか?」


「あの後、エルフの里の研究者に連絡したのよね。その研究者は魔力制御の優劣と老いについて研究しているの。たくさんの人間のサンプルデータを持っていたわ。その結果から考えると、九分九厘、貴方は不老になっているそうよ」


 そっか……。やっぱり不老になっているのか。喜んで良いのか悲しんで良いのかわからないな。

 同じ時を過ごす人か……。もしスミレさんと結婚できたとしても2人とも幸せになれるのかな?それとも2人とも不幸せになるのかな?

 不老についてゆっくり考えてみよう。

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